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ディズニー長編アニメーション映画史上最低の駄作「ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界」

本作「ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界」はコロナ禍になって3本目、日本でDisney+が展開されるようになってからでも3本目となるディズニーの長編アニメーション映画だ(Disney+での配信のみの作品や、ピクサー作品、再上映作品は除く)。

Disney+が日本でローンチされた時期がコロナ禍における自粛モードが高まっていた2020年6月ということもあり、ディズニー本体の長編アニメーション映画のみらず、ピクサー作品やマーベル作品まで日本では配信で見るものとして定着してしまった。

米国ではピクサー作品を含めた長編アニメーションについては、コロナ前より興行収入を落とすようになっているので、ファミリー層が感染リスクを避けて、アニメーション映画は自宅で配信で見ようとなっている面はあると思う。
ただ、マーベル作品に関しては、コロナ前のフェーズ3の頃に比べれば、コロナ禍になってから=Disney+で配信されるようになってからのフェーズ4作品の数字は落ちているかも知れないが、それでも他社作品に比べれば、十分、特大ヒットと呼べる成績をあげている。

つまり、日本ではターゲットである若者層ですら映画館でマーベル作品を見なくなったということだ。

その理由は、至って明白だ。劇場公開から1ヵ月半程度で配信される作品をわざわざ金を出して見るほど、日本の観客に金銭的余裕がないからだ。

また、Disney+がローンチされてからのディズニー映画(ピクサーやマーベルを含む)のほとんどが配信で見ることを前提にした作りになっているというのも劇場離れを起こす要因になっているのではないかと思う。

同じディズニー映画でも、旧20世紀フォックス系の20世紀スタジオやサーチライト作品は、すぐに配信されるのは同じでも、作品自体は映画館で見ることを目的に作られているように思える。

前者では、「最後の決闘裁判」、「キングスマン:ファースト・エージェント」、「ウエスト・サイド・ストーリー 」、「ナイル殺人事件 」といった大作が発表されている。
後者では2020年度アカデミー作品賞受賞の「ノマドランド」や、21年度作品賞候補の「ナイトメア・アリー」、22年度作品賞ノミネートが確実視されている「イニシェリン島の精霊 」といった賞レース向けの秀作が発表されている。

日本では、長引く洋画不振でアメコミ映画でもアニメーションでもないハリウッド映画はなかなかヒットしにくくなっているので、こうした旧フォックス系レーベルから発表されるようなタイプの作品というのは、Disney+がローンチされようといまいと興行収入にはそんなに影響しないのが実情だ。

やはり、Disney+の影響を一番受けているのは、アニメーション作品だと思う。

今年日本公開された海外アニメーション映画で最もヒットしているのは「ミニオンズ フィーバー」で興収44億円。次が「SING シング ネクストステージ」で33億円となっている。
いずれも、イルミネーション作品で、コロナ前の水準と比べても大ヒットと呼べる成績をあげている。

でも、コロナ禍になってからのディズニー系アニメーション映画で興収10億円を突破したのは、今夏公開のピクサー作品「バズ・ライトイヤー」しかない(12億円)。ディズニー本体の作品は1本も大台に到達していない。
ドリームワークスの「ボス・ベイビー ファミリー・ミッション」(2021年12月公開、日本の慣例では22年度扱い)ですら10億円をあげていることを考えれば、完全にディズニーのアニメーション映画は配信コンテンツ扱いになったと言わざるを得ないと思う。

とはいえ、ここ最近のディズニー長編アニメーション映画が地味であることは否定できないと思う。

「ラーヤと龍の王国」(日米2021年3月公開)
「ミラベルと魔法だらけの家」(日米2021年11月公開)
「ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界」(日米2022年11月公開)

地味だよね…。
やっぱり、配信映画って感じがする。

ディズニーのDisney+優先という経営方針で配信受けしやすい作品が増えたというのもあるが、セクハラ問題でジョン・ラセターをディズニーから追い出したことがクリエイティブ面に影響していると見た方がいいのではないかと思う。

ラセターのセクハラ問題が報じられたのは2017年でディズニーを去ったのは2018年だ。

この時期の作品としては、「シュガー・ラッシュ:オンライン」(米国2018年11月、日本同12月公開)がある。
また、追放を受けてクレジットはされていないが、日米で2019年11月に公開されたその次の作品「アナと雪の女王2」もラセター体制下で制作されたとみて間違いないだろう(途中で方針の変更はあっただろうが)。

そして、本作を含む3作品がラセター騒動発覚後の体制で作られたということになるのではないだろうか。

「ラーヤ」はコロナの影響がなければ、2020年11月に公開される予定だったということだから、そう考えると、ここ最近のディズニーはラセターがいようといまいと、5年連続で11月(クリスマス映画シーズン)に新作を用意していたということになる。
供給面だけで言えば、毎年サマーシーズンに新作を発表していた1990年代半ばから2000年代初頭レベルに安定していると言えるのだとは思う。

