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【読書メモ】『実践知ーエキスパートの知性』(金井壽宏・楠見孝編著)

本書では、熟達に関する知見が、多様な事例を紹介しながらわかりやすく書かれています。熟達化とは、「実践知を獲得する学習過程」(4頁)と定義されていて、そのポイントは三つに分けられそうです。

(1)実践に関わるものである

実践という名称がついていますので、観念的に考えるだけではなく、私たちがそれを活用することに関わる知識を対象にしています。実践知はpractical intelligenceの訳であり、実行に活きるものであると考えるべきでしょう。

(2)後天的なものである

次に「獲得する」とあります。そのため、私たちが生まれつき持っている資質であったり、幼少期までで形成される特性といったものではなく、後天的に得られるものが対象となっています。

(3)学習するものである

実践しながら学ぶというプロセスは経験学習とも呼ばれます。経験から学習するには、まず態度が重要であると述べられています。具体的には挑戦性、柔軟性、状況への注意とフィードバックの活用、類推という四点が本書では整理されています。

次に、経験から教訓を引き出すステップとしては省察が鍵になります。省察には二つのパターンがあり、①過去の経験から現在への意義を見出す振り返り的省察と、②現在から未来に向けて可能性を探究する見通し的省察、が提示されています。

ホワイトカラーが熟達する四段階の過程が本書で述べられているのですが、東大の助教でいらっしゃる池田めぐみさんの「ゆるふわ解説」が非常にわかりやすいので以下をご参照ください。(これ以上の解説は私にはできないためであり、手抜きではございません。笑)

IT技術者の熟達

本書では、いくつかの職種の熟達が紹介されています。以下では、IT技術者の熟達について取り上げます。

IT技術者に求められる知識としては、参照実践知(業界として共通的な合意のもとに体系化された実践知)と遂行実践知(仕事場面における遂行行為において必要となる実践知)の二つに分かれるとされています。

参照実践知はITSSやPMBOKといった業界標準として形式知化されたものを思い浮かべれば良いでしょう。こうしたものが必要であるのとともに、個々別々のビジネスシーンにおいて求められる遂行実践知も重要であるとされているのです。

遂行実践知には大きく三つのタイプがあるとしています。①タスクプライオリティ知は、実践の仕事場でタスクを選択したりタスクの優先順位をつけるものです。②資源配分知は、タスクやプロジェクトにおいて適切な認知資源んを投入するためのものです。③状況知は、参照実践知を状況において発揮可能にするためのものです。

こうした三つの遂行実践知が影響し合いながら、参照実践知の獲得と合わせて、IT技術者は熟達していきます。現場でヒアリングをしていると、種種雑多な知識が必要と思って途方に暮れてしまいがちですが、このように整理されると理解が進むとともに、解決の支援の方向性も見えてくるような気がします。


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