見出し画像

【読書メモ】上司の支援内容によってミドル・マネジャーの学習を阻害することもある:『経営人材育成論』(田中聡著)

先日あげた【補論】では、新規事業創出経験がいかにもタフ・アサインメントでありミドル・マネジャーがどのような経験を得るのかが明らかにされていました。新規事業創出経験という究極的なタフ・アサインメントであっても、全てのミドル・マネジャーにとって有効な学習につながるわけではありません。第4章では定量調査によって、ミドル・マネジャーの学習を促す要因を明らかにしています。つまり、企業にとって、どのような組織特性上司支援を整えればミドル・マネジャーが経営人材に育つのかに関する実践的示唆を提供してくれるありがたい内容と言えます。

調査デザイン

概念間のつながりについては、【組織特性】【上司支援】という二つの概念が、【学習目標志向性】を媒介して、【新規事業創出経験を通じた学習】へとつながるという関係性を検証しています。つまり、ミドル・マネジャーが新規事業創出経験を通じた学習を行うためには、本人の学習目標志向性が先行要因として重要であり、さらに、本人の学習意欲を高めるためには、組織によるサポートと上司によるサポートが重要である、ということを大枠で明らかにしています。

尚、いずれの概念についても確認的因子分析を行い、因子構造を明らかにしていて、調査設計についても大変勉強になります。

上司支援のDos & Don'ts

上司支援という概念は、批判的省察支援精神支援という二次元から構成されることが上記の確認的因子分析で明らかにされています。「そりゃ上司の支援はあったほうが良いよね」と思いがちですが、その支援の内容によっては、ミドル・マネジャーの新規事業創出経験を通じた学習を促したり、逆効果になってしまうこともある、ということを明らかにされているのが非常に興味深い点です。

p.145を基に作成

通常業務とは異なる新規事業創出という役割の特異性があるため、既存の仕事の進め方からの転換を促すような批判的省察支援は効果があることが明らかになりました。他方で、精神支援はネガティヴな効果があることが上図ではわかります。これは、著者も同様のことを指摘しているのですが、精神支援が既存のやり方を肯定してしまい新しい変化を促すことを阻害してしまうからではないかと考えられます。

組織としての支援も大事

上司以外の組織による支援ももちろん大事です。組織特性は、経営サポート職務裁量性という二次元から構成されています。

p.145を基に作成

二つの次元ともに有意にポジティヴな影響を与えていることがわかります。特筆すべきは、職務裁量性が上司支援も含めて最も高い影響を与えているという点でしょう。既存事業とは異なる新規事業を進めるわけですから、裁量を与えてあげることが最も大事であり、それを経営がサポートするということが重要ということなのでしょう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?