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第96回アカデミー賞結果発表を受けて

日本時間午前8時過ぎに授賞式がはじまり、午前11時半までに終わったことには驚いた。

視聴者数の減少を避けるために、授賞式の時間を短くしようという動きはだいぶ前からあるがその影響だろうか?

作品賞、主演男優賞、主演女優賞、監督賞といった終盤に発表される主要部門以外はスピーチが規定の時間をオーバーしたら、音楽を流してとっとと追い出すようにする“演出”は年々、顕著になっている。
技術系の部門や短編系の部門の発表を生中継でやめようと画策したこともあった。もっともこれは映画人の反発を受けて取りやめになったが。

日本時間の午前8時ということは、授賞式が開かれた米国の西海岸では日曜日の午後4時ということだ。普通に考えたら、家族や友人が揃って家でテレビを見る時間にはちょっと早い。東海岸時間で考えても、授賞式が終わるのは午後9時半くらいだ。夜が遅い米国人の生活スタイルから見ると開催される時間帯は早すぎる。あまり、視聴率が期待されていないということなのだろうか?
ちなみに正確には気になるのは視聴率ではなく視聴者数。米国は日本のように地上波キー局しか見ない人がほとんどという国ではなく、日本で言うところのキー局以外のチャンネルも多くの人が見ているので視聴率を出しても意味がないので。

テレビ局の話ついでに言うと、WOWOWの中継番組で現地のCMタイムを埋めるために日本側で用意したコメンテーターが討論するコーナーが設けられているが、これに毎回のように旧ジャニーズの連中を出すのはどうにかならないのだろうか?

年齢もキャリアも上、ぶっちゃけ、演技力も上の海外の俳優について、ジャニタレが上から目線で、しかも呼び捨てで語っているのが本当、不快なんだよね。

そして、このジャニタレを見たいからジャニオタがWOWOWを見て、受賞結果や受賞作品ではなく、このジャニタレについてXでコメントしているのも腹が立つ。

WOWOWがやっていることは映画に対する冒涜だと思う。

受賞結果に関しては、ほぼノーサプライズだったと思う。



「オッペンハイマー」が作品賞、監督賞を取るのは多くの映画ファンの予想通りだ。まぁ、7冠ではなく8冠だと思った人が多かったとは思うが。唯一、予想が外れたのは音響賞を「関心領域」が持っていたことくらいだろうか。



あとは、オリジナル脚本賞が今回の受賞作となった「落下の解剖学」でなく、「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」もしくは、「パスト ライブス/再会」が取るのではと思っていた人も多かったのでは?



マーティン・スコセッシ監督作品「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」は10部門でノミネートされていたが、まぁ、無冠に終わるだろうと予想していた人も多いと思う。

何しろ、スコセッシ監督作品は「ギャング・オブ・ニューヨーク」も「アイリッシュマン」も10部門でノミネートされながら無冠に終わっているからだ。

「オッペンハイマー」に関しては日本人からすると原爆の描写が物足りないと思うのは当然だと思う。とはいえ、原爆投下が100%正義だという米国側のプロパガンダかと言うとそうとも言い切れない。というか、日米関係という視点では比較的、公平中立に描かれている。

どちらかと言うと本作は第二次世界大戦で一番の被害者はユダヤ人だということを言いたいのだと思う。オッペンハイマーはユダヤ人だしね。

また、大戦中の同盟国だったソ連(ロシア)は信用できない国だったということを強調し、現在のウクライナ情勢を想起させることも目的になっているように思う。

そして、何よりも言いたかったことは大戦終了後、米ソ対立により起きた赤狩りに対して映画業界は自戒の念を持っているということだろう。

当時、ソ連のやり方を支持していなくても左翼思想を持っているだけで、知人や家族に共産主義者がいるだけで処分された研究者や映画人が多くいたが、このようなことはあってはいけないということを言いたいのだろう。現在のハリウッドの行き過ぎたポリコレは結局、この赤狩りの動きに協力して優秀な映画人を追放してしまった過去の贖罪のような意識から来る左派思想へのシンパシーなんだと思う。

とりあえず、「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」以来、実に20年ぶりに全米興収3億ドルを突破した作品が作品賞に輝いたことは歓迎すべきことだと思う。作品賞候補が10本もあるのに、そのほとんどがポリコレ路線のアート作品。1〜2本混じっている大作の大ヒット作品は主要部門では受賞できずという状況がしばらく続いていたからね。



「哀れなるものたち」が4冠となったのも納得だ。一度は命を失ったもののマッド・サイエンティストによりよみがえった女性の見た目は大人、頭脳は子どもという名探偵コナンの逆バージョンみたいな状態から、性に目覚めてやりまくる状態、自我を持ち自立していく状態までを演じ切ったのだから、エマ・ストーンの主演女優賞受賞は文句のつけようがない。
ネイティブ・アメリカン初の主演女優賞ノミネートというポリコレ的な話題でおしていた「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」のリリー・グラッドストーンはストーリー上では主人公ではなくヒロインのポジションだから、受賞は難しかったと思う。
だから、この部門の受賞はエマ・ストーンで納得だ。



「哀れなるものたち」が衣裳デザイン賞、美術賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞といったアート系の部門をごっそりと持っていったのも納得だ。世界各地や船上を舞台にしているが、現実世界とはちょっと異なるSF的要素のある不思議な世界観を出すためにセットを作って撮影しているのでアート面で評価されるのは当然だ。



