見出し画像

【読書メモ】学生時代のヴィゴツキー:『ヴィゴツキー小事典』(佐藤公治著)

ヴィゴツキーといえば発達の最近接領域!この一文でヴィゴツキーの理解を済ませてしまっていたのですが、各所で目にする機会のあった本書を読んでみました。三十七歳で夭折しながら、死後八〇年以上が経った現代にも影響を与えている理論を生み出した、ヴィゴツキーの思想とその背景について触れられる贅沢な一冊です。

旧約聖書とヴィゴツキーと老子

ユダヤ人として生きたヴィゴツキーにとって、旧約聖書の影響は大きかったようです。その中の『伝道(者)の書』に示唆を受けて、「生を刻苦することにある悲哀」というタイトルの短いエッセーを十五歳の時に書いていたとされます。このエッセーでは、人間の人生には三つの段階があるとして本書の8-9頁で著者が解説しています。そのポイントを三つに絞って要約したものが以下の内容です。

【第一段階】精神の幼稚さ
富、名声、健康、知恵、知識などを獲得し、人生を享楽している時期
【第二段階】崩壊と不調和
努力して獲得してきたものに意味を見出せなくなり虚しさを感じる時期
【第三段階】人間精神の調和
不調和な現実と自己の生をそのまま受け入れている時期
p.8-9を要約

繰り返しますが、これはヴィゴツキーが十五歳の時のエッセーです。にわかには信じられません。知識や知恵の獲得も含めて「精神の幼稚さ」の段階にあり、その空しさを経て受け入れていくという流れは老子にも通ずるものがあるように個人的には感じられます。

『カラマーゾフの兄弟』

ヴィゴツキーは、第二段階・第三段階へと至るプロセスは、神に頼る存在ではなく宿命を乗り越える人間の強さを表しているとしています。そして、その言動を体現している存在として『カラマーゾフの兄弟』に次男・イワンだと著者はしているのです。

『カラマーゾフの兄弟』を読んだ方はわかるかと思いますが、イワンは無神論者として登場します。そのため、敬虔深い存在である主人公の三男・アリョーシャと長い議論をする存在で、いわば敵役的な感じの人物です。このイワンという対象を、宿命を乗り越えようとする人間としての強さを見出しているというヴィゴツキーの発想は興味深いなと感じました。

学生時代のヴィゴツキーの伝記の部分を読むと、彼の心理学の思想的背景をより理解したくなるのではないでしょうか。

おまけ

『カラマーゾフの兄弟』を読んだことがなく、上中下巻で2000ページ程度になる大部は読めない、、、という方には、せめて「100分de名著」の書籍を読むことだけでもオススメします(いや、書籍を読んだ方が良いのは間違いないのですが)。同番組を観ましたが、素晴らしい解説でした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?