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「君たちはどう生きるか」英語吹替版(日本語字幕付き)

本作のオリジナル言語版を見た人の中には、何故、米映画賞レースを席巻したのか理解できないという人も多いと思う。
アカデミー長編アニメーション賞はスタジオジブリ及び宮﨑駿にとって21年ぶり2度目の受賞。ゴールデン・グローブ賞のアニメーション映画賞はジブリ、パヤオにとってのみならず日本作品にとっても初の受賞となった。

しかも、賞レースだけでなく興行面でも好成績を収めている。いくら、去年のハリウッドのストの影響で新作の供給不足が起きていたとはいえ、全米興行収入ランキングでパヤオ作品が首位を獲得したのは異例中の異例な事態と言っていいと思う。つまり、業界関係者や批評家のみならず、一般の米国人も評価したということだ。

本作については、パヤオやジブリ作品を批判するとセンスのない奴と思われるから絶賛しかしない批評家やライター、一部のシネフィルやアニメファンはさておき、多くの人の感想は、次の2つに集約されると思う。

①難解でよく分からない
②非常に分かりやすい話だが退屈な作品

いずれの意見も技術的、演出的な面は全面否定していない。①はライト層、②は生涯鑑賞本数が多い映画ファンやアニメファンに多い意見だ。自分は断然②だ。

だから、米映画賞レースを賑わせているのは、余程、英語字幕や英語吹替版の出来が良いのだろうと思ったりもした。本編の矛盾やつまらないところを字幕や吹替が補っているのだろうと。

そして、今回の英語吹替版の上映に当たって、公式ホームページは以下のような注釈を加えた。

「日本語字幕は、英語セリフを翻訳したセリフではなく、オリジナル台本のセリフを使用しています」

これって、英語吹替版はオリジナルとは異なるセリフが多いということなのでは?英語圏の人に分かりやすいように、退屈と思われないように超意訳がされているってことだよね?

そんな改変のおかげで評価されているんだろうという持論を確認するために上映回数が少ない本バージョンを鑑賞することにした。

アカデミー賞受賞記念の特別上映のようなものなのにこのバージョンは上映回数も少ないし、観客の入りもイマイチということは、いくらアカデミー賞受賞作品になっても、日本人が「君たちはどう生きるか」という作品を見直そう、あるいはこれを機に見てみようと思ってはいないということだからね。

しかし、自分の邪推は本バージョンを見て打ち砕かれることとなった。

オリジナルの日本語版で見た時は冗談抜きで鑑賞中に100回くらいアクビが出た。
しかし、本バージョンではアクビは数回しか出なかった。

そして、日本語版では難解に感じた人が多かったストーリーも新生活に慣れない者たちが現実か妄想かはさておき、異世界に迷いこみ、成長することで、新生活を送る決意を新たにしていくという典型的な展開であることが容易に確認できる。全然、難解ではない。

また、そういうストーリーであることを日本語版で理解できた人も、その時は主人公の少年にしか目が行っていなかった人が多いと思うが、この吹替版を見ると、継母となった叔母も同様の悩みを抱えていたことがよく分かる。

手描きアニメを古臭いものと思う人が多い米国で本作が評価されたのは、子どもとの関係に悩む継母・継父が多い社会だからという背景があるような気もしてきた。

そして、セリフも改変と言えるほどのものはなかった。

日本語だと、誰がする、何をするがなくても会話が成立するが、英語ではそうはいかないので、そうした言葉が付け足されたりしていた。

あと目立ったのは敬称の付け方くらいだろうか。

いくら継母とはいえ、母親が子どもをさん付けするのも、いくら再婚相手とはいえ、妻が夫をさん付けするのも米国人の感覚では理解しにくいから、原則、呼び捨てに変えているといった感じだろうか。

米国映画を字幕で見る時にある程度、英語が聞き取れる人間だと、名前の呼び方の訳し方が原語と違うのって気になるんだよね。

ファーストネームで呼ぶのか、ファミリーネームで呼ぶのか、敬称を付けるのか付けないのか、名前でなく肩書きで呼ぶのか等々。

その呼び方でその時の人物関係が分かるから、個人的には原語通り訳して欲しいと思うが、文字数の関係もあるし、日本人は欧米人の名前をフルネームで覚えるのが苦手だから(新聞やテレビニュースでも欧米の政治家やスポーツ選手の名前は名字しか出さないし、歴史の教科書だって、海外の偉人がフルネームで表記されるケースは少ない)、字幕スーパーでは作中で一番よく出てくる呼び方で統一されてしまうことが多い。

それと同じことなのかなと思った。

そんなわけで、このバージョンを見てある結論に達することとなった。

日本語版が睡魔に襲われる退屈な作品に感じたのは、日本のボイスキャストのせいだ。声優が本業でない者を中心にしたキャスティングの結果、抑揚のない演技が続出され、そのせいで見ていて眠くなってきたということか。

そう考えると、顔出ししていようがいまいが、映像作品だろうと舞台だろうと、きちんと抑揚のある演技ができるハリウッド俳優は本物だなと思う。まぁ、日本版はアイドルとかミュージシャンも混じっていたしね。





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