「バービー」はあまりにも関係者や支持者が本作を評価しない人は女性差別主義者だというアピールをし過ぎたのがマイナスの印象となり、8つのノミネートを受けたのに最終的にはビリー・アイリッシュと兄のフィニアスによる歌曲賞受賞のみに終わってしまったのだと思う。

同作のグレタ・ガーウィグ監督が監督賞にノミネートされなかったのは女性差別だと言ったのがまずかったと思う。

何しろ、「落下の解剖学」のジュスティーヌ・トリエ監督がノミネートされていたからね。
それなのに、女性監督をノミネートしないと騒ぐのはフランス人女性のトリエ監督は女性ではないと言っているようなものだからね。



宮﨑駿の「君たちはどう生きるか」の長編アニメーション賞受賞も予想通りだ。



前哨戦と呼ばれる各映画賞のアニメーション部門で競っていた「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」は2部作の前編でこの作品1本では完結していない。だから、単体で評価するのは難しい。

「ロード・オブ・ザ・リング」3部作は全て作品賞にノミネートされたが、受賞したのは完結編の「王の帰還」だけだ。だから、「アクロス・ザ・スパイダーバース」もきちんと評価するとなれば後編が公開されてからということになったのだろう。
また、CGアニメーションや手描きアニメ、アメコミ風など様々な作画方法をミックスして作るのは長編アニメーション賞を受賞した前作「スパイダーマン:スパイダーバース」でもやっているから技術面での新鮮味はない。その辺もマイナス要素になっていると思う。

ただ、個人的には「君たちはどう生きるか」は去年のワースト映画に選ぶくらい退屈に感じた作品なんだよね。大げさな話でなくマジで上映中に100回くらいあくびが出たからね…。どんなにつまらない映画を睡眠不足状態で見たって、あくびはせいぜい10回くらいしか出ないからね。

なので、本作の英語吹替版がオリジナルの日本語版のつまらない部分を補うほど出来が良いのではないかという気がして仕方ないんだよね…。

まぁ、一部メディアで言われているように、ファンタジーとはいえ、こちらも「オッペンハイマー」同様、第二次世界大戦の話だから、表裏一体的な面で評価されているのはあるのかも知れないが。
クリント・イーストウッド監督が「父親たちの星条旗」と「硫黄島からの手紙」の2部作で第二次世界大戦を米国、日本双方の視点から描いたことを別々の監督が同時期にやったという感じなのだろうか。



日本映画というかアジア映画で初めて視覚効果賞を受賞した「ゴジラ-1.0」も第二次世界大戦ものだ。
こらちに関しては、死ぬことを義務付けられていた旧日本軍の特攻隊員が終戦後、国民から“お前らのせいで負けた”と言われた苦しみが描かれていることが、米国が“負けた”戦争であるベトナム戦争の帰還兵が受けた国民からの冷たい仕打ちに重なるというのが作品自体が評価された理由だと言われている。


視覚効果に関して評価されたのは間違いなく世界基準では低予算となるドル換算で1500万ドル程度のバジェットで作られた映画だからというのがあると思う。米国のCGやVFXを使った大作映画ならこの10倍以上の予算が費やされるのが普通だ。


今回、同じカテゴリーにノミネートされていた「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」は2億9000万ドルもの予算がかけられていたとのこと。まぁ、「ミッション:インポッシブル」シリーズに関してはトム・クルーズの生身のアクションを売りにしているのだから、この部門でノミネートされ、視覚効果のメイキング映像とかが流れてしまうのはマイナス効果しか働かないと思うが。

「ゴジラ」に関しては、人件費を巡る労使交渉で長期にわたってハリウッドでストが行われたこともあり、効率良く世界基準では低予算となるバジェットで作品をまとめた手腕を評価したいとの思惑もあったのかも知れない。

一方、「ゴジラ」が視覚効果賞を受賞したことは日本側にとっては決して喜ばしいことばかりではないと思う。

「カメラを止めるな!」は300万円の超低予算で作られたのにもかかわらず興収31億円を超す大ヒット作となった。しかし、同作は養成スクールの作品であり、生徒をただ同然で使えたから低予算が実現できた面もあったと思う。
その是非はさておき、低予算で大成功を収めたことから、その後、低予算を売りにした作品が何本も出てくることになった。同作の監督である上田慎一郎は本来なら、ブレイク後はハイバジェットの作品に起用されるはずなのに、低予算でまとめられるという評価がついてしまったために、その後も地味な作品しか撮れていない。

というか、映画業界に限らず、日本のあらゆる職場(政治家を除く)というのは予算を使わないことが美徳とされている。
同じ仕事ができる能力がある正社員と派遣社員がいれば、安くこき使えてすぐにクビを切れる派遣の方を使うような会社だらけだ。

だから、「ゴジラ」の続編や山崎貴の次回作の予算が大幅にアップすることはあまり期待できない。

でも、せっかく世界的評価を受けたのだから、その人たちの報酬をアップし、次回作には潤沢な予算を与えるべきなんだよね。

1500万ドルで作れたんだから次も1500万ドルでやってではないんだよ!人件費もそうだし、直接、CGやVFXにかける予算もそうだけれど、上げなくてはいけないし、今回よりスケール感の大きな作品を作りたいなら、そのアップした人件費などをさらに上回る予算をつけないといけない。

日本の職場は何かとやりがい搾取をするがそれではいけないと思う。







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