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Fair Play/フェアプレー

Netflix配信作品を時々、映画館で見ることができるのはミニシアターにも足を運ぶような映画ファンやイベント上映のアニメ作品を見るような人なら誰でも知っていることだろう。

劇場上映されるネトフリ作品には以下のようなものがある。

①配信と同時に劇場上映される日本映画
例:ボクたちはみんな大人になれなかった
②配信作品に手を加えた劇場版として上映される日本映画
例:ちひろさん、バブル
③配信シリーズ(日本作品)のイベント上映
例:地球外少年少女
④配信シリーズ(日本作品)の総集編映画
例:日本沈没2020、攻殻機動隊 SAC_2045シリーズ
⑤海外作品の劇場上映

⑤には、「グレイマン」のように配信に先駆けて単体で劇場公開された作品もあるし、「ROMA/ローマ」のように配信済みの作品を賞レースでの躍進を受けて急遽、劇場上映に踏み切ったケースもあるが、映画ファンが注目しているのは2019年以降、秋から年末にかけての恒例行事となっている欧米の賞レースを賑わせそうな作品を配信に先駆けてまとめて連続で行う先行上映だろう。

2019年は
「キング」
「アースクエイクバード」
「アイリッシュマン」
「失くした体」
「マリッジ・ストーリー」
「2人のローマ教皇」
の6作品が上映され、このうち4作品がアカデミー賞にノミネートされた。作品賞ノミネートは2作品。

2020年は
「シカゴ7裁判」
「ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌」
「Mank マンク」
「ザ・プロム」
「ミッドナイト・スカイ」
の5作品が上映され、このうち4作品がアカデミー賞にノミネートされた。作品賞ノミネートは2作品。

2021年は
「THE GUILTY/ギルティ」
「ザ・ハーダー・ゼイ・フォール:報復の荒野」
「tick, tick... BOOM! : チック、チック…ブーン!」
「パワー・オブ・ザ・ドッグ」
「消えない罪」
「Hand of God -神の手が触れた日-」
「ドント・ルック・アップ」
の7作品が上映され、このうち4作品がアカデミー賞にノミネートされた。作品賞ノミネートは2作品。

そりゃ、映画ファンが注目するわけだというラインナップだ。

ところが、2022年はそうではなかった。

上映されたのは、
「グッド・ナース」
「バルド、偽りの記録と一握りの真実」
「ギレルモ・デル・トロのピノッキオ」
「ホワイト・ノイズ」
「ほの蒼き瞳」
の5作品だ。前の年に比べると少ないが、2年前もこの本数なので、そこまで激減と言うほどではない。

問題は量より質だ。

このうち、アカデミー賞の何らかの部門にノミネートされたのは、「バルド」と「ピノッキオ」の2本だけ(どちらもメキシコ人監督作品)。

しかも、「バルド」は撮影賞、「ピノッキオ」は長編アニメーション賞にノミネートされただけだ(「ピノッキオ」は最終的に同賞受賞)。

何故、作品賞など9部門にノミネートされた(国際長編映画賞など4部門受賞)「西部戦線異状なし 」や、脚色賞にノミネートされた(ゴールデン・グローブ賞ではミュージカル・コメディ部門作品賞など2部門ノミネート)「ナイブズ・アウト:グラス・オニオン」を上映しなかったのか理解に苦しむ。
結局、ネトフリの日本法人は「西部戦線」や「ナイブズ・アウト」は契約者数を増やすキラーコンテンツになるから、これを劇場で上映してしまうと契約者数が伸びないって判断したってことなんだろうね。

そうした日本側の守銭奴的なやり方のせいでこれまで映画ファンに一定の評価を得ていた先行上映の印象も悪化してしまったような気がする。

自分も去年の連続上映5本のうち、賞レースに全然絡まなかった2本(上記一覧の下2本)は見に行かなかったしね(配信でも見ていない)。

そんなわけで期待値が下がっているネトフリ作品の先行上映だが、今年のラインナップはこんな感じだ。

「Fair Play/フェアプレー」
「ナイアド ~その決意は海を越える~」
「ザ・キラー」
「マエストロ:その音楽と愛と」

たったの4作品しかないうえに、ラインナップも地味だ。現時点の下馬評でアカデミー作品賞にノミネートされる可能性がありそうなのはレナード・バーンスタインの伝記映画「マエストロ」くらいだろうか。
まぁ、去年は作品賞ノミネートが1本もなかったから、それに比べればマシなんだろうが。

