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フェイブルマンズ

今年はスティーヴン・スピルバーグ監督にとってメモリアル・イヤーだ。

●元々は1971年放送のテレビムービーだった「激突!」の日本公開50周年。
●日本では劇場未公開だが、スピルバーグの名前が初めてクレジットされた(原案として)劇場公開用長編映画である「大空のエース/父の戦い子の戦い」の米国での公開50周年。
●初の劇場映画監督作品である「続・激突!/カージャック」から50年目=監督デビュー50年目。

日本映画しか見ない。洋画派だがミニシアター系しか見ない。ハリウッド映画が好きだが60年代より前のクラシック作品しか見ない。

そういう連中は別だし、そもそも、ハリウッド映画をあまり見ない現在の30代以下の層も違うとは思うが、現在40〜60代半ばの現役世代の映画ファンにとって、オールタイムの最も重要な映画監督は誰がなんと言おうとスティーヴン・スピルバーグではないかと思う。

この約50年間に「ジョーズ」、「E.T.」、「ジュラシック・パーク」といった記録的な大ヒット作品を監督しただけでもすごいが、これ以外にも監督として「インディ・ジョーンズ」シリーズや「マイノリティ・リポート」、「宇宙戦争」などのヒット作を生み出している。
さらにアカデミー作品賞を受賞した「シンドラーのリスト」を筆頭に「プライベート・ライアン」や「ミュンヘン」、「リンカーン」など賞レースを賑わせた作品も多数輩出している。
スピルバーグ監督作品は70年代から6ディケイド連続でアカデミー作品賞にノミネートされているし、スピルバーグ監督自身も6ディケイド連続で監督賞候補となっている。

さらに、プロデューサーとしても、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズや「グレムリン」シリーズ、「グーニーズ」、「メン・イン・ブラック」シリーズ、「ディープ・インパクト」、「トランスフォーマー」シリーズなどのヒット作を輩出している。
また、メガホンをとっていないプロデュース作品にも「SAYURI」や「硫黄島からの手紙」といった賞レースを賑わせた作品がある(後者はアカデミー作品賞ノミネート)。

このほか、アニメーション映画やテレビシリーズも手がけている。

余程の偏屈でもない限り、スピルバーグ作品に影響を受けなかった40〜60代半ばの映画ファンなんていないと思う。

そんなスピルバーグ監督の自伝的作品が公開されるとなれば映画ファンなら期待せずにはいられないと思う。

第95回アカデミー賞授賞式開催(現地時間3月12日)までに日本で劇場公開されている作品賞ノミネート作品は配信オンリーの「西部戦線異常なし」を除くと(「ROMA/ローマ」のように国際長編映画賞を受賞したら劇場公開してくれないかな…)全部で7本ということになる。

本作「フェイブルマンズ」を鑑賞したことにより7本全部を見ることができたので、これらの作品を個人的にランク付けすると上からこんな感じだろうか。

「トップガン マーヴェリック」(22年5月公開)
「エルヴィス」(22年7月公開)
「フェイブルマンズ」(23年3月公開)
「イニシェリン島の精霊」(23年1月公開)
「逆転のトライアングル」(23年2月公開)
「アバター:ノー・ウェイ・オブ・ウォーター」(22年12月公開)
「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(23年3月公開)

「フェイブルマンズ」はもうちょっとでマスターピースになれた惜しい作品ってところかな。
でも、マニア寄りの映画ファン、職種はなんでもいいが、いわゆるクリエイティブ職に就いている人なら、この映画を嫌いになれないと思う。

実話を基にしているが、登場人物の名前を変更したり、実際にあったエピソードとは展開を変えたりしているという、要は朝ドラ方式で作られた作品だ。前年度のアカデミー作品賞にノミネートされたケネス・ブラナー監督作品「ベルファスト」もこういったタイプの作品だ。

その一方で自伝的作品であるということに対する不安もなかったわけではない。自伝的というのは逃げの姿勢でしかないからね。

事実をそのまま映像化したのでは都合の悪いところがあるから設定やストーリーを変えているわけだしね。
そして、そうしておきながら、設定やストーリー展開に矛盾点があれば、それは事実を基にしているからと逃げることができる。

朝ドラにオリジナル作品よりもモデルとなった人物がいる作品の方が目立つのは批判の声をかわせるからという狙いもあるのではないかと思う。最近の「ちむどんどん」や「舞いあがれ!」といったオリジナル作品が酷評されているのを見ると、そう思えて仕方ない。

まぁ、実際に見てみると朝ドラみたいな作り方だった。主人公の置かれた環境が変わり(居住地など)、そのたびに別れと出会いを経験して成長していくというのはまさに朝ドラ展開だしね。
あえて相違点をあげるとすれば、朝ドラは大人になってからがメインのストーリーだけれど、本作は大人になってからのシーンがエピローグ扱いで短いってことくらいかな。

映像業界に入り込むチャンスを得てからのスピルバーグはみんな知っているから、そこは描かなくてもいいでしょってことなのかな?
そして、その映像業界で職を得る機会を得た際に出会う巨匠がジョン・フォード監督で、そのジョン・フォードをデヴィッド・リンチ監督が演じているというのも映画ファンにはたまらないよね。
それから、その“面接”でジョン・フォードが語ったウンチクに合わせて、地平線を下にもってくるためにカメラがブレるという終わり方も最高だった。

