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【読書メモ】確認的因子分析:『心理学・社会科学研究のための構造方程式モデリング Mplusによる実践』(村上隆・行廣隆次監修、伊藤大幸編著、谷伊織・平島太郎著)第5章

第4章をまとめた際にも述べた通り、因子分析には、仮説を構築するための探索的因子分析と、仮説を検証するための確認的因子分析の二つがあります。第5章では、後者の確認的因子分析について述べられています。Amosを用いて何度も行ったことのある分析ではあるものの、考え方や理由付けといった「そもそも論」を丁寧に解説してくださっていて、むちゃくちゃ勉強になりました。


なぜ仮説検証に適しているのか?

探索的因子分析と確認的因子分析の双方を行ったことがある方であれば、後者の特徴が因子構造の仮説検証であるということはよくご存じだと思います。論文でもそのような表現はよく出てきますので。

では、なぜ確認的因子分析という手法は仮説検証に適していると言えるのでしょうか。まず著者の説明を引用します。なお、引用文中に出てくるCFAが確認的因子分析のことでConfirmative Factor Analysisの略称です。

CFAとは理論的に対応が仮定されていない因子への負荷量を0に固定することで、解の不定性とそれにともなう因子回転の問題を回避した手法である

112頁

これだけだとわかりづらいかもしれないので、探索的因子分析との対比で捉えてみます。探索的因子分析は、負荷量のパターンが無数にあるという解の不定性に対応するため、因子回転(直交とか斜交とか)によってすべての因子への負荷量を算出します。つまり、複数の因子に対する負荷量を算出して仮説を構築する手法であり、複雑なデータを用いて構造をなるべくシンプルな因子で構成しようとします。

反対に、確認的因子分析では、先行研究等でたしからしさのある仮説を検証するために、単純化された構造をデータ分析によって理論的に仮定するアプローチです。データに基づいて単純構造を明らかにしようとするのが探索的因子分析であるのに対して、仮説としての単純構造に基づいてデータを分析して検証するという特徴が確認的因子分析にはあると言えます。

サンプルサイズが大きくない場合のメリット

探索的因子分析と比べた場合の確認的因子分析のメリットにはいくつかあります。ここから述べることは、両者のそもそもの特徴を踏まえたうえでの確認的因子分析のメリットのため、確認的因子分析が探索的因子分析より優れているというわけでは全くありません

まず、著者は、経験則に基づいた数値として、サンプルサイズが300未満の場合には、探索的因子分析を行った結果が、ほかのサンプルでは再現されづらいという点を指摘しています。他方で、同じようなサンプルサイズであっても、確認的因子分析の場合には安定的な解を得やすいとしています。既存の尺度の構造を検証している論文を読むと、三桁のサンプルサイズで確認的因子分析を用いているものが多いのですが、その理由がわかりました。

サンプルサイズが大きい場合のメリット

上記の問題は、サンプルサイズを確保できればクリアできるものです。他方で、サンプルサイズが充分に大きい場合でも、確認的因子分析が探索的因子分析よりも優れているポイントがいくつかあります。四つの点が指摘されています。

(1)誤差相関を考慮できる
(2)柔軟なモデリングが可能である
(3)多母集団データや縦断データでの測定不変性を検証できる
(4)複数のモデルの比較ができる

(2)では、高次因子モデル階層因子モデルといった複雑なモデルを扱うことができることを意味します。高次因子分析は、以前Amosで行ったことがありますが、分析自体は私のような初学者でもサクッとできます。

確認的因子分析のデメリット

メリットをまとめた際にも触れた通り、そもそもの手法の特徴からの帰結としてのデメリットもあります。

(1)因子構造についての明確な仮説が必要である
(2)モデル修正によって測定上の問題を覆い隠すリスクがある
(3)より優れたモデルの存在を否定するのが難しい

(2)はけっこう怖い問題だなと感じました。私がこれまで行ってきた確認的因子分析では、確固たる仮説がある構造を検証するものでデータもわりときれいに出たのでモデル修正は不要でした。ただ、適合度を良くすることを目的にしてモデルを修正する、という発想を取る心理にはある程度は理解もできます。自身が設定していた仮説を検証するために行うわけですから、モデルを何とか修正してでも適合度の高いデータを出したくなるものでしょう。

確認的因子分析という手法がパワフルであるがゆえに、モデルを修正することで適合度を高くすることもある程度は可能です。だからこそ、仮説構築を事前の段階でしっかりと行い、そのうえでの検証の手段として抑制的に確認的因子分析を用いるという態度が使う側に求められているのでしょう。

おまけ

探索的因子分析について書かれた第三章をまとめたnoteもあります。ご関心のある方はご笑覧くださいませ。


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