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スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム

アメコミ原作映画というのは本当にリブートが多い。

マーベル原作の本作「スパイダーマン」シリーズは、2002年以降、ソニー・ピクチャーズ配給で本作を含めた8本の実写映画が公開されているが、これらは全て同一シリーズの作品ではない。

2002年から2007年にかけてサム・ライミ監督、トビー・マグワイア主演による3部作が公開されたが、その完結から5年後の2012年にはマーク・ウェブ監督、アンドリュー・ガーフィールド主演の「アメイジング・スパイダーマン」がスタートしている。
しかし、こちらは2作目で終了してしまい、その2作目からわずか3年後の2017年にはジョン・ワッツ監督、トム・ホランド(以下トムホ)主演による新シリーズがスタートしている。その3作目となるのが本作だ。

しかも、このシリーズはマーベル・シネマティック・ユニバースに組み込まれていることから、トムホ演じるスパイダーマンは、ディズニー配給のマーベル映画3作品にも登場している。
さらに、トムホ主演「スパイダーマン」シリーズのスピンオフとして(こちらはマーベル・シネマティック・ユニバースにはカウントされず、スパイダーマン・ユニバースと呼ばれる)「ヴェノム」シリーズ2作品が公開されているほか、今年は「モービウス」という作品も公開予定だ(オミクロン株の影響で当初予定より公開時期は遅れるが)。

さらに、同じソニー・ピクチャーズ作品としてアニメーション版「スパイダーマン」シリーズも2018年から始まっている。今年、公開される続編のタイトルには“Part One”という言葉が含まれていることから、どうやら2部作のようだ。つまり、最低でもこのアニメーション版シリーズは3作目までは作られるということだ。

アメコミ映画に興味がない人には何のことやらという感じでリブートや分裂を繰り返しているといったところだろうか。

「スパイダーマン」以外にもマーベル作品の中でリブートされたものには、「ファンタスティック・フォー」がある。2000年代に2作品が公開された後、2010年代にリブート作1本が発表されている。

マーベルではないが、ダークホース・コミックス作品「ヘルボーイ」も2000年代に2作品が公開された後に、2010年代にリブート作1本が発表されている。

マーベルと双璧をなすDCコミックス原作映画はワーナー 配給で公開されているが、こちらもリブートが目立つ。

「バットマン」シリーズはテイム・バートン監督、マイケル・キートン主演の1989年作品からスタートした。1992年の2作目は同じ監督・主演コンビだったが、95年の3作目は監督がジョエル・シュマッカー、主演がヴァル・キルマーに交代した。しかし、ティム・バートンがプロデューサーとして残ったためにリブートではなく、同一シリーズの作品扱いになった。
さらに、97年の4作目は主演がジョージ・クルーニーに交代したのみならず、ティム・バートンも完全に抜けてしまったが、監督は引き続きジョエル・シュマッカーだったため、引き続き続編とカウントされることになった。

それから8年経った2005年、クリストファー・ノーラン監督、クリスチャン・ベール主演による「バットマン ビギンズ」が公開された。
このコンビで、この後、2008年に「ダークナイト」、2012年に「ダークナイト ライジング」が発表されたが、明らかに97年までの4作品とは異なるテイストであったために、それとは別の「ダークナイト・トリロジー」と呼ばれることになった。

そして、ワーナーは、ディズニーのマーベル・シネマティック・ユニバースに対抗するため、DCエクステンデッド・ユニバースをスタートさせ、それに合わせて新たなバットマン俳優としてベン・アフレックを起用したが、こちらは他のヒーローとのクロスオーバー作品3本と、今年公開予定の別ヒーローの単独作品「ザ・フラッシュ」への登場のみで終わってしまい、ベンアフ版バットマンの単独作品は作られることなく幕を閉じることになった。

そして、今年、新たにリブートされた「THE BATMAN」が公開される。こちらは、ワーナー映画であるにも関わらず、DCエクステンデッド・ユニバースには含まれないということだから、もう何がなにやらといったところだ。

バットマンと並ぶDCの2大巨頭である「スーパーマン」もリブートされ続けている。
1978年から87年にかけて4作品が作られたクリストファー・リーブ主演のシリーズが一番有名だが、2006年にはブランドン・ラウス主演で「スーパーマン リターンズ」が発表されている。
さらに、2013年にはヘンリー・カヴィル主演で再度リブートされた「マン・オブ・スティール」が公開されている。
その後、現時点では単独のスーパーマン映画は作られてはいないものの、ヘンリー・カヴィルはクロスオーバー作品2本に出演している。

「スーサイド・スクワッド」もかなり複雑なリブートがされているコンテンツだ。
2016年の「スーサイド・スクワッド」と2021年の「ザ・スーサイド・スクワッド」に共通して出演しているキャストはいるし、さらにマーゴット・ロビーは彼女が演じるハーレイ・クインが人気を集めたことから、この2本のみらず、ハーレイを主役にしたスピンオフの「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒」にも出演している。
しかし、「ザ・スーサイド・スクワッド」は明確に「スーサイド・スクワッド」の続編とはアナウンスされていないし、キャストが大幅に入れ替わっている。となるとリブートなのだろうか?

