見出し画像

【読書メモ】日本型キャリア自律を考える。:『人材育成ハンドブック』(人材育成学会編)

日本でのキャリア自律についてレビューする用件があり、色々と漁っていたのですが、「『人材育成ハンドブック』にはどのように書かれているのだろう?」と思い、読んでみました。人材育成学会が編集しているので半ば想像してはいたのですが、執筆者は花田先生で「キャリア自律への多様な支援」という項目で執筆されています。本自体は2019年出版なので、花田先生の更新された内容が書かれていると信じて、ポイントだけまとめます。

組織主導から個人主導へ

キャリア自律は、将来の予見可能性が低下したという時代背景を基にして考え出されたアプローチです。キャリア開発の責任主体が、従来の組織主導から個人主導へシフトしたことがポイントとして挙げられています。

ただし、これは教育の主体が個人に丸投げされたということを意味してはいません。よーく読んでみると、花田先生は企業が「現状の業務スキル・知識に対する教育訓練は実施する」(329頁)という但し書きを記載されています。キャリア自律を誤解すると、個人がキャリア開発の責任を持って主体的に成長しなければならないと思われがちですが、現在の業務遂行に必要な教育は、引き続き企業が責任を持って能力開発することはよく意識しておきたい点です。

キャリア自律が日本企業に浸透した理由

花田先生はキャリア自律という言葉を、遅くとも私が学部のゼミ生だった頃(2001-2003年)からずーっと仰ってました。2003年に新卒入社した会社でも、その後に転職した会社でも、キャリア自律という言葉は全く知られていないか、一部の認識している人事パーソンにとっても「きれいごと」的な理想論として受け止められていた印象です。

ところが2023年の現在では、多くの日本企業でキャリア自律という言葉は市民権を得ているように感じます。いつから浸透したのかというと、2016年4月1日に行われた職業能力開発促進法の法改正が契機だったと花田先生は解説しています。近い将来を予見するという意味では、法律の制定や改正の動きをチェックしておくことは重要なのでしょう。

求められる複雑な現場対応

キャリア自律は個人の主体的なキャリア開発を意味します。ということは、個人の人材開発のために企業が主体的に行う異動・配置や階層型教育と不整合を起こすことが生じます。

そのため、企業がキャリア自律を謳う以上、多様な個人の多様なキャリアに合わせた対応が現場では求められることになります。現状の業務を遂行するための支援や職務アサインメントの必要性は残るものの、個人のライフキャリアを意識した個別対応が求められるという点ではなかなか複雑性が増すことになると言えるでしょう。

余談

今回取り上げた本は、出版当時に人材育成学会に所属していたため(?)学会から頂戴しました。Amazonさんで調べたら、諭吉さん一枚では足りないなかなかな高額な本なのですね。。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?