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いびつな2022年度映画興収上位作品

日本映画製作者連盟が2022年度の興収10億円以上を記録した作品を発表した。年度で集計しているのは、いかにもドンブリ勘定をしている日本の芸能界的な感じで個人的には好きになれない。こうした集計にしている理由は明白だ。

年末公開のいわゆる正月映画(ほとんど死語)をカレンダーイヤーで集計すると年をまたぐことになる。例えば興収10億円のヒット作品となっても、2021年は興収6億円、2022年は4億円という成績ならいずれの年でも興収10億円以上作品のリストに載せてもらえない。
しかし、まとめて集計すればリストに載せてもらうことができ、ヒット作品としての印象を強めることができる。そうした狙いであることは間違いないと思う。本当、姑息なやり方だ。

しかも、きっちりと前年の12月からその年の11月までを集計しているならまだしもそうではない。
12月以降も続映している作品はその期間の数値もカウントされている。また、作品によっては11月公開のものがその年度の対象になったり、翌年度扱いになったりもする。こんな不透明な集計方法の年間チャートなんてありえないんだけれどね。

まだ、○○○○年(もしくは年度)公開興収10億円以上作品みたいな発表の仕方で対象期間に公開された全ての作品のファーストランが終了後に発表するとか、カレンダーイヤーでも年度でもいいから、きっかり12ヵ月間の期間に記録した数字だけで集計するなら透明性はあるんだけれどね。

システムの問題点に関する指摘はこのくらいにしておこう。

ここからは発表されたランキングをもとに語っていこう。
興収10億円以上を記録したのは邦画26本、洋画15本の計41本だ。
邦高洋低の傾向は変わらないが、邦画の大台突破作品は実は前年度より7本も減っている。その一方で、邦画の興収100億円突破作品は前年度は1本だったのに、今回は3本と増えている。

これから分かるのは、特定の作品に人気が集中しているということだ。というか、アニメ映画のヒットが多い。大台突破26本のうち過半数の14本がアニメだし、100億円を突破した3本は全てアニメだ。つまり、邦画が好調なのではなくアニメが好調なだけということだ。実写12本のうち5本がテレビドラマの劇場版だから(「シン・ウルトラマン」はとりあえずテレビドラマの劇場版扱いにはしていない)、純粋な実写邦画は「シン・ウルトラマン」を含めても7本しかヒットしていないということになる。

というか、アニメ映画も「すずめの戸締まり」以外はテレビアニメの劇場版だ。

つまり、日本人はきちんとした映画には興味がなくテレビの延長線上にある作品をわざわざ映画館で見ているということだ。

そうした、きちんとした映画に興味を持たないことが長引く洋画不振につながっているのだと思う。

個々の作品について触れておこう。
「ONE PIECE FILM RED」が興収197億円を記録し年間1位になったのは想定外と言っていいと思う。去年の2月上旬に「劇場版 呪術廻戦 0」はこのまま、年間1位になるのではないか。もしくは、「呪術廻戦」を上回る作品が出たとしても、それは秋公開の新海誠作品「すずめの戸締まり」だろうと思っていた人が多いのでは?

ところが結果はそうならなかった。「呪術廻戦」は138億円で2位。「すずめ」は131.5億円で3位となった。ちなみに洋画トップの「トップガン マーヴェリック」が135.7億円なので、邦画・洋画を合わせると「すずめ」は4位となる。「君の名は。」や「天気の子」に比べると、ちょっと物足りない成績と言わざるを得ない感じかな。

「RED」の記録的ヒットは特典商法や人気アーティストとのタイアップにあるのは言うまでもないが、そうした戦略は「呪術廻戦」や「すずめ」もやっているし、これまでの劇場版「ONE PIECE」シリーズの最大のヒット作品は3つ前の作品で2012年公開の「Z」の68.7億円だったわけだから、約10年経って一気に3倍近い成績をあげたというのは、興収データをチェックしている業界関係者や映画マニアですら予想できなかったサプライズだったと思う。


洋画についてはコロナ前の水準に戻ったとは言えないものの、興収10億円突破作品が2020年度は4本、21年度は5本だったことを考えれば復調傾向にあると言っていいのではないだろうか。

その牽引力となったのは言うまでもなく「トップガン」だ。コロナ禍になってから公開された実写映画では洋画・邦画問わず興収100億円を突破したのは同作だけということを考えれば、久しぶりに本当の映画ファンを動員できたヒット作と言っていいのではないだろうか。

とはいえ、完全復調にはほど遠いと言わざるを得ない状況であるのも事実だ。洋画の年間トップ5は「トップガン」を筆頭に以下、2位が「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」、3位が「ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密」、4位が「ミニオンズ フィーバー」、5位が「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」となっている。

配給会社は1位が東和ピクチャーズ、2位と4位が東宝東和でトップ5中3作品が東宝グループの配給作品だ。
3位はハリウッドのメジャー・スタジオでありながら日本映画も製作しているワーナー 。
5位はハリウッド・メジャーではあるが日系企業の子会社であるソニー・ピクチャーズ。

つまり、純粋なハリウッド・メジャーであるディズニーが苦戦を強いられているということだ。

コロナ前は日本市場でも記録的な大ヒット作を連発していたのに、コロナ禍になってからは存在感が薄れてしまっている。
世界的には大ヒットしているマーベル作品ですら日本では大きなヒットにならないのが現状だ。

この背景にあるのは、ディズニーが配信重視のスタンスを取るようになったことにある。これを嫌った東宝・東映・松竹の邦画大手3社系のシネコンがディズニー映画の上映に消極的になったことにより、一般観客にマーベル作品や旧フォックス系作品を含むディズニー映画の劇場公開情報が届きにくくなったのではないだろうか。
そして、そうした劇場側のスタンスを受けて一般観客の間でもディズニー映画は配信で見るものという習慣が定着してしまった。
その結果として、ディズニー映画が日本の興行市場から追いやられるような形になっていったという感じかな。

コロナ禍になってからのディズニー映画で最大のヒットとなっているのは日本映画製作者連盟の規定では2023年度作品扱いとなる「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」で興収は現時点では39億円強だが、これでも海外と比べると大コケレベルだからね…。

洋画が復活したと言えるのはディズニー映画が再び日本で記録的大ヒットを飛ばせるようになった時ではないだろうか。


ちなみに今回、興収10億円以上と発表された作品だが、洋画は15本全て見ている。邦画は3本だけ見逃している。腐女子系アニメ2本とEXILE一族の作品だけ見ていない。

作品自体の評価で言うと、邦画1位の「RED」は記録的大ヒットとなったのが信じられないくらいつまらなく感じた。Adoの曲は良かったとは思うがそれだけかな。
洋画1位の「トップガン」は中高年の観客を映画館に呼び戻したという点や、なるべく生身のアクションをやるという姿勢は評価するが、傑作とは言えないよねとは思ったかな。まぁ、映画としての完成度は前作より上だけれどね。前作はやっぱり、戦闘機やバイク、MA-1のプロモーション・ビデオ兼ミュージック・ビデオの要素が強かったから映画館で見る映画としてはつまらなかったが(何故かテレビで見ると面白い)、今作はきちんと映画になっていたと思うしね。

結局、邦画だろうと洋画だろうと年間ランキング上位の作品はシネフィルが好むものではないってことかな。

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