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【論文レビュー】キャリア構築理論とキャリア・アダプタビリティ:Savickas(2013)

キャリア・アダプタビリティ(Career Adaptability)という概念は、サビカス先生のキャリア構築理論(Career Construction Theory)の中に位置付けられます。スーパーホランドをどのように受け継ぎながら、サビカスがどのようにキャリア構築理論を主張するに至ったのかがよくわかります。また、ヴィゴツキーの名前も出てくるなどもりだくさんな内容です。

Savickas, M. L. (2013). Career construction theory and practice. Career development and counseling- Putting theory and research to work, 2, 144-180.

成熟ではなく適応

スーパーとかクライツをレビューしてきたのでいつも気になってしまうのですが、サビカスは冒頭で、成熟ではなく適応が大事だ!という論陣を張っていることを高らかに宣言しています。

… the theory views careers from a contextualist perspective, one that conceptualizes development as driven by adaptation to an environment rather than by maturation of inner structures.

p.147

サビカスは、スーパーやクライツとの共著も多くリスペクトしていることが窺えるのですが、でもだからこそ独自の色を出さねばということで、キャリア成熟ではなくキャリア・アダプタビリティだ!と言わんばかりの宣言を冒頭で述べているのでしょうか。

ナラティヴ・キャリア・カウンセリング

キャリア構築理論は社会構成主義を基底に置いていて、この理論に基づいたナラティヴ・キャリア・カウンセリングという手法をサビカスは提唱しています。この順序は逆なのかもしれず、サビカスはカウンセリングという職務をずっと続けて来ている方なので、ナラティヴ・キャリア・カウンセリングの実践知を理論として結実させたらキャリア構築理論になった、ということなのかもしれません。

… language provides the words for the reflexive projects of making a self, shaping an identity, and constructing a career.

p.148

ナラティヴなアプローチを重視しているため、言葉が大事だとしています。言葉によってキャリアが構築されるというわけです。

キャリアにアップもダウンもない

ナラティヴに構築される存在なので、キャリアには客観的に高いとか低いということはないとしています。

… career construction theory views career as a story that individuals tells about their working life, not progress down a path or up a ladder.

p.150

このフレーズはビジネス書でも言われることがありますが、サビカスのキャリア構築理論では社会と相互作用する個人の物語としてのキャリア構築という捉え方をするためにキャリアにアップもダウンもない、という言い方をしています。

(1)Self as Actor:主体としての私

ここから、サビカスは発達段階として、(1)Self as Actor、(2)Self as Agent、(3)Self as Author、という三つに分けて説明をしています。私の興味・関心から結論的なものを先に言えば、キャリア・アダプタビリティは(2)に該当します。

(1)Self as Actorでは、幼い頃のロールモデルから今の自身にとっての意味合いを探究したり、HollandのRIASEC(六角形モデル)からの自身の相互作用のあり方の特徴を見出そうとします。後者についてもう少し深掘りします。

ヴィゴツキー登場

サビカスは、HollandのRIASECを重視しています。固定的なタイプ分けに使うというのではなく、社会的に構築された態度やスキルの特徴に対して、自身のありようがどのように近いのかを捉えるために用いることを勧めています。この文脈でヴィゴツキーが登場します。

… a self is built from the outside in, not from the inside out as personality trait theorists would have it. As Vygotsky (1978) noted, "There is nothing in mind that is not first of all in society" (p.142).

p.155

引用の意図は、ピアジェのような心理構成主義の立場ではなく、ヴィゴツキーのような社会構成主義で捉えるのですよ、ということを言いたいからでしょう。その意味合いで、インサイド・アウトではなくアウトサイド・インだ!と述べているのだと考えられます。

(2)Self as Agent:対応する私

対応する対象として主に三つありますよとサビカスは述べています。

Career construction theory identifies three major social challenges that prompt changes: vocational development tasks, occupational transitions, and work traumas.

p.156

こうした対応のポイントがadaptation(適応)であり、そのための能力としてサビカスが捉えた概念がキャリア・アダプタビリティです。

… an individual's psychosocial resources for coping with current and anticipated vocational development tasks, occupational transitions, and work traumas that, to some degree large or small, alter their social integration
(拙訳:社会との接合にある程度の影響を与える、現在および将来的に予想されるキャリア開発のタスク、職業上の移行および仕事上のトラウマに対処するための個人の社会心理的なリソース)

p.157

微妙にオリジナル論文(Savickas 1997)と定義を変えてきていますが、概ね一緒と捉えて大丈夫でしょう。オリジナルの定義を知りたいマニアックな方は以下をご笑覧ください。

適応するための能力としてのキャリア・アダプタビリティには、Concern、Control、Curiosity、Confidenceという四つの下位次元があります。それぞれ、どのような態度や意識でどのように対応するのかといった特徴を簡潔にまとめてくれている大変ありがたい表を載せておきます。

p.158

(3)Self as Author:物語る私

キャリアをダイナミックなものとしてサビカスは捉えていて、そのため物語ることでキャリアを構築するものであると主張しています。

The essential meaning of career and the dynamics of its construction are revealed in self-defining stories about the tasks, transitions, and traumas that an individual has faces.

p.164

そのため、「本当の自分」というような固定的な私が客観的にどこかに存在するのではなく、物語るたびに個人のキャリアは構築されて浮かび上がってくると考えられます。したがって、折に触れて物語り続ける私という自分像がキャリア構築理論では想定されていると考えるべきなのではないでしょうか。

おまけ

理論とか概念とかこんがらがってしようがない!という方には、中原先生が両者の相違点をまとめている記事がありますので、お読みになってみてください。かくいう私も、たまに頭が混乱する時に読み返しております。

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