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【読書メモ】ヴィゴツキーの文芸論・言語論:『ヴィゴツキー小事典』(佐藤公治著)

ヴィゴツキーは夭折したために死後に出版された書籍も多いのですが、その中の一つに『芸術心理学』があります。この作品は、学生時代を送ったモスクワ大学での学位論文として元々執筆されたものを基にして死後に書籍になったものです。文芸作品を題材にして言語分析を展開するという興味深い内容です。

文芸作品と個人との相互作用

まず、本論文での結論から見ていくと、本書によれば、ヴィゴツキーは芸術作品と個人の美的反応とは相互作用するものであると主張しています。

芸術作品自体は芸術家が埋め込んだ意味合いを外に対して発出する客観的な存在としてありながら、それに対して個人が美的反応に基づいて意味合いを見出そうと内部に再生するという相互作用プロセスが生じるということなのでしょう。

相互作用するということは両者は相補関係にあるということであり、芸術作品というものは、客観的な存在でもなければ、個人の内部にあるという主観的な存在でもないということを意味します。こうした考え方が、のちの発達の最近接領域に結実していったと考えるのは邪推でしょうか。

『芸術心理学』が生まれた時代背景

このようなヴィゴツキーの主張は現代においては違和感なく受け入れられると思います。しかし、彼が論文を執筆していた時分には必ずしもそうではありませんでした。

というのも、1920年代当時においては、<上からの美学>研究と<下からの美学>研究とが対立状況にあったとヴィゴツキーは見ています。<上からの美学>は作品の客観性を重視して形式的な構造や機能に着目するべきだと主張する立場で、他方の<下からの美学>は個人の主観的な作品理解を重視する立場でした。

ヴィゴツキーは、<上からの美学>と<下からの美学>を分けること自体が無意味であるとして、冒頭で述べた通り作品と個人との相互作用こそが大事であるとしたわけです。


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