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【論文レビュー】シャインとクランボルツのキャリア論の背景はどのように異なるのか?:金井(2010)

プランドハプンスタンス理論(Planned Happenstance Theory)といえば花田先生のイメージが強いのですが、日本でもそれなりに受け入れられた理論のため、他の先生方が解説されているものもあります。調べてみたら、エドガー=シャインのイメージが強い金井先生も論文内で書かれているものがありました。本論文では、なんと、2001年5月25日に慶應の三田キャンパスで行われたクランボルツの来日講演からの示唆について書かれています!ハタチの私も花田ゼミの学生として会場の片隅にいたのですが、当時は英語のヒアリングができなかったので記憶に全くなく、金井先生の解説のおかげで理解することができました。

金井壽宏. (2010). キャリアの学説と学説のキャリア. 日本労働研究雑誌, 52(10), 4-15.

シャインとクランボルツの対比からの邪推

まず興味深いのは、金井先生が花田先生がされたシャイン(東海岸)とクランボルツ(西海岸)の対比について述べられている点です。

慶應での会合でもうひとつ印象深かったのは,この会合を企画・実現され,当日の総合司会であった花田光世教授が,カリフォルニアと言えば明るく気楽な西海岸アプローチ(クランボルツはパロアルトのスタンフォード大学に勤務)と,真剣で思いつめたような東部エスタブリッシュメントの生真面目な東海岸アプローチ(シャインはボストンのMITに長らく勤務)というように対比されたことだった。一字一句正確な再現はできないが,言い得て妙であった。

p.9

こういうたとえを着想される花田先生もすごいですが、それを講演の日から約10年も経った後の論文で正確に書かれる金井先生もすごいです。この東海岸と西海岸の対比という構図はなかなか示唆的です。

花田先生のキャリアの捉え方は、バウンダリーレスキャリアとプランドハプンスタンスとから統合されたものと位置付けられそうですが(そう言ってもご本人からは「違うよ。笑」と言われそうですが私はこのように理解しています)、バウンダリーレスキャリアは1990年代のシリコンバレーでの組織にとらわれないキャリア構築がベースになっています。さらにいえば、花田先生が博士号を取られた南カリフォルニア大学ですので、花田先生のキャリア観は西海岸的なのでしょうね。

プランドハプンスタンスの位置付け

ちょっと脱線しましたが、金井先生はどのようにプランドハプンスタンス理論を位置付けたのでしょうか。

来し方の内省と内的キャリアを重視するシャイン説,キャリアは節目(トランジション)サイクルを回ることを重視するニコルソン説,そして実行段階では勢いに乗り,行動するなかからよき偶然を活かすことを強調するクランボルツ説とが,うまく統合可能であるということがわかってきた。

p.10

金井先生はキャリアを節目と漂流(ドリフト)という二つの段階に分けておられます。節目のデザインではWhatをシャインでHowとしてのプロセスをニコルソンで行い、漂流においてはクランボルツを用いるという区分けをしているのでしょう。

漂流におけるプランドハプンスタンスの捉え方が、金井先生と花田先生とでは少々(だいぶ?)異なります。日常(漂流)においては成り行き任せではなく意図的に工夫を行ってバリューを変容させる(ストレッチ)ことを重視する、という花田先生の解釈は、以下の論文で書かれていますのでご関心のある方はお読みになってみてください。

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