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『ポール・マッカートニー写真展』〜美しくも残酷な記録:ポールが捉えたビートルズの素顔〜


ポールが撮ったビートルズの3ヶ月間

久しぶりに音楽の話を。

先日、『ポール・マッカートニー写真展』へ行ってきた。正直、チケット代のあまりの高さに閉口してしまい、行くべきかどうか迷ったのだけど、見終わったあとしばらく放心してしまうくらい素晴らしく見応えのある展覧会だった。

2023年、ロンドンのナショナル・ポートレート・ギャラリーのリニューアルオープンを記念して開催された『ポール・マッカートニー写真展 1963-64~Eyes of the Storm~』。今年7月19日より9月24日まで、東京シティビュー(六本木ヒルズ森タワー52F)で開催されている。

ポール・マッカートニーが35mmフィルムの日本製カメラ「Asahi Pentax」で撮影した1000枚にもおよぶ大量の写真が2020年、ポール個人のアーカイブから発見されたという。そこにはザ・ビートルズが世界を熱狂させ社会現象となる1963年12月から、TV番組『エド・サリバン・ショー』でアメリカを席巻した1964年2月までの3ヶ月間、ポールが撮影し続けた個人的な記録が残されていた。

写真に映る素顔のビートルズ

例えばこれ。ジョンのこんな無防備な顔、ポール以外の誰に撮れるだろう。

極度の近視ゆえ牛乳瓶の底のようなメガネをかけたジョン。

いつもクールにキメている敏腕マネージャー、ブライアン・エプスタインの子供みたいな笑顔。

ビートルズのプロデューサー、ジョージ・マーティンと、のちに妻となるジュディ・ロックハート・スミスとの仲睦まじい様子。

ポールがマイアミ休暇に連れてきた当時のデート相手のポートレイト。

『エド・サリヴァン・ショー』のリハーサル風景や、ジョンがギターを持って作曲している姿を収めたスナップ、無数のカメラを向ける報道陣をボールが車の窓越しに撮った写真。そして、どこまでも追いかけてくるファンを収めた、まさに『実録版:ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』とでもいうべき写真など、まさにこの時代のポールにしか撮れない瞬間ばかりが収められている。

「私写真」の魅力

ジャック=アンリ・ラルティーグという、大好きな写真家がいる。裕福な家に生まれた彼は、自身の幸せな瞬間を余すことなく残しておきたいという思いから、親に買い与えられた写真機に熱中し、極めて個人的〜プライベートな視点による日常の写真を数多く残した。それらはのちに、「私写真」という言葉を生み出したアラーキーこと荒木経惟に多大なる影響を与えることになる。

『ポール・マッカートニー写真展』の会場に所狭しと並んでいるのは、ザ・ビートルズが急速に進化し続ける重要な時期、グループの一員として過ごしながらもひたすらシャッターを切り続けたポールによる、前述のラルティーグ〜そしてのちのアラーキーにも通じる「私写真」の数々だ。

過ぎ去りし日々の美しさと残酷さ

本展は、1964年2月にメンバーやスタッフ、家族らと共にマイアミでバカンスを楽しんでいたジョンと、当時の妻シンシアのツーショットで終わる。

この2年後、2人の関係性が大きく変わる出来事が、メイフィア(ロンドン)のインディカ・ギャラリーで起きることなど、一体この時の誰に想像できただろうか。

一方ポールは、そのさらに1年後、彼の「写真活動」を引き継ぐようなフォトグラファーの女性と出会うことになるのだ。

写真は過ぎ去った日々を鮮やかに甦らせると同時に、それがもう二度と戻ってこないことをも知らしめる。美しくもあり、ある意味ではとても残酷な記録だ。だからこそ、人はこれほどまでに写真に惹かれるのだろう。

またカメラを持ち歩きたくなった。

ちなみに、グッズも高額アイテムがたんまり。まあそれは買いたい人が買えばいいけど、展覧会図録が1万円越えだったのは正直引いた。足元見られてるよね。

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