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【読書メモ】報酬管理:『新・マテリアル人事労務管理』(江夏幾多郎・岸野早希・西村純・松浦民恵編著)

『新・マテリアル人事労務管理』の第7章「報酬管理」も大変興味深い内容でした。ここでの報酬は外的報酬を指していますが、改めて、報酬に関するデータからは、日本社会というマクロな側面と企業というミクロな側面でさまざまなものが現れると感じました。

日米欧の賃金決定基準の相違

日本企業における賃金決定基準は特異であるとよく言われます。実際、そうなのでしょうが、賃金とは企業と個人の関係性のみならず市場における個人の位置付けで決まるという意味合いもあります。そのため、日本だけが特異ということではなく、それぞれの社会において固有の側面があると言えます。

第48項「賃金の決定基準」では、労働市場と企業と個人との関係性から三つのタイプに分けて解説されています。これが実にわかりやすいのです!

タイプ①
労働市場の影響が大きく、企業組織は基本的には労働市場の世間相場に基づいて賃金を決定するパターン。(例)アメリカ

p.82を基に一部加工

タイプ②
労使団体等によってコントロールされた労働市場に基づいて、企業組織が賃金を決定するパターン。(例)ドイツ、北欧諸国

p.82を基に一部加工

タイプ③
労働市場の影響が小さく、企業組織が自ら設定したルールに基づいて賃金を決定するパターン。(例)日本

p.82を基に一部加工

日本の賃金が伸びづらい理由

第49項「賃金水準の国際比較」では、OECD加盟諸国の2021年度の平均賃金比較が載っており、日本の平均賃金の低さがはっきりとわかります。加えて大変興味深いのは、2000年から2021年までのアメリカ、ドイツ、イギリス、フランス、スウェーデンと比較した日本の平均賃金の推移です。この図を見ると、日本だけが平均賃金が伸びず差が大きく拡大していることがよくわかります。

2017年から2021年の5か年の推移を取り上げると日本の賃金の上昇率がそれなりに高くなっている(アメリカやイギリスよりは低いが、ドイツ・フランス・スェーデンよりは高い)ようですが、長期的なトレンドで日本の賃金が伸び悩む理由には大きく分けて3つあると指摘されています。以下は、p.85で記載されている内容の要約です。

  1. 雇用形態間の賃金格差が大きく、さらに多様化が拡大しているため平均賃金が上がりづらい

  2. 企業が収益性重視の経営をとっており、利益分配において従業員よりも株主を重視し人件費が抑制される傾向がある

  3. 企業内労働組合が賃上げではなく雇用維持を重視している

給与明細はおもしろい!?

第50項「給与と給与明細」では、給与明細にはその企業の賃金に対する考え方が現れる、という指摘があります。転職を何度も行ってきた身としてはとても共感できる指摘で、新しい企業に入るたびにその企業独特の項目を興味深く読んだものです。


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