それから、劇場に観客が戻ってきたことにより配信映画に対する注目度が減っているし、ハリウッドの大規模ストライキの影響で配信作品のイメージは悪くなっているし、同じ配信系でもアップルは劇場上映を重視するようになっているし、といった諸事情を考慮すると、ネトフリの賞レース戦略もこの辺で一段落といった感じなのかな?かつてのミラマックスやドリームワークスもそうだったけれど、あからさまな賞取り合戦を繰り広げる新興の映画会社って、すぐに嫌われるからね。



そんなわけで、あまり期待せずに本作を見ることにした。作品紹介の文章を読んでいるだけだと、女性の活躍を認められない男を批判するためだけの最近よくあるポリコレ至上主義映画にも思えたしね。

ところが実際に見てみるとそうではなかった。

勿論、世の中には男社会の業界が多く、そういう業界で女性がのしあがっていくには、女性であることを売りにする=男に媚びるか(飲みに付き合ったり、場合によっては性的な関係を持ったり)、思考をおっさん化させて名誉男性になるか(自民や維新の女性議員、テレビ番組の女性プロデューサー・ディレクターなんてこんなのばかり)、そうでなければ、男は全て敵みたいな主張をヒステリックに喚きたてるしかない(左派系女性議員やフェミ系団体がこれ)。

本作の舞台となっている金融業界もそうなんだろうね。確かに日本の証券会社の女性アナリストってビジュアル的にもマスコミ受けする人が多いしね。テレ東の経済ニュース番組を見るのが好きな人ならこの映画を興味深く楽しむことができるのでは?

とはいえ、本作のフェミ要素はその程度だ。主に描かれているのは普遍的な問題である、世の中に公平な人事なんてないということだ。

同じレベルの能力を持っている人間が複数いて、その中で1人だけを昇進させるとしたらどうするか?

能力は同じなんだから、結局、仕事以外の要素で判断されてしまうんだよね。要は人事権を持つ人間の好き嫌いで決まってしまう。

⚫︎人件費を抑えたいから年齢の低い方にしよう
⚫︎対外的に印象も良くなるしルックスの良い方にしよう
⚫︎よく喋る奴や弁の立つ方にしよう
⚫︎飲み会によく顔を出す方にしよう
⚫︎自分におべっかを使う方にしよう

そういうのに最近は

⚫︎多様性だなんだとうるさいから外部受けがいい女性にしよう(障害者とかLGBTQ、欧米なら白人以外にしようというのもそう)

というのが加わっただけのこと。

自分の職場でも最近、管理職ポストが不在となり、2人を新たにそのポストに就けることになった。

基本、正社員しかなれないポストだったが、キャリア的に該当するのが1人しかいないので、もう1人はフリーランス(業務請負)から選ぼうとなったらしい。

その対象となる人間は自分を含めて3人いた。

この業界での勤務歴の長さで言えば自分が有利だし、この職場での在籍歴で言えばA氏が有利だったが、結果はもう1人の人間が選ばれた。

結局、仕事のできるorできないではなく、人事権に口出しできる人間が好きか嫌いかで選ばれているんだよね。あと、この選ばれた人は見た目がいかにも管理職っぽいというのもあるんだろうね。自分はどうやっても実年齢より低く見られる=威厳がないからダメなんだろうね。

そして、自分の職場の人事の時もそうだったが、嫌々、昇進させられた人は最初は“自分より、⚪︎⚪︎さんの方が向いている”とか言っておきながら、いざ、自分がそのポジションに就くと、めちゃくちゃ、モノの言い方が上から目線になってくるんだよね。本作の昇進した女性もそういう態度を見せていて、そうした描写もリアリティがあると思った。

あと、同じくらいの能力の恋人同士とか親友同士の片方だけが昇進するのって結局、関係にヒビが入るよね。今までは同志で対等な立場だったのに、上下関係ができたら、そりゃうまくいかなくなる。こういう描写もリアリティがあった。

なので、本作はフェミとかポリコレ至上主義の映画ではなく、職場における普遍的な人間関係を描いた作品だと思う。

ところで、この作品だが、映画館で見るとちょっと画角に違和感を抱くんだよね。ロングの画、特に人物の全身ショットが少ない。
配信映画としてリリースされているだけに、スマホやPCで見ることを意識したサイズになっているのだろうか?








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