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【推しの子】Mother and Children

アニメシリーズのテレビ放送や配信、Blu-ray/DVDのリリースに先駆けて、全話もしくは一部を劇場で先行上映する。しかも、単なる1日限りのイベントではなく一般の映画館で入場料を取り、一般作品と同じように上映するイベント上映というのはすっかり定着している。

「鬼滅の刃」の最新シリーズ“刀鍛冶の里編”の第1話に前シリーズ“遊郭編”のラスト2話をくっつけて見せる特別上映「上弦集結、そして刀鍛冶の里へ」は国内観客動員数ランキングで首位を獲得したのみならず、全米興収ランキングでもトップ5入りを果たした。
映画の本場とされる米国でテレビアニメのイベント上映がランキング上位に入るのだから、コロナ禍になってからの映画興行がいかに苦しいものであるかというのがよく分かるというものだ。

もっとも、一般の米国の映画ファンからすると、コロナ禍になって、ちょくちょくランキング上位に顔を見せるようになった日本のアニメと、コロナ前からちょくちょく顔を見せているインド映画に関しは完全に理解不能なものになっているのではないかと思う。賞レース向きの難解な作品や欧州のアート映画以上に、“何これ?”状態なのでは?

ちなみに、こうした先行上映作品の上映形態も様々だ。要はテレビ放送などの際と同じバージョンをそのまま流すか、極力、映画に近い感覚で見てもらうように再編集するかということだ。

「鬼滅の刃」の先行上映作品でも対応は異なっている。
「上弦集結、そして刀鍛冶の里へ」はテレビ放送用のものをそのまま、前シリーズ・最新シリーズ合わせて3話分を続けて流しただけで、放送の際にCM挿入時に入るアイキャッチや、前話までの振り返りのアバンはそのまま入っていたが、2019年に最初のテレビシリーズ“竈門炭治郎 立志編”の放送に先駆けて頭の5話をまとめて先行上映した「兄妹の絆」では、そうしたアイキャッチなどはカットされているし、オープニング曲やエンディング曲もまとめて1回ずつしか使われていない。

本作はテレビシリーズ「推しの子」の第1話だけを先行上映したものだ。
「鬼滅の刃」の「兄妹の絆」のように冒頭の何話かをまとめたものでもないし、「上弦集結、そして刀鍛冶の里へ」のように先行上映は1話のみでも、それにプラスして過去シリーズのエピソードをオマケで上映するタイプでもない。

しかし、入場料は普通に一般料金で1900円も取られる。それは何故かと言えば、「推しの子」の第1話は90分の拡大枠で放送されるからだ(本作の上映時間が84分となっているということは放送時はたったの6分しかCMが入らないってこと?つまり、通常のテレビシリーズ1話分相当の量のCMってこと?)。

あえていえば、単発、シリーズもの問わず、中長編のOVA作品のイベント上映に近いって感じかな。

なので、通常のテレビシリーズの先行上映とは異なり、1本の映画のような感覚で見ることとなった。

まぁ、このストーリー展開だと、テレビシリーズ1話を通常では3話分(実尺だと4話分)に相当する90分枠にしたのも納得ではある。

原作を読んでいる人には周知の事実だと思うが、ヒロインと思われていた人気アイドルが殺害されてしまうのが30分枠アニメで言えば、第3話もしくは第4話あたりに相当する箇所だ。
「まどマギ」ではメインキャラ5人の1人、まみさんが3話目にして早々と絶命してしまう、いわゆる、まみってしまうことに近い衝撃である。
ただ、同作の場合、主人公もしくはヒロインであるまどかとほむほむの2人は亡くなっていないのでストーリー的には問題はなかった。

しかし、本作はそうではない。
主人公は推しのアイドルの子として転生する元医師だし、ヒロインと思われる人物はその元医師の推しで今は母親の人気アイドル、アイだ。いくらなんでも、ヒロインが3話か4話あたりで退場するのはありえないしね…。
まぁ、「IDOLY PRIDE」のように1話でヒロインと思われていた人気アイドルが早々と他界し、以降は幽霊として、一応主人公のマネージャーにつきまとうというトンデモ展開もできなくはないけれどね…。

というか、アイプラにしろ、本作にしろ、主人公もしくはヒロインと思われていた人物が実はそうではなかったからこそ、そういうキャラの早期退場が成立するんだけれどね。

それにしてもツッコミどころの多い作品だった。

まぁ、ドルオタなら思わず泣いてしまうシーンがあるから全体の満足度は高いんだけれどね。

まず、おっさんだからアイドルの良さが分からないというのはアイドルを知らない人の見方でしょ。ドルオタなんて圧倒的におっさんの方が多いよ。

あと、テレビ局のスタジオで偉そうな人がタバコをプカプカふかしているのもありえない。本作では最後の方で転生した主人公の元医師が成長して中学に通うようになっているし、原作では高校生にまで成長しているようだから、アイのアイドル時代は現在から18年ほど前の話なのかも知れない。それでも、スタジオでプロデューサーとかお偉方がタバコを吸うなんてありえなかったけれどね。というか、30年前でもありえない。テレビ業界を知らない人が業界人=ヘビースモーカーというイメージで描写したんだろうがリアリティがないなと思った。

