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【読書メモ】語りとナラティブとキャリア構成理論。(2/9):M・サビカス著『サビカス キャリア・カウンセリング理論』(第2章)

本章では、キャリア構成理論の考え方を丁寧にサビカス本人が解説してくれている非常に濃ゆい内容です。むちゃくちゃ精緻に書いてくれているのですが、それゆえに内容も盛りだくさんなので繰り返し読みたい章です。

章の冒頭に、サビカス先生の考え方の要諦がシンプルにまとまっているので、少々長いですが引用します。

 キャリア構成理論は、自己を構成することを課題とみなす。人は、意識を自覚するという人間独自の能力を用いて経験を内省し自己を構成する。自意識、あるいは意識についての意識には、言語が必要である(Neuman and Nave, 2009)。言語がなければ、内省は起こらない。そして、自己を形成するのは再帰的思考なのである。言語は自己を形成することに加え、主観的キャリアも形成するため、キャリア構成理論における決定的な要素となっている。(26頁)

ここでのポイントはざっくり言えば三つあります。

①言語を介して現実もキャリアも構成される

デューイやミードといったプラグマティズム関連の方々がおっしゃっているとおり、内省とは個人に閉じたものではありません。内側を省みる際には、私たちは言語を用います。言語とは、ある社会において他者と意思を疎通するためのものであり、私が内的な感情を「iagesojaw;eaiew」と表出しても通じませんが、「ちょっと図書館の中は暑いなぁ」と表現したらみなさんにも通じるでしょう。

言語とは社会と私との相互作用が伴った開かれた存在であり、言語を用いる以上、内的なプロセスである内省であっても、それが言語を介する以上、社会的な意味合いがそこには付与されます。こうした捉え方は、社会構成主義のものの見方ですので、社会構成主義を入門的にざっくりと理解されたい方は以下をご笑覧ください。

②キャリアとは語られるものである

言語を用い、ストーリーとして語ることによって、自分自身のキャリアテーマが明らかになります。立場を変えれば、カウンセラーはクライエントに自身のストーリーを語ってもらうように介入することでクライエントのキャリアテーマが明らかになると言えます。

ここでポイントとなるのは、実証主義のカウンセラーが類型や特性といった抽象的な話に落とし込もうとするのに対して、キャリア構成理論等を基にする構成主義(構築主義)のカウンセラーはクライエントのストーリーの個別具体的な内容に寄り添いながら降りていく、というアプローチです。過去の具体的なエピソードを語ってもらい、その現時点における意味合いとして再構成するというプロセスが大事であるとされています。

③語りとは一生続くものである

いったんキャリアテーマが生成的に出てきたら、そのテーマをひたすら追究すれば良い、と考えるのはマッチング型のアプローチです。私にとって大事なものは客観的に存在し、それに最も適した合理的な選択肢としての職務を選べば良いと捉えることが機能しづらい状況で、ある一時点での唯一無二(に見える)キャリアテーマに固執するのはあまりに危ういと言えます。

そのため、私たちの語りは一生続くものと考えるべきでしょう。アイデンティティは生涯発達するものであるとしたのはSuperであり、私たちは、現在進行形でアイデンティティを更新しながら、現在進行形のライフ・ストーリーに既存のアイデンティティを適応させて統合していく必要があると言えます。


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