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【推しの子】

ここ最近、シリーズものとか分割2クール放送作品、リメイクものなどを除くと、いわゆる覇権と呼ばれる作品ってないよねと思っていた。

個人的には覇権と呼んでいいのは初めてアニメ化された作品だけなんじゃないかと思っている。

2022年10月期は「水星の魔女」があっただろうと言う人もいるが、あれはあくまで「機動戦士ガンダム」シリーズの1本だからね。

23年1月期は前半の鬼頭明里無双状態が終盤まで続いていれば、「英雄王」一択と言いたいところだけれど、後半は単なる異世界転生バトルものになってしまったので正直なところ覇権とは呼び難い。

まぁ、自分が見た作品の中だけで語っているので、毎クール10本とか20本とか見ている人だと常に覇権作品はあるのかも知れないが。

本作「推しの子」は間違いなく、23年4月期の覇権だと思う。

アニオタだけでなく、サブカル厨にも広がったし、YOASOBIのオープニング曲“アイドル”経由で一般にも支持層は拡大した。

また、元々、アニオタが多い業界とはいえ、アイドルや風俗嬢の間での本作の支持率は圧倒的だった。ぶっちゃけ、このジャンルの女子に限定したら、「鬼滅の刃」や「SPY×FAMILY」以上の人気だと思う。

おそらく、アイドルや風俗嬢などファンや客に恋愛感情を抱かせて金を儲ける仕事をしている人たちにとって、自分の話と思えるような要素があるからだと思う。

それは本作がファンに妊娠・出産したことを隠していた人気アイドル・アイが、ガチ恋オタクにその事実を知られ殺害するという話だからだ。
つまり、本作に共感するということはアイドルや風俗嬢のほとんどは彼氏やそれに近い存在がいながら、それを隠して、色恋営業をしているということなんだろう。
だから、自分もアイのような悲劇のヒロインになる可能性があると思いながら見ているのだと思う。

そして、彼女たちは絶賛する理由としてリアリティのある描写を上げている。確かに作中に登場するアイドルフェスJAPAN IDOL FESTIVALはアイドルやオタクなら誰でもTOKYO IDOL FESTIVALを思い浮かべるものだ。ロゴもそっくりだしね。アイドルの人気や格によって使える楽屋が違うというのも、アイドルにとってはあるある話なんだと思う。

また、リアリティ番組出演者が自殺をはかろうとするエピソードが放送された時には、実際にリアリティ番組に出演して自殺した女性の母親が本作に抗議をしたくらいだから、おそらく、リアリティ番組の裏側もリサーチしているのだとは思う。

ただ、全てのエンタメ関係の現場がリアリティあるものかというとそうでもないんだよね。

TIFっぽいアイドルフェスが描かれているということは少なくとも本作の舞台となっているのはTIFがスタートした2010年以降ということだ。

そして、このフェスに出演したアイドルグループ・B小町(新生版)のメンバーであるルビーはこの時点で高校生である。
その年齢から考えると、オリジナル版・B小町のメンバーで、ルビーの母親であるアイが現役アイドルだった時代というのは、どんなに古くても90年代以降ということになる。もっとも、90年代は終盤にモーニング娘。がブレイクするまではアイドル冬の時代と言われていたし、90年代半ばから後半にかけて人気を集めたSPEEDやMAXなどは自ら積極的にアイドルとは名乗っていなかったと記憶している。
つまり、アイが活躍した時代は90年代末から2000年代初頭の頃と考えるべきだ。なので、ルビーがTIFもどきに出演した時期は2010年代後半以降ということになる。

そう考えるとアイの現役時代(まぁ、現役のまま殺害されてしまったので、アイドル卒業後のキャリアというのはないが)に出演したテレビの音楽番組のスタジオの描写っておかしいんだよね。

スタジオでプカプカとプロデューサーがタバコをふかしていたからね。
というか、アイが活躍していた時代が仮にアイドルが人気を集められなかった冬の時代だった90年代だったとしても、スタジオ内で喫煙するのはありえない。80年代ならそういうのはいたかも知れないが90年代ではまずない。

また、ルビーと同じくアイの子どもであるアクア(ルビーとは双子)が番記者にリアリティ番組の裏側をリークする場面はいかにもテンプレ的描写だった。というか、無名の高校生タレントもどきの話に番記者が乗るとは思えない。

なので、興味の有無が背景にあるとは思うが、原作者やアニメ制作者がリサーチに力を入れた場面とそうでない場面でリアリティの有無に差が出ていたとは思う。リサーチに力を入れていないと思われる部分はステレオタイプ、テンプレ的な描写になってしまったというところだろうか。

とはいえ、全体としては非常に面白かったし、笑えるシーンやゾクっと来る場面もあったし、感動するエピソードもあった。
また、本来ならアイの子どもであるアクアやルビーが人気キャラになるはずなのに、アクアの子役時代の仕事仲間で、今はルビーと同じB小町のメンバーである有馬かな(重曹ちゃんorロリ先輩)の方に人気が集まるのも分かる。明らかに原作者やアニメ制作者はかなを気に入っていると思われるから見せ場が多くなっていて、それを見ていれば、そりゃ、視聴者も重曹ファンになるよね。

