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【読書メモ】プロジェクトマネージャはどのように熟達段階へと成長していくのか(三好きよみ著):『働くひとの生涯発達心理学 M-GTAによるキャリア研究 vol.2』[第5章]

「SIerのプロマネって大変ですよねー」とは言われながらも、大変な状況の中でどのように成長していくのかについてはブラックボックスになっていたのではないかというのが著者の課題意識です。たえざる技術進化に対応し、厳しい納期の中でプロジェクトの管理とメンバー育成を同時に行う熟達段階のIT系プロマネを対象とした本調査から私たちが学ぶものは多いと思います。

プロマネ着任初期から、中堅の段階を経て、熟達へと至るプロセスについて可視化した結果図が以下の通りです。なお、同じ結果図が、著者が共著で出されている三好・岡田(2017)にあるのでそちらを添付していることご承知おきくださいませ。

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まず全体像で大変興味深いのは、{人間性の成長プロセス}というカテゴリーグループを見出している点です。プロマネの仕事で焦点があたりがちなのは、プロジェクトを回すという実践力や新しい知識やスキルのキャッチアップでしょう。もちろんそうしたものも大事なので図の下半分に出てきていますが、{実践力の向上プロセス}は{人間性の成長プロセス}と相互作用しながら熟達へと繋がっていくという関係が描かれています。

①着任初期の段階、②中堅の段階、③熟達の段階、のそれぞれでプロマネがどのようなプロセスを経るのかについて、ポイントだけ見ていきます。

①着任初期の段階

着任後のタイミングでは、メンバーからマネジャーへのトランジションの課題に直面すると位置付けています。メンバーとしてできていたことがマネジャーになると時間をかけられないための不全感や、メンバーに対する関与のあり方で失敗をするといった葛藤のありさまが見えてきます。

②中堅の段階

中堅の段階になっても、プロジェクトの管理でもメンバーの育成でも失敗がつきものであるという点が見出されています。この認識は大事なのかもしれません。というのも、プロマネになって三年が過ぎても失敗が多いということで自己効力感を失う方も多いのではないでしょうか。

こうした方々が、失敗は中堅の段階でも普通であり、その状態性を受容していかに自身にとっての糧にするかに焦点を変えるということが大事であると、この結果図から解釈できます。そのために、周囲からの支援によってプロマネの振り返りや気づきを促すことが大事であると著者は結論づけています。

③熟達の段階

中堅の段階までは、プロジェクトチームが顧客に対して対応するという関係性でしたが、熟達の段階になると顧客と共にプロジェクトを進め顧客から学ぶという関係性になる点が興味深い点の一つです。

共に学ぶという関係性は顧客だけに留まりません。メンバーを育成するという観点についても、単にプロジェクトを遂行するためのメンバー育成というだけではなく、次のプロマネを養成するという世代継承性が見られる点も示唆的です。

まとめ

プロマネという役割や働き方は、何もITの現場だけではありません。年度での業務管理よりも、プロジェクトにおける業務管理の方が職務遂行の実態に合っている職場は増えてきています。こうした状況において、プロマネの熟達プロセスに焦点を当てた本研究が参考になる職場は多いのではないでしょうか。


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