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恐竜図鑑 失われた世界の想像/創造

特別展「恐竜図鑑 失われた世界の想像と創造」が神戸市の兵庫県立美術館で好評開催中だ。

シンボルオブジェの「美かえる」が迎えてくれる

皆さんは「恐竜展」と言えば、どんなものを思い浮かべるだろうか?
骨格標本や復元模型が所狭しと並べられていて、場所はたいてい自然史系の博物館だろう。しかし今回の展覧会は美術館である。
しかも、1つも骨格標本が無い異例の特別展だ。
 
「恐竜」の存在が初めて明らかになったのは19世紀前半のこと。
見つかった骨から「恐竜がどんな姿をしていたのだろうか?」と再現する試みが続けられてきた。この展覧会では、過去200年に描かれた恐竜の絵画など150点が展示されている。

チャールズ・R・ナイト『白亜紀 モンタナ』

古生物を描いた作品を「パレオアート」と言う。
「パレオアート界」の二大巨匠がチャールズ・R・ナイトと、ズデニェク・ブリアンだ。この2人の作品は「あぁ、恐竜図鑑で見たことがある!」という方が多いだろう。
特に、チャールズ・R・ナイトは「ティラノサウルスと対峙するトリケラトプス」を描いた『白亜紀 モンタナ』で有名だ。
斜め後方から見たティラノサウルスに、まるで重戦車のようなトリケラトプスが向き合う1928年の名作である。この画をきっかけにティラノサウルスとトリケラトプスはライバルとして描かれるようになる。
ちなみに、トリケラトプスは3本の角のある顔という意味で「トリ・ケラト・オプス」と区切るのが正しい。

最初期のイグアノドンの復元模型。鼻先に角があり、ずんぐりむっくりしていて愛らしい

最も大きく描かれ方が変わった恐竜と言えば「イグアノドン」だろう。
最初に発見された恐竜の1つだ。
1821年にイギリス人の医師ギデオン・マンテルが発見した。マンテル先生は「化石マニア」。趣味で化石の採掘をしていたところ、これまでに見たことの無い歯の化石を見つける。
動物学者に見せたところ「サイか象なんじゃないの?」と相手にされず。
納得いかないマンテル先生は、自分で研究した結果「イグアナの歯」に特徴が似ていることを突き止めた。
そこで「これはイグアナによく似た巨大な爬虫類だ」と推測し、イグアナの歯を意味する「イグアノドン」と名付けた。

ジョン・マーティン『イグアノドンの国』

当時見つかった円錐形の骨は「きっと鼻先に角があったんだ!」と想像して画家のジョン・マーティンに描かせたのが『イグアノドンの国』という作品である。4足歩行のワニのような爬虫類として描かれ、鼻先にはシンボルの角がある。

ところが、1878年にベルギーの炭鉱で完全骨格が発見されると、その姿は間違っていたことが明らかになる。
なんと、鼻先の角だと思っていたのは両手の親指の骨だったのだ。
レオン・ベッケルという画家が、聖ゲオルギウス礼拝堂で行われた「イグアノドンの骨格復元作業の様子」を描いた。ちなみに聖ゲオルギウスはドラゴン退治で有名な聖人である。
ベルギー王立自然史博物館所蔵のこの画は、私が子どものころに持っていた恐竜図鑑にあった。生で見られて大いに感動した。

その後、恐竜画の二大巨匠の1人、ズデニェク・ブリアンは2足歩行でスパイク状に尖った親指を持つイグアノドンの姿を描いている。
このスパイク状の親指を武器にして、獲物を突き刺して捕食したと当時は考えられていたためイグアノドンの足元には骨が散らばり、ゴジラのような肉食恐竜の顔つきで表現された。
恐らくイグアノドンを最もカッコよく描いた画なのではないだろうか?

その後、イグアノドンはやっぱり草食恐竜だったことが分かり、さらに4足歩行に近い姿勢だったことも明らかになった。
親指のスパイクは何に使われたのかよく分かっていない。
最新の研究では、イグアノドンはくちばし状の口を持つ大人しそうな草食恐竜の姿で描かれている。 
ティラノサウルスにしても昔の画では足をベタっと地面につけているのだが、だんだん爪先立ちで体は前傾姿勢になり、頭からしっぱの先までが水平になっていく。さらに最近では羽毛まで生えて鶏みたいな姿になってしまった。

恐竜の復元図は、その時その時の最新の恐竜研究を反映させながら、
想像力を働かせて描かれたということがこの展覧会でよく分かる。

最終章は「科学的知見によるイメージの再構築」とタイトルが付けられていて、古生物の復元画で有名なイラストレーター 小田隆さんによる大迫力の恐竜画が展示されている。 
見ごたえ抜群!「恐竜図鑑 失われた世界の想像/創造」は5月14日まで神戸市の兵庫県立美術館で開かれている。
想像力によって創造された太古の世界の住人たちとの不思議な出会いを楽しんでほしい。

どこかにいる「イグどん」も探してみて。


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