あと、アイが出産することになった病院もおかしくないか。いくら有名人とはいえ、妊娠が判明してから、言い方は悪いが、たかが妊娠で何ヵ月もずっと入院しているのか?入院していないとしたら、いくら田舎とはいえ、町中を妊娠しているアイドルが歩くと目立つよね?それに入院していたとしたら、弱小プロダクションがよく、その金を出せたよねって思うし。

それから、アイがストーカーに殺害されたことを伝えるニュースもおかしい。明らかに陽が出ている時間帯に起きた事件なのに、それを伝えるニュース番組でアナウンサーが“本日未明”と言っていたのはおかしい!

本作に限らず、アニメやコミック、ドラマでよくこういう誤用を見かけるけれど、未明って言葉を使うとニュースっぽく見えるという理由で意味も理解せずに使っているのでは?文字を見れば分かるように、未だ夜が明けていないから未明なんだよ!朝とか夜は未明ではない。それが分からない人が多いみたいだ。たまに、昨夜未明なんて意味不明な使い方もされているしね。
というか、そもそも、アナウンサーは“本日”なんて言葉はニュース番組では使わない。バラエティやイベントでは台本に書かれているから、その通りに読むこともあるが、ニュースでそれをやったら、こいつはアナウンサーとしての常識がないと思われるからね。いかに、日本のエンタメ関係者が普段、ニュースを見ていないかってのがよく分かるよね。アナウンサーは“今日(きょう)”って読むんだよ!

ところで本作を見て思ったことがある。
この「推しの子」って、最近のアニメで飽和状態となっている2大ジャンル、なろう系(転生もの、性転換ものを含む)とアイドルアニメを融合させた作品だったんだね。

全てのなろう系やアイドルアニメが凡庸と言うつもりはない。
「英雄王、武を極めるため転生す ~そして、世界最強の見習い騎士♀~」なんて、話はそんなに面白くはないけれど、主人公役の鬼頭明里が元王様の心情を語る心の声から転生した美少女の子ども時代の声、可愛い騎士、かっこいい騎士など色んな演技を見せてくれるので、鬼頭ボイスを聞いているだけで楽しいしね。
それから、「シャインポスト」は日テレ深夜の放送ということもあり、知る人ぞ知る傑作扱いだったけれど、「ラブライブ!スーパースター!!」2期よりもストーリー展開はしっかりしていたし、キャラも描けていた。

とはいえ、ジャンル全体としてはワンパターンになりつつあるから、そういう意味では両者を融合させるというのは面白いやり方だなとは思った。

あと、ガチ恋問題はドルオタの多くが経験することだよね。いわゆる恋愛感情のみならず、中高年オタがアイドルを子どもとか孫のように思ったりとか、あるいは若くても兄弟姉妹のように思ったり、同性オタが友達のように思ったりという感情まで含めれば、多くのドルオタが多かれ少なかれ広義のガチ恋感情は抱いたことがあるはずだしね。
というか、そういう感情を一切抱いたことがないなんてほざくオタクの言うことは信用できない。最近は推しの恋愛や結婚、妊娠、出産を許容できないのはファンじゃないみたいなことをほざいている連中がいるが、個人的にはそんな綺麗事を言っている連中こそドルオタではないと言いたくなってしまう。

本作ではストーカー気質のオタクに殺されたアイがうろ覚えでありながらも、そのオタクの名前や彼からもらったプレゼントについて話すシーンがあったが、このやり取りなんてドルオタなら泣かずにはいられないシーンだしね。

アイドル側も自分に多かれ少なかれガチ恋的感情を抱いているオタクのことは分かっているってことなんだろうね。
殺害してしまうのは良くないことではあるが、一方的だと思っていた推しとオタクの関係が双方向であることが分かる感動的なシーンだった。

ところで、推しという言葉の“主語”って変わってしまったよね。
“チームB推し”というAKB48の公演楽曲が発表された今から十数年前は、その曲からも分かるように、推しというのは、“○○を推している人”という意味だった。つまり、オタクを指す言葉だった。
しかし、本作「推しの子」や「推しが武道館行ってくれたら死ぬ」では、“自分が推している○○”という意味になっている。つまり、アイドル側を指す言葉に変わっている。

時代とともに言葉は変わってしまうってことなんだろうね。個人的には数の多いジャニオタが後者の意味で使うようになったから、そうした使い方が定着してしまったんだろうなとは思う。秋元康系アイドルのオタクの数はジャニオタに比べれば少ないしね。


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