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【読書メモ】ドナルド・スーパーの入門書としても読める!?:『自己形成の心理学』(溝上慎一著)
一冊の書籍を読むだけで多くの心理学研究者のポイントをここまで理解できる書籍はなかなかありません。溝上先生の『自己形成の心理学』は心理学領域を学ぶ大学院生にとってありがたい書籍です。今回は、ドナルド・スーパーについて言及されている箇所をまとめてみました。
役割葛藤とアイデンティティ
イデオロギーや伝統的価値の衰退、新しい価値や信念の創出による伝統的役割観の相対化は、必然的に当該発達期(たとえば青年期)のある課題に対する自己定義をおこなうだけでは事済まず、後々の発達期の課題に対するある程度の自己定義を同時におこないながら、当該発達期の課題に現実的に対処していくという動きを生み出す。つまり、人生を広く見渡したなかでの複数の発達課題に対する複数の自己定義を、同じ水準で調整していくという新たな心理的課題を生み出すこととなったわけである。ここに役割葛藤をアイデンティティ形成において議論すべき土壌が成立する。
現代において私たちの社会は多様なものになっています。そのため、私たちが担う役割も多岐にわたります。こうした役割葛藤とアイデンティティというテーマをキャリア論として進展させたのがキャリア発達を提唱したドナルド・スーパーだと著者はしています。
スーパー登場
職業研究で有名なD・スーパーが、一九八〇年を境に、「職業選択(occupational choice)」という用語使用から「キャリア形成(career development)」という用語使用へと転換し、職業選択を人生役割の一つだと見なしてその形成プロセスを扱おうとしたところにもかいま見ることができる。
心理学の書籍でキャリア論にも話題が移り、かつスーパーが登場するというなかなか興味深い箇所です。スーパーのキャリア発達論の位置付けを改めて理解することができました。
スーパーの発達論がわかるようでわからない理由
スーパーのキャリア発達論はキャリア論を学ぶと必ず習う内容でしょう。ただその内容について、私にはわかりにくい部分もありました。その理由は、アメリカと日本における文化差があるのかも、と思う箇所がありました。
もっとも、青年期に限定して職業領域におけるアイデンティティ形成の問題を考えるときには、国によって当該領域を取り巻く事情が大きく異なる点に注意を要する。
青年期のキャリア形成では国や文化によって異なるという著者の指摘は大変重要です。この点に関して、特に日本では学生から社会人へのトランジション部分に自己概念化の特徴があるとしています。
わが国の例で言えば、大学生の「学校から仕事への移行(school-to-work transition)」における学校と仕事の境界線が、バブル経済崩壊以降、かなりぼんやりしたものになっている点に、ここで議論している複数の自己定義の問題が象徴的に表れていると見える。
キャリア発達論の意義
最後に、スーパーのキャリア発達論の意義についての解説と読める箇所が秀逸です。キャリア論の教科書的なもの以外で、このような解説を読めるのは意外でありラッキーでした。
後々の発達期の役割を意識しない場合でも、多領域に広がって形成される自己定義間の葛藤を調整することは、青年のあいだで頻繁に生じている。全体としてのアイデンティティ形成を推し進めるうえで必要となる自己定義の領域が、役割(領域)に依拠する以上により個人に委ねられるようになっているからである。
少し飛躍することを恐れずに言えば、自己というものを静態的から動態的へと捉え方をシフトさせ、キャリアを選択から発達へと変化させたのがスーパーのキャリア発達論だと言えるのではないでしょうか。
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