そして、本作を語る上で外せないのが第1話が90分枠の拡大版として放送されたことだ。
その拡大版はそのまま、先行上映版として映画館でも上映された。というか、エンドロールの尺は劇場上映版の方が長かったから、あれは劇場版と言っていいのかも知れない。

そして、原作を読んだことがない者からすると(ちなみに自分が読んだのは1巻だけ)、トリッキーにも思える実は主人公は人気アイドルのアイではなく、隠し子の双子である(というか実質アクアの方が主人公)という展開をアニメ化するには、アイが殺害され、双子が成長するまでを通常の30分枠で3〜4話かけて放送すると、1クールアニメとしては序盤の3〜4話とその後の十数話が全く異なるアニメに思われてしまう。何しろ主人公が変わるわけだからね。
「まどマギ」では主要キャラの1人が3話目にして絶命するという衝撃的展開で話題になったが、主人公と影の主人公はその後も生き続けたので(まぁ、主人公は別ルートでは既に絶命していたということだが)、進行上は問題がなかった。でも、「推しの子」を30分枠でやると、3話目もしくは4話目で主人公が絶命し、それ以降は別の者が主役になってしまう。

「IDOLY PRIDE」のように第1話で主人公もしくはヒロインと思われるキャラが絶命しても、それ以降、幽霊として登場するというトンデモ展開ならまだしも、そういう話でもないから、この展開を素直に視聴者に受け入れてもらうには、エピソードゼロのスペシャル版としてアイが亡くなるまでを一気に見せた方がいいと判断したということなのだろう。
そして、その見せ方が大きな話題となったわけだから、この作戦は大成功と言っていいと思う。

ところで、この「推しの子」、超拡大版の第1話はオープニング曲がエンディングにかかるというパターンだったけれど、それ以外は毎回アバンなしでオープニング曲から始まるという昭和のアニメのような構成なんだよね。それから、女王蜂のエンディング曲“メフィスト”もラストシーンからかかりはじめてエンドタイトルになるという作りで(全話がそうというわけではないが)、フリーズやズームはないけれど、ラストシーンにかぶるという点では「シティーハンター」に通じるものもある。だから、若者だけでなくオーバー40にも受け入れやすいアニメとなっている。

一つ気になるのは途中で総集編が挟まったことだ。「水星の魔女」はSeason1もSeason2も途中で総集編が挟まり、いずれのシーズンも最終回の放送は次クールの初頭にこぼれていた。
これは明らかに制作の進行が遅れたために穴埋めとして総集編を入れ込んだということなんだと思う。

でも、本作はきっかり6月最終週=4月クールの最終週に放送を終えている。全11話構成だが第1話は90分枠ということを考えると実質13話程度をきちんとクール内に終えたということだ。
となると、あの総集編は制作進行の遅れの穴埋めのために放送する、いわゆる万策尽きた結果の総集編ではなく、話題になっているからという理由で途中から見るようになった人に、これまでのストーリーを知ってもらい、できれば配信で最初から見て欲しいということを促すためのものだったのだろうか?

確かにめちゃくちゃ続きが気になるところで中断して総集編が挟まれたので、そういう後追いファンを増やす狙いはあったようにも思えた。

そして、最終回の最後では予想通り2期の制作が発表された。というか人気を考えたら当たり前だし、原作はまだ続きがあるんだから、余程、大コケしない限りは、まぁ、普通は続きを作るよね。

そして、気になることがある。本作で名称は異なるものの、ロゴデザインや会場の雰囲気がほぼTIFそのもののアイドルフェスが出てきたことだ。
そして、本家のTIFとコラボして高額チケット入場者用のTシャツは推しの子がデザインされたものになると発表された。

TIFというのはフジテレビのイベントだ。そう考えると、ここまでTIFとタイアップしてしいるということは2期はフジテレビを中心に放送されるコンテンツになってしまうということなのだろうか。

TOKYO MXなどのローカル局やBS局などで放送され話題となったアニメの新シリーズがNHKやキー局に奪われてしまうというのはよくあることだ。

最初はMXでやっていたものをCXが強奪したということで言えば、「鬼滅の刃」もそうだ。何か、「推しの子」もこのパターンになりそうだ。スタッフ・キャストの知名度を上げる=ギャラを上げるには、独立ローカル局やBS局で放送するより、NHKやキー局で放送した方がいいのに決まっている。でも、MX辺りのおかげで話題になったコンテンツが、有名になった途端、金になるとしてNHKやキー局に持っていかれるのは複雑な気持ちだよね。

それにしても、いかにも続き作る気満々の終わり方だったな…。まぁ、エンディングに直結で2期制作決定のお知らせを流したからこの終わり方でもいいんだけれど、あれがなかったら、ただの打ち切り漫画の最終回だよねって感じはしたかな。

とりあえず、最終回のTIFもどきフェスの描写、ドルオタやアイドルなら、頷きたくなるエピソードてんこ盛りだった!

《追記》
ここ数ヵ月、アイドルの繋がり関係の不祥事が目立ったのって、推しの子人気の影響もあるよね。
作品に感化され、別にアイみたいに彼氏がいたっていいじゃんと開き直るようになったアイドルって多いのでは?
というか、アイドル業界の推しの子支持率の高さを見るとそうとしか思えない。

※画像は拡大版第1話の劇場公開版のチラシ(上映劇場で撮影)

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