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『風の谷のナウシカ』「上の巻 ―白き魔女の戦記―」

2019年に初演された歌舞伎版「風の谷のナウシカ」は休憩時間も含めると7時間を超える長丁場の作品だった(2部制で上演)。あっという間にチケットはソールドアウトとなったので、自分は生で鑑賞することはできなかった。
だから、2020年に舞台収録映像が上映されたので、そちらで鑑賞することにした。前後編にわかれて上映され、休憩時間を除いて、それぞれの上映時間が3時間前後という長尺だった。

今ではシネマ歌舞伎作品の一覧に含まれているようだが、公開当初は違っていたと記憶している。実際、キネマ旬報が運営するKINENOTEは通常のシネマ歌舞伎作品は登録しているのに、歌舞伎版ナウシカは登録していないということは映画扱いしていないということなのだと思うしね。

そして、その歌舞伎版ナウシカが待望の再演となった。今回は初演版の前半部分のみの再演だ。とはいえ、コロナ禍になって、歌舞伎座は換気の時間=観客の入れ替えを増やす目的もあるのだろうが、演目はコロナ前の2部制から3部制に変更となっている。なので、今回は初演版では休憩含めて3時間以上あった上演時間が2時間半ちょっとに短縮されている。

本公演を見てダイジェスト感がしてしまうのは仕方がないことだと思う。おそらく、初演版や舞台収録版はおろか、パヤオのアニメ映画すらも見たことがない人がいきなり、本公演を見たら、何がなんだか分からないのではないかと思う。

それにしても、最近はアイドルとか声優が出ている舞台ばかりを見ていたせいか、久しぶりに噛みまくりでない舞台を見ることができたと思った。
勿論、本公演でも怪しいところは何ヵ所かあったが、うまくごまかしていたんだよね。アイドルや声優だと、ごまかしができていないからね…。声優は台本を見ながら演技するのが基本だし、アイドルはそもそも演技は本業ではないから、そりゃ、噛んでも仕方ないのかも知れないけれどね。

それから、最近は、アイドルや声優系でない舞台でも演者がヘッドセットをつけて台詞を発するのが当たり前のようになっているけれど、歌舞伎役者はそれを使わずに昔ながらのやり方で後方や上階の客席にまで声を届けようとしているのだから、やっぱり彼等は本物だと思った。
まぁ、自分の席は下手の一番ハシなので、舞台上手の方で演技が繰り広げられている場面だと聞きにくいと感じることは何度かあったけれどね。
とはいえ、4列目という好位置だったので、下手側や花道で演技が繰り広げられている時は演者の表情をきちんと見ることができた。なので、全体としては大満足だ。

ところで、本公演に限らず、ONE PIECEなど本来の歌舞伎の演目ではないものを歌舞伎化した舞台を見るたびに思うのだが、歌舞伎って何なんだろうか?発する言葉が現代語だろうと、外来語が混じっていようと、舞台が日本でなかろうと、無国籍風の衣装を身につけていようと関係ないってことなのかな?

結局、歌舞伎役者が演じる演目で、歌舞伎という文字の通りに音楽・舞踊・演技の要素があり、見得を切ったり、拍子木が鳴らされたりといった最低限のお約束さえあれば、歌舞伎ってことなんだろうね。
あと、歌舞伎役者って、本来の昔の日本を舞台にした作品のみならず、こうした無国籍風というか、日本要素の薄い作品でも、女性キャラを演じるのがうまいよね。というか、通常の歌舞伎演目における女形よりも女性らしく見えた。

そして思った。本作で描かれているマスクをしなくては生活できない世界って、まさにコロナ禍の現在だよね。
舞台収録版が公開された2020年初頭は既にコロナのウイルスが蔓延しはじめていたけれど、それでも、マスク着用は義務付けられていなかったしね。

あと、戦争の描写は嫌でもウクライナを巡る今のご時世と照らし合わせてしまう。特に敵国の一般市民は敵か否かという描写なんて、ウクライナ情勢そのものだよね。
それに、女性リーダーの活躍とか、異なる種族の融和に関する描写も嫌でも最近のMeTooとかBlack Lives Matterといったムーブメントを想起してしまう。
そういう視点で考えると、やっぱり、パヤオって左翼なんだなというのを改めて実感してしまう。

ただ、上演時間が削られてしまったこともあり、正直なところ、腐海や蟲の存在が薄れてしまい、結果として、SF・ファンタジー要素が減ってしまった面はあるとは思う。

まぁ、戦記ものとしては楽しめるけれどね。サブタイトルが“白き魔女の戦記”だしね。
そして、このサブタイトルを見て、ナウシカの出番が思ったより少なく感じた理由が分かった。本公演って、ナウシカではなくクシャナ=白き魔女が主役だったのか…。あえて言えば、ナウシカはヒロイン役ってところか?

あと、タイトルなどの映写技術は良かったと思う。

《追記》
コロナ禍になって歌舞伎座に足を運んだのは今回が初めてだが、いまだに全席販売していないのか…。それだけ、歌舞伎ファンのコア層である高齢者はいまだに、満席状態での観劇や映画鑑賞に抵抗があるということか。


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