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第10話:日本帰国。考えることは山積み。赤ちゃんにとってどこで産むのが最適解なのか 「アフリカから帰ってきたニート夫と娘の成長期」

日本へ帰国しようやく腰を落ち着けたのは、かつて祖父と祖母が暮らした哀愁漂う長屋だった。祖父は僕が高校生の頃に亡くなっており、祖母は今施設で元気にやっている。状況が状況なだけに会いにいけないのがもどかしいが、祖母が戻ってくるまでの間、家を使わせてもらうことにした。

家賃が掛からないのはすごくありがたかった。妻の妊娠を知った父と兄は早速、長屋を魔改造していた。長屋というのは隣の家と壁を共有しており、見事なプライベートフリーを実現しているのだが、父と兄はDIYで防音壁を作っていた。一階の全体と階段部に防音用のシートを3枚ぶち込み新たに壁を作り上げたそうだ。無理やり押し込んだもんだから今では防音シートが壁を
押し出してめちゃくちゃせり出して来てはいるんだけども。

元々、父と兄の2人はそういうDIYへの関心と技術が高いのだが僕にはその才能が全くない。中学生の頃、図工で作った僕の作品が選ばれ、市役所に飾られたことがある。確か「わたしの太陽」という題名だったと思うが、僕が作ったのは、真緑に黒の波線が入ったスイカ模様で舌を大きく出した、かの有名なアインシュタインの顔をかたどった太陽だった。市役所までわざわざ見に行き、スイカ柄のアインシュタインを見た親は、さぞかし衝撃を受けただろう。

そんないかれたセンスを持った僕とは違い、防音壁はよくできていた。これなら赤ちゃんが夜泣きしても隣のお家には迷惑をかけずに済みそうだ。そして、コロナの影響で余儀なくされた14日間の隔離期間をその家で泥のように過ごした。


その間、僕たちのもっぱらの関心は、どこで赤ちゃんを産むかということだった。出産と聞くと病院のベッドで仰向けになってマラーズ法で、とイメージすることが多いと思うが選択肢はそれだけではない。

僕たちはスーダンにいる間、コウノドリという綾野剛演じる産婦人科医のドラマを見たりネットで勉強したりして想像や知識を膨らましていた。このコウノドリというドラマは産婦人科のお医者さんや看護師さんからも評判が良いらしく、涙なしには観ることはできないが、妊婦や赤ちゃんに起こりうるリスク、妊娠出産に関わる人間模様、先生としての葛藤がリアルに描かれており、赤ちゃんが産まれる奇跡と儚い命の脆さに感情がジェットコースターするドラマだった。

そうしたリスクを知れば知るほど、「何かあった時のこと」を考えるのが人間というものだ。個人病院/クリニック、助産院での出産など他の選択肢がある中で、それが起こった時に手術や処置がすぐに行える大きな総合病院での出産に気持ちが傾くのも当然だった。また日本ではそこまで広まっていない無痛分娩ができるのも魅力的だった。「産むときの痛みが感じなければ立派な母親にはなれない」といった迷信もあるが、それが本当なら無痛分娩がデフォルトのアメリカの母親は全員立派ではないことになる。

しかし、デメリットも当然あった。このご時世、感染予防対策として旦那による立ち合いができないのだ。診察室にも一緒には入れないのでエコー写真を見たり、先生の説明を一緒に聞いたりということもできない。

そんなメリット、デメリットを照らし合わせながら僕たちは一度は総合病院を訪れたのだが、最終的には僕たちは助産院で産むことに決めた。そのお話はまた今度。
何が正解かはわからない、おそらくすべて正解なんだろう。赤ちゃんや妻、もちろん僕にとって何がいいのか迷い戸惑いながら、冒険をする毎日だけど楽しめている。
赤ちゃんと一緒に僕たちも一歩ずつ前に進んでいる。少しずつだけど成長している。


第10話は以上となります。今日も読んでくださりありがとうございます!
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