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もしも徳川家康が総理大臣になったら

ニュース番組の仕事をしているため、作中のニュースを伝えるシーンにおける記者やアナウンサー、キャスターの言葉使いやテロップ表記の仕方については、どうしても、“それは違うよ”と言いたくなってしまう部分がある。

あと、偉人内閣の人数も少ないなと思ったりもした。

コロナ禍の描写に関しても、マスクを着用している人の比率は2020〜22年ならもっと多かったと思うし、フィクションと割り切ってマスクを着用させないで通すならそれでも良かったと思う。マスク着用している人とそうでない人が半々というのは23年頃の風景では?



でも、そうした細かいことを除けば、政治的・社会的なメッセージを込めながらエンタメとしても成立している邦画としては珍しいタイプの作品となっていて評価できると思う。
しかも、バカバカしいギャグと理解している人なら“うまい”と言いたくなるような小ネタも挟み、しかも、安っぽく見えない大作感もある作品に仕上げているのは見事の一言だ。さすがは、「テルマエ・ロマエ」シリーズや「翔んで埼玉」シリーズなど、バカバカしいことを真面目に金をかけてやる作品で定評のある武内英樹監督といったところだろうか。

ただ、政治的・社会的な描写に関しては敵を作りたくないのか全方位(政治家、マスコミ、国民)をやんわり否定といった作りになっていたようにも感じた。

次から次へとキャッチーな政策を打ち出す偉人内閣を絶賛する市民の姿というのは、改革を打ち出した小泉政権や第二次安倍政権を妄信した結果、貧しくなってしまった日本国民の描写であることは誰が見ても明らかだ。

ただ、マスコミ報道が正しくないとか、代案・対案を出さない野党は仕事をしていないといったネトウヨの常套句のような主張がたびたび出てくるのは気になった。

というか、AI技術で再現された偉人を使った内閣というのは与党が作ったもので、その偉人内閣が消滅して行われる解散総選挙の際に、政治部記者がその偉人内閣の総理大臣のメッセージを心にとめて投票しようと呼びかけるのは明らかに与党寄りの発言だ。全然、公平な報道ではない。

それから、日本は世界最古の国というメッセージを言い出したのもネトウヨ思想全開だと思った。
日本は戦後、大日本帝国ではなくなったし、日本国憲法が制定されたし、天皇は象徴になったのだから、戦前の日本とは別の国だ。

現在の体制を尺度にするなら、ネトウヨが嫌いな中華人民共和国や大韓民国とたいして歴史は変わらない。こうした主張を全面に出した作品は海外から批判されるのでは?

でも、近隣アジア諸国には好かれていない豊臣秀吉を悪役にしている。本当、この作品の政治思想は右に行ったり左に行ったり定まっていないなと思った。

まぁ、ひろゆきもどきのYouTuberが出てきたり、クイーンの“ウィ・ウィル・ロック・ユー”とデフ・レパードの“シュガー・オン・ミー”をつなぎ合わせたような劇伴が流れたのは面白かったけれどね。

ところで、本作の浜辺美波はショートヘアでの登場だけれど、こういう髪型だと同じ東宝所属の先輩、長澤まさみみたいだなと思ってしまった。ひと昔前の彼女の出演映画を見ている気分になった。



それにしても、現実世界の政治はどの国も酷い。AIで再現された過去の偉人を閣僚にしたくなるくらい適材がいないという現在の政治の酷さを本作は描写しているのだろう。

本作は“もし徳”と略されているが、現実世界では似た語感の“もしトラ”=もしトランプ前大統領が大統領に復帰したらが話題となっている。
別に“もしトラ”という言葉は本作の原作が元ネタではない。“もし徳”以上に語感が近い“もしドラ”=もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだらが元ネタであることは明白だ。

ただ、トランプ前大統領が有罪評決を受けたことから、“もしバイ”=もしバイデン大統領が再選したらという言葉も聞かれるようになった(元ネタからだいぶ語感が離れてしまったが)。とはいえ、こちらも息子が有罪評決を受けている。

本人が有罪評決を受けた候補と息子が有罪評決を受けた候補が争う大統領選なんて前代未聞だろう。

と思ったら、言い間違いの多さなどバイデン大統領の失態が次々と明らかになり、彼がさらに4年務めるのは無理だと誰もが思うようになった。

その結果、彼は大統領選の撤退を表明し、かわりにハリス副大統領が民主党の大統領選候補として指名される見通しとなった。
彼女が副大統領に選ばれたのは健康上の理由かスキャンダルかは分からないがバイデンがいつ失脚してもいいように、リベラル層や若者が好む、女性で黒人でアジア系で、しかも高齢者でない存在であることが大きかったと思う。しかし、就任以来の3年半、彼女はバイデン以上に存在感がなかった。というか、アジア人軽視と思われる言動もあった。

そんなハリスをポリコレ脳に毒された米国の俳優やミュージシャンは絶賛しているのだから呆れるばかりだ。

都知事選も同じく酷かった。

事実上、現職と彼女と同様にニュースキャスター経験のある女性の2人、小池と蓮舫による争いとされていたが、2人とも告発されている。
そして、この2人だけの戦いとして報道すると、公選法に抵触してしまうから、マスコミなどは主要候補として、もう2人を組み入れていたが、その2人は東京で得た金を地方に回すなどと都民をなめくさったことを言っていた石丸と単なる老害ネトウヨの田母神だ。

こんなのが主要候補になるくらい、他の候補はさらに酷かった。

56人も立候補していたが、先述した主要候補を含めて全員酷い。

ポスター問題は、大量に候補を立て、その本人のポスターを貼らずに、掲示板へのポスター掲示権を転売したアホな政党も問題だし、自分ではない者のヌードをポスターにして掲示した候補もアホだ。

また、大量の泡沫の立候補が予定されていたのにそれにあった数の掲示スペースを用意せず、届出が遅くなった候補には欄外にクリアファイルをくっつけて、その中にポスターを入れされるなんてことをやらせていた。全然、公平な選挙ではない。

候補もアホなら選管もアホだ。

そして、結果としては、小池が再選し、石丸が2位に入る大躍進となってしまった。都民には東京が嫌いな人間=田舎者が多いから、左派とされる蓮舫が嫌われ、東京嫌いの石丸が躍進したのだろう。

こうした呆れてしまうような劣化した国内外の政治の風刺として、本作は良くできていると思う。

※試写会に招待され鑑賞したが公開日を待って投稿。鑑賞直後に抱いた感想を一部、その後の政治情勢に合わせて加筆修正。

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