そういえば、本作ってスピルバーグ監督作品、しかも、メジャーのユニバーサル映画なのに、邦題も日本公開もなかなか決まらなかったな…。
やっぱり、ドラマ系洋画は日本では当たらなくなってしまったから、スピルバーグ監督のような大巨匠の新作でもユニバーサル作品の配給権を持つ東宝東和が配給せずに、パルコなどの配給でミニシアター公開になる可能性もあったってことなんだろうね。

そうそう!スピルバーグのキャリアはユニバーサルのテレビ部門からスタートしているから、本作がユニバーサル映画となっているのは当然といえば当然なんだよね。

それにしても、この作品って、至る所でスピルバーグが監督したりプロデュースしたりした作品を思い出させてくれる場面が多いよね。

アリゾナ州の風景は「未知との遭遇」だし、竜巻のシーンは「ツイスター」、プロム のシーンは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」だしね。

とりあえず、いかにも賞レース向きの内容であることもよく分かった。

●ユダヤ人差別
ユダヤ人は差別されていると言いながらアイスランドを人の住むところではない扱いしているのはどうかと思ったが。
でも、本作を見るとユダヤ人が差別される理由がよく分かると思う。キリスト教徒はイエス・キリストを殺したユダヤ人は許せないと思っているからユダヤ人が嫌いなんだね(イエス・キリストもユダヤ人だけれどね)。

●精神的な障害
主人公というかスピルバーグが、電気技師の父の影響でメカニックに強くなり、ピアニストの母や、祖母の兄でサーカスや映画業界で仕事をしていた人物の影響でアート方面に強くなったというのがよく分かる作品だった。そして、その母親がメンタルのトラブルを抱えているから、母親役のミシェル・ウィリアムズの演技は評価されているんだろうね。

●女性の自立
この母親が自分のメンタルを保つためには、カリフォルニアではなくアリゾナで暮らさなくてはならない。そして、有能な電気技師である夫ではなく気のいい友人と暮らした方が良いという決断をし、愛していながらも夫と別れるという展開がフェミ的な思想の人にも評価されているのかな。

●エンタメ・アート・マスコミ業界もの
ふと思った。クリエイティブ職に就いている者って、こういう家庭環境の人が多いよね。
本作の主人公は、母親がピアニストになりたかったが中途半端なポジションで夢を諦めてしまった人。母方の祖母の兄がサーカス関係の仕事を経て映画業界に入った人物。父親はカメラなど技術的な面には理解があるがアーティスティックな面には疎いといった感じだった。
自分は母親が美術系の専門学校出身で在学中はスポーツ新聞社でバイトをしていて、アニメーターになろうとしたがあまりの薄給に断念したって人だ(うちの母親が学生の頃からアニメ業界の給与のレベルが変わっていないということ)。母方の祖父は映画評論家もしくは画家を目指していたらしい。そして、祖母は映画館でウグイス嬢みたいな仕事をしていて、そこで祖父と出会ったとかそんな話を聞いたことがある。父親は出版社の倉庫か何かで働いたことはあるらしいが基本的には芸能界、マスコミ的な不規則な生活、飲みニケーション文化が大嫌いな人だった。
それから、本作の主人公の両親は離婚したが、うちの両親も離婚しているしね。あと、本作の主人公も母親の不貞に気付いていたけれど、結構、子どもって親のそういうのって分かるんだよね。自分も母親が誰かと時々密会しているのは四半世紀前から気付いていたしね。
そういえば、自分は専門学校時代、16mmの映写機をいじれたし、8mmの編集もできたけれど、すっかり、やり方を忘れてしまったな…。本作を見て、その頃を思い出してしまった。

●実話を基にした作品
主な登場人物の名前などは変えてはいるけれど、ジョン・フォードやCBSなどの固有名詞は実名で出てくるし、実在する映画のタイトルもいくつも出てくるから、まぁ、実話映画化作品扱いでいいのでは。

そんなわけで、クリエイティブ職に就いている者ならめちゃくちゃ共感する要素だらけだから、同業者が選ぶアカデミー賞では作品賞受賞の可能性は高いような気もするかな。

ところで、本作のジョン・ウィリアムズのスコアって小品って感じだよね。まぁ、5年ぶり(3作ぶり)にスピルバーグ監督作品にジョンが帰ってきたのは嬉しいけれどね。でも、半世紀にわたるこのコンビが監督と作曲家として組む作品ってこれが最後なのかな?スピルバーグの自伝的作品だから最後にやろうみたいなところもあったのかな?まぁ、この後、スピルバーグのプロデュースする「インディ・ジョーンズ」最新作は控えているけれどね。

《追記》
主人公が初めての映画館体験をするシーンを見て自分の映画館初体験と思われる記憶のことが気になった。
2歳頃に映画館に行ったのは事実だろうが、この記憶って多分、親とかが話していた内容に自分の想像をミックスした再現映像のようなものの気がするな。

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