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【論文レビュー】キャリア自律とは何か。:花田・宮地・大木(2003)

2000年以前の伝統的なキャリア理論では、外的な変化に伴う転機という不安な経験をどのように乗り越えるのかというトランジション論が主流でした。それに対して、シリコンバレーを中心にして、1990年代半ばから、自律的な社員による日常的な能動的行動を重視するプランド・ハプンスタンス論が提唱されました。本論文におけるキャリア自律とは、トランジション論とプランド・ハプンスタンス論とを後者に力点を置いて統合したものです。

花田光世, 宮地夕紀子, & 大木紀子. (2003). キャリア自律の新展開--能動性を重視したストレッチング論とは. 一橋ビジネスレビュー, 51(1), 6-23.

ではキャリア自律における主な三つのポイントを対比的に見ていきます。

(1)転機だけではなく日常を重視

転機をキャリアの節目と捉えて対応することはもちろん重要です。しかし、いつ訪れるかわからない転機という非日常経験だけを対象とするトランジション論だけで、現代のビジネスパーソンは対応できるのでしょうか。

こうした問題意識の基に、日常における能動的行動をキャリア自律では重視します。転機という外的な変化を乗り越える対象としてネガティヴに捉えるトランジション論に対して、プランド・ハプンスタンス論は、内的な変容によってむしろ変化を創り出していくというポジティヴなアプローチと言えます。環変化に対して受け身的に対応するだけではなく、内的な多様性を基にして能動的に対応するというヘルシーな考え方なのです。

(2)トランジションではなくストレッチングを重視

ある段階から次の段階へと移行する(トランジション)という考え方は、将来の予見性が高い社会においては機能する状況が多いです。つまり、静的な将来像に向けて合理的なキャリアパスを逆算して、求められる知識やスキルの習得を粛々とこなせば外的キャリアをすすめることができたわけです。

しかし、本論文の発刊年よりもさらに変化の速度が激しくなりVUCAと呼ばれる現代においては、自ら職務をストレッチしたり価値観をストレッチするというストレッチングという考え方が求められます。端的に言えば、合理的な最適解が刻一刻と変わる状況であれば、ある時点において「正解」であった知識・スキルの習得が数年後には陳腐化するため、自分自身を日常的に変容させる習慣づけこそが重要になるのです。

(3)自立(ジタチ)ではなく自律(ジリツ)が大事

この一段落だけ閑話休題的に書きます。自立と自律のくだりは、花田研あるあるの話でして、ハタチの頃によくグルワで話していたなぁと懐かしく思いました。ちなみに僕らは、自立=ジタチ、自律=ジリツと呼んでました。ちょうどその倍の年齢になった今(信じられません…)、読み返すと結構深いことが書かれてあり、ビビってます。本題に戻ります。

本論文では自立と自律を分けて捉えています。自立とは、自分の意見や想いを持って主張しているけれども、個人の単なる主張・満足で終わってしまっている状態です。その結果、目標を宣言したことに安心し現在の状態性に自己満足して、むしろ現状からの変化から逃げる状態であり、キャリア自律思い込み症候群と著者たちは名付けています。

他方で、キャリア自律における自律とは何でしょうか。自律できている人材とは「他者のニーズを把握し、それとの調整をはかりながら、自分自身の行動のコントロールを行い、自らを律しながら、自己実現をはかることのできる人材」(19頁)としています。

研究上の備忘録

キャリア自律では、個人のキャリア意識を更新しながら日常的な能動的行動を重視します。こうした個人の想いと行動とが、組織における革新行動を促すという側面もあるのではないでしょうか。言い方を変えれば、組織のためと個人のためとを統合できるプロセスを見出すことができるのではないかなと思います。

おまけ

花田論文を扱うと独特の緊張感がありますね(笑)。理解しきれずに書くと、学部・修士とお世話になった花田先生に申し訳ないですし、さまざまなご指導をいただいた先生や先輩に顔向けできないし、同期や後輩から茶々を入れられそうですので。ひよって字数を通常の倍近く割いたので、それなりのレベルには持って来れたと願うばかりです。


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