とはいえ、「スースク」なんてハーレイ目当てで見ている人がほとんどだろうから、ハーレイをマーゴットが演じていればシリーズもののような気もするしね。何だかよく分からない…。

マーベルにしろ、DCにしろ、何故、リブートするのかといえば、シリーズものといえば、年数を重ねるごとにレギュラーキャストや連続登板の監督のギャラが上がっていくから、それを阻止するために10年以上も関与させないようにするという狙いもあるとは思う。

また、興行的もしくは批評的に失敗したとしても、原作自体の人気は高いから、再チャレンジで成功する可能性があるのでリブートするという理由もあると思う。だから、悪印象を払拭するために、キャストや監督を変更してイメージアップしようとしているのだろう。
まぁ、単純に同じテイストの作品は3〜4本までがいいところでしょってのもあるとは思うが。

それにしても、本作もそうだし、アニメーション版「スパイダーマン」もそうだし、今後公開予定のDC映画にもそういう要素を持った作品があるようだが、最近のアメコミ映画にはマルチバース的展開のものが目立つよね。要はパラレルワールドものだ。

アメコミ映画に限らず、日本の「仮面ライダー」シリーズや、「戦隊」シリーズもそうだけれどね。

つまり、大元は同じだけれど、そこから設定を変えて枝分かれしたそれぞれの作品を合体させれば、それぞれのファンが見てくれるから注目度が増す=興行成績が伸びるという発想なんだろうね。

テレビシリーズ、旧劇場版、新劇場版、全ての要素を網羅した完結編となった「シン・エヴァンゲリオン」もこのタイプの作品と言っていいのかも知れない。

というか、本作もそうだし、最近の「ライダー」や「戦隊」もそうだし、「エヴァンゲリオン」もそうだけれど、マルチバースというか、パラレルワールドというか、そういう展開の作品って、メタ構造になりがちだよね。

「ライダー」と「戦隊」のクロスオーバー映画「スーパーヒーロー戦記」に少年時代の原作者・石ノ森章太郎が出てくるのもそうだし、「エヴァ」の旧劇に映画館で鑑賞するオタクが出てきたのもそう。

本作には、現シリーズの主演であるトムホのみならず、前シリーズ「アメイジング」の主演・アンドリュー・ガーフィールドや、本格的にスパイダーマン映画が作られるようになってからの最初のシリーズの主演・トビー・マグワイアも登場するが、シリーズによってクモの糸の出し方とか恋人の名前などの設定が違うとか、現シリーズのみ「アベンジャーズ」に組み込まれているという作中のメタ要素だけでなく、事実上の打ち切りとなった「アメイジング」シリーズを労うように、やたらとアンドリュー演じるスパイダーマン(ピーター・パーカー)に対して“素晴らしい(アメイジング)”と言ったりするような現実世界を反映したメタなネタもある。

世の中には内輪ネタや夢オチを極端に嫌う人も多く、メタにはそういう要素も含まれているので、こういう展開を嫌う人はかなりいるだろうなとは思った。

その一方で、そうしたメタ要素以外の部分は非常に感動的な作りなっていた。
トビー版にはあったピーター・パーカーの陰キャ設定は、アンドリュー版、トムホ版と進むにつれ、どんどん薄れていったが、今回のラストはスパイダーマンの課せられた孤独な責務を感じさせてくれていて、そういう意味では、全てのエヴァンゲリオンの完結編となった「シン・エヴァンゲリオン」に近い、全てのソニー版実写スパイダーマン映画のとりあえずの一区切りと言ってもいい内容になっていたと思う。結構、ウルウルできたしね。

米国のメディアが絶賛するほどの名作だとは思わないけれど、絶賛したくなる気持ちは分からないでもないんだよね。何しろ決戦の場は自由の女神だからね。そりゃ、米国人ならグッと来るよね。

個人的にはサム・ライミ監督・トビー主演によるシリーズの2作目、1作目に続く出来かなとは思った。

そして、本作の素晴らしいところは、セカンド・チャンスを与えるべきと訴えていることだ。
米国で高評価を受けているのは、最近、米国で蔓延しているキャンセルカルチャーに対して「NO!」を突きつけているように見えるところにある気がする。これで、米映画界からは何人もの優秀な人材が追放されてしまったしね。勿論、起こした犯罪や差別的な言動に関してはきちんと反省すべきだとは思う。でも、反省しても許されないという風潮が最近はあるしね。

これまでの各シリーズに登場した悪役にも立ち直るチャンスを与えようという本作からは、米映画人からの“いい加減、そういうキャンセルカルチャーはやめようよ!”というメッセージを受け取ることができた。

ところで、冒頭でスパイダーマンは“PUBLIC ENEMY #1”だという台詞があるのに、パプリック・エネミーをかけないってどういうことだよ!
途中にビースティ・ボーイズを口ずさむキャラクターが出てきたり、エンド・タイトルにはデ・ラ・ソウルが使われていたけれどね…。

そういえば、ドクター・ストレンジがピーターに対して、その時のピーターの態度などに合わせて、認めた時は“ファーストネームで呼べ”と言い、腹を立てている時には“敬称をつけて呼べ”と言っているのが個人的には好きなやり取りだったりする。
基本、英語圏の人間は親しい関係になればファーストネームで呼び合うから、それを敬称つきで呼ぶ時は意味があるんだよね。
でも、日本語字幕では文字数の都合もあるんだろうけれど、そうした関係性がきちんと反映されていないことが多い。特にピーターとメイおばさんの関係が酷い。ピーターは“メイおばさん”と呼ぶ時と、“メイ”と呼ぶ時を使い分けているのに字幕ではそれがきちんと訳されていないんだよね。本当、残念で仕方ない。

《追記というかネタバレ色々》
ネッドって、能力者だったのか…。

やっぱり、クリスマスツリーが出てくるラスト・シーンを見ると、本作は海外と同じく12月に公開すべきだったね。

結局、ヴェノムとは直接の絡みはないのかよ…。

あと、ソニー配給作品なのに、ディズニー配給の「ドクター・ストレンジ」最新作の予告的映像が最後に入るというのは斬新だな…。

そういえば、ドクター・ストレンジのパーカー姿って新鮮だな。

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