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劇場版 四畳半タイムマシンブルース

アニメ化された小説「四畳半神話大系」と映画化された戯曲「サマータイムマシン・ブルース」のコラボレーション(クロスオーバー?)作品である小説が原作で、Disney+で配信されているアニメのうち配信限定を除いたエピソードを再編集した劇場版ということだ。枕詞が長い…。

そして、配給は問題を起こしたKADOKAWAとアスミック・エースが共同で担当している。

アスミックは現在はKADOKAWAの資本からは離れているが元々は傘下にあった企業なので、本作は実質、KADOKAWA映画と呼んでいいと思う。

KADOKAWAといえば、東京五輪を巡る汚職事件で会長の角川歴彦が逮捕されたばかりだ。

最近、欧米のエンタメ界ではキャンセル・カルチャーが蔓延している。
性暴行や暴力、セクハラ、パワハラ、差別的言動を働いた映画監督やプロデューサー、俳優などに対して、その問題が事件化されようとされまいと、現在進行形だろうと過去の話だろうと、それを許さず、その者の最新作だけでなく、過去作品まで触れてはいけない存在にしてしまうことだ。

個人的には、被害者やその周囲の人の心情を考えれば、完成済みの最新作の公開が中止・延期となったり、撮影中の作品が製作中止・延期・再撮影となるのは仕方ないと思う。

でも、過去作品、しかも、大ヒットした作品や賞レースを賑わせた作品まで封印するのは違うよねって思う。

日本でも一時期、問題を起こした俳優や監督の作品の公開延期・中止が相次いでいた時期があった。しかし、思想の左右を問わず、日本にはキャンセル・カルチャーを嫌う者が多いことから、いつの間にか、無視して公開するようになった。
というか、コロナ禍で金銭的な余裕がなくなったから、そんなの気にしていられないということなのだろう。とにかく、今すぐ収入が欲しいんだという風になっただけだと思う。

性暴行問題を起こした榊英雄の2作品「蜜月」、「ハザードランプ」も当初は騒動をスルーし公開しようとしていた。
「蜜月」は関係者が文春砲が出ることを知っていたと思われるのに、国際女性デーに合わせて完成披露を行うというありえないことまでやってしまったし、この舞台挨拶での佐津川愛美の発言を鑑みるとと彼女も文春砲が出ることを知っていたと思うのが妥当だが、そのせいでさらに叩かれる要因となり、あっさりと文春砲が世に出たことで公開中止となってしまった。

それでも、「ハザードランプ」側は公開を強行しようとしていた。
しかし、リベラルやフェミ系、特に映画マニア以外の層からの批判の声が高まり、こちらも最終的には公開中止となった。

東京五輪という国をあげての事業のドキュメンタリーだから公開は延期されなかったが、暴力問題が明るみに出た河瀨直美の東京五輪ドキュメンタリー2部作がほとんど宣伝されることなく大コケしたのもこの流れといっていいだろう。

つまり、左右問わずいくら映画マニアが、“作品に罪はない”と言っても、世間はそうは見てくれないということだ。

この傾向に照らし合わせれば、会長が逮捕されているKADOKAWAも自社作品の公開を延期・中止すべきだと思う。でも、KADOKAWAはそうしなかった。

というか、あれだけポリコレ至上主義を全開にしているディズニーがシリーズ版をDisney+で配信しているのは何故?ディズニーに限らず、アマゾンもNetflixもそうだけれど、欧米ではポリコレ路線なのに、日本では差別主義全開なのは何故?ディズニーなんて、日本人吹替キャストのみに“さん付け”をし、オリジナル言語版キャストを呼び捨てにするという人種差別を平気でしているしね。

それに、本作にはフジテレビも絡んでいるが、キー局は問題を起こした俳優が出ているドラマやバラエティなんかは再編集したりするのにKADOKAWAの不祥事は黙認というのもダブルスタンダードすぎる。
最近はテレ朝がコアな視聴者層である老害どもに媚びて「六本木クラス」の香川照之出演シーンを黙認した例はあるが、一般的には該当シーンはカットするなど再編集されるか、作業が間に合わない場合はお断りスーパーを入れて放送するのが常なのにね。

いくら、角川歴彦本人の名前がクレジットされていないとはいえ、今回は対応が甘すぎでしょ!

本作と同じ9月30日公開の「マイ・ブロークン・マリコ」はハピネットファントム・スタジオとKADOKAWAの共同配給で、クレジットもKADOKAWAがトップになっていないからいいとしても、本作はKADOKAWAとかつてはKADOKAWAの傘下にあった企業の共同配給だし、既に9月16日から上映されている「川っぺりムコリッタ」なんて、KADOKAWAの単独配給作品だ。KADOKAWAは邦画界において東宝・東映・松竹の大手3社に次ぐポジションについているし、大映作品の権利も持っているし、洋画の配給も行っている。また、オタク向けアニメの世界では劇場版、テレビの深夜アニメを含めて、かなりの影響力を持っている。

だから、たかが会長のスキャンダルくらいで、作品の公開を延期したくないということなのかも知れないが、最近、映画業界でしきりにアピールしようとしているハラスメント対策と矛盾しているよね。
まぁ、ハラスメント対策を講じるべきだと主張している白石和彌が性加害側を容認していると指摘されても仕方ないような発言をしているし、是枝裕和にもハラスメント疑惑はあるし、本当、日本の映画人って自分勝手だよねと思う。

作品自体についても語っておこう。

シリーズものを再編集した作品、しかも、タイムリープものだから、どうしても同じようなシーンを何度も繰り返すことになるので、正直なところ、見ていて、睡魔に襲われそうになるというところはある。
これは多分、一気に見るのではなく、テレビ放送で何週間かにわけて見た方が楽しめるタイプのものなんだと思う。
まぁ、何度もタイムリープすると言っても、「エンドレスエイト」に比べれば、それぞれのタイムリープごとに明確な違いはあるから、そこまで、イラつくことはないけれどね。

というか、よくできた話だと思う。
最近はアニメにしろ、ドラマにしろ、やたらと、伏線回収という言葉を使って、作品をマンセーする人が増えたけれど、大抵の場合、彼等が言う伏線って、全然、伏線ではないんだよね。

誰が見ても、途中までしか提示されていないシーンの続きをその後のエピソードで描くことや、誰が見ても消化不良に感じる登場人物の言動の理由を後出しの回想シーンとか、説明台詞で描くことは伏線回収でもなんでもない。ただのクソ脚本だ。

でも、本作はきちんと伏線が張ってそれを回収している。見た者の誰もが疑問に思うことも、多少、強引ではあるものの、とりあえず、納得のいく形で解決していたので、そうした作劇力は賞賛に値すると思う。

それにしても、「四畳半神話大系」のアニメが放送されたのが2010年で、その流れを汲む作品だからとはいえ、坂本真綾がヒロイン役というのは2022年の視点で見ると、ちょっと驚きではあるよね。まぁ、去年公開された「シン・エヴァンゲリオン」もヒロインと言えばヒロインなんだけれどね。

あと、この手のクリエイティブ現場ものアニメって(本作は大学の映画サークル関係者の話)、「SHIROBAKO」にしろ、「映画大好きポンポさん」にしろ、「冴えカノ」にしろ、アニオタって過大評価でしょってくらいに絶賛するから、本作もアニオタの受けは良いのではないかと思う。

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