ただ、クリエイティブ面に関しては低レベルと言わざるをえないと思う。

ても、それは決してポリコレ至上主義のせいではない。

日本のアンチディズニーの連中は何かというと、“ポリコレのせいでディズニー映画はつまらなくなった”と言うが、そんな思想は少なくとも90年代後半には定着していた。単にリベラル的思想が嫌いで言っているだけで、連中はまともにディズニー映画なんて見たことがないんだと思う。

90年代後半の「ポカホンタス」、「ノートルダムの鐘」、「ヘラクレス」、「ムーラン」といった作品はいずれも、メインの男女2人が結ばれずに終わる作品だ。しかも、このうち、「ヘラクレス」以外はヒロイン(女性主人公含む)はマイノリティだ。さらに、「ノートルダムの鐘」の主人公は障害者だ。
要は美男美女が結ばれて、末永く幸せに暮らしましたとさという話ではなくなっていたということだ。
また、ハッピーエンディングではあるが、1992年の「アラジン」だってヒロインは白人ではない。

それを杓子定規のように“ポリコレガー”と言っている連中は、見たこともないのに批判しているのだと思う。

だいたい、日本のアニメショップって海外アニメーションのグッズは売っていないから、そもそも、アニオタと呼ばれる連中は国産アニメにしか興味がない。だから、いまだに世界では主流となっているCGアニメーションを手抜きだとかほざいて受け入れていないんだよね。

なので、ここ最近の作品のビジュアル面がパッとしないことや完成度がイマイチであることは、ポリコレ至上主義のせいではなく、セクハラはダメだけれど、カリスマ性とアーティスト性はあったラセターの抜けた分を埋められていないと見るべきなのではないかと思う。

そして、本作はラセター離脱後のディズニー長編アニメーションで最低と言ってもいいほど、出来の悪いものとなっていた。

ストーリー展開に一貫性はないし、オチもパッとしないし、スコアはどこかで聞いたようなパクリっぽいし…。

環境保護がメインテーマであり、主人公は新たなエネルギー源となる植物を発見したから英雄になれたのに、その植物の絶滅の危機を救うために潜り込んだ世界では、その植物をバンバン武器として使っている。意味不明だ…。絶滅の危機にあるんだよね?何、無駄遣いしているんだ?

しかも、最終的には、この植物こそが環境を破壊する要因だったということが分かる。

何だ、それ?いい加減にしろと言いたくなる。

それって、あれだけ、原発は環境を破壊すると訴えていた連中が、ウクライナ情勢に伴うエネルギー供給事情の変化に伴い、急に脱炭素を進めるには原発を稼働させるしかないとか言い出したのと似ているよね。そういう洗脳目的の映画なのか?

さらに酷いのが、ポリコレ描写満載にして批判しにくくしているということだ。

キャラクター設定はざっとこんな感じだ。

●主人公の父親:環境問題に興味がない体育会系の老害
●主人公の妻:黒人
●主人公の息子:同性愛者
●息子の仲間:息子が好きな男子はヒスパニック、もう1人の男子も有色人種(黒人なのかな?)、仲良しグループで唯一の女子は地味なメガネっ娘
●主人公と旧知の大統領:女性でしかも有色人種(声はルーシー ・リューだがアジア系には見えない)

さらに驚いた設定がこれだ。

●主人公一家が飼っている犬:3本脚

ペットまで障害者にする必要があるか?
こういう批判をすると、ポリコレ信者は“何の説明も必要ないほど社会にマイノリティが溶け込んでいることが大事”とか言って擁護するけれど、実話の映画化でもなんでもないんだから、障害者やLGBTQのキャラが出てくる場合はやっぱり、何らかの必要性を提示すべきだと思う。提示できないのであれば、それは、障害者やLGBTQを単なる置き物として利用しているに過ぎないのでは?

あまりの酷さに呆れてしまった…。

自分がスクリーンで見たディズニー長編アニメーション作品の中ではダントツのクソ映画と言わざるを得ないと思う。

《追記》
たまたま、「ギレルモ・デル・トロのピノッキオ」と本作をハシゴしたが、どちらも父と息子が関係を修復するという話を描いたアニメーション作品だった。しかし、出来には雲泥の差があった。前者はストップモーション・アニメーション史上初のアカデミー作品賞も期待したくなる良作だったが、本作はクソ中のクソだった。

そう言えば、冒頭がいきなり実写で、その後が昔のアメリカ産2Dアニメ風映像、そして、その後にCGアニメーションになるというやり方はくどかったな…。


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