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【読書メモ】キャリア開発と能力開発:『キャリア開発論 自律性と多様性に向き合う』(武石恵美子著)

武石恵美子先生の『キャリア開発論 自律性と多様性に向き合う』の第2章のタイトルは「キャリア開発の主体」です。節のタイトルにもキャリア開発という言葉が並んでいますが、実際に読んでみると書かれている内容のほとんどは能力開発であることに気づけると思います。ここに日本企業におけるキャリア開発の現状が凝縮されているようです。

能力開発における二つの技能

能力開発や人材開発の教科書的なものでよく説明される通り、企業で求められる能力は一般的技能(general skill)企業特殊的技能(firm-specific skill)に分かれます。前者は他社でも通用する「つぶしのきく」技能であるのに対して、後者は自社に固有的に求められる技能というような意味合いです。これらの専門的な用語をそのまま用いるかどうかはさておくとして、企業における人材開発や能力開発でも同じような考え方で整理している企業はわりと多いのではないでしょうか。

それぞれの特徴とそれに伴う開発の主体について著者は以下のように整理しています。まず一般的技能については以下のとおりです。

「一般的技能」の開発は、企業側が投資を行うことには積極的になれないため、学校教育と同様に、労働者個人が投資を行いその収益は労働者に帰属するというのが合理的になる。

p.24

それに対して、企業特殊的技能の主体は趣が異なります。

企業特殊的技能の場合には、企業と労働者が共同で投資をして共同で収益を回収するというのが合理的な解となる。

p.25

雇用システムによる影響

これらの背景には日本の雇用システムが影響していると考えられます。著者は以下のようにまとめておられます。

長期継続雇用慣行が広く定着してきた日本企業では、企業特殊的技能を高めることを重視し、前述した人的資本への投資理論に基づくと、労働者と組織がともに個人のキャリア開発に関与するという状況にあった。

p.29

ベンチャーでも大企業でも日本企業には、よく言えば「労働者と組織がともに個人のキャリア開発に関与」しているともいえ、悪く言えば両者がキャリア開発の責任を取らない状況が展開されていると言えます。印象論になりますが、大企業の場合には学校で相対的に優秀とされた人材が多いため、組織の意向を理解し組織に適応し続けようとし、その結果として組織にキャリア開発を依存し組織が求める能力開発に勤しむ人が多いようにも見えます(あくまで個人の印象です)。

日本企業のキャリア開発とは能力開発である!?

こうして見てみますと、これまでの日本の特に大企業におけるキャリア開発は能力開発の読み替えとして運用されてきたと考えられます。つまり、本章のタイトルに即して言えばキャリア開発の主体は組織にあったということが言えるのではないでしょうか。

私の恩師の一人である花田光世先生がキャリア自律という言葉を用いるようになったのは1990年代後半です。プランドハプンスタンスやトランジション論を基にした概念の名称に「自律」という言葉をつけた背景には、日本ではキャリア開発の主体は組織にあることが多く、個人にとっては「他律」的だったからなのかもしれません。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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