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リドリー・スコット監督作『悪の法則』が描く、こちらの理屈が通用しない世界

めちゃくちゃ好きなんだけど、あまり万人にはオススメ出来ない映画ってある。

例えばスティーヴ・マックイーン監督作『SHAME -シェイム-』や、トム・フォード監督の『シングルマン』、ソフィア・コッポラ監督の『SOMEWHERE』とか。以前紹介したトレイ・エドワード・シュルツの『イット・カムズ・アット・ナイト』なんかもそうね。

共通しているのは、「どんな映画?」と尋ねられた時に答えに窮してしまう作品であること。ストーリーもあってないようなものだったり、あったとしても上手く説明できなかったり。登場人物のバックグラウンドも最小限の説明にとどめ(場合によっては殆どない)、こちらの想像力や、行間で汲み取るしかないような作品が多い。容易に「共感」も出来ないから、「登場人物に共感できなかった」が「この映画、嫌い」の理由になる人には、まず勧められない。なのに、根底に流れるテーマや、画面から滲み出る「質感」、映画全体に漂うムード、そういう部分がたまらなく自分にしっくりくるというか。何度繰り返し観ても飽きないし、それどころか観るたびその世界観に引き込まれてしまうような。

今回、紹介する『悪の法則』も割とそういう映画。好き嫌いがはっきり分かれる。好きな人はとことん好きだし、嫌いな人は「金返せ」と思うかも知れない。実際、Filmarksで酷評している人をたくさん観た。ただし、画面上では何も起きていないように見えるところで、実はとてつもなく恐ろしいことが進行していたり、一見無意味に思えるような会話のやり取りが、実は全て意味があったり、そういった部分を楽しめる人には、たまらない映画であることは間違いない。

前置きが長くなってしまった。『悪の法則』は、リドリー・スコット監督による2013年の作品である。リドリー・スコットといえば、『エイリアン』『ブレード・ランナー』など映画史に残る名作を数多く残してきた名匠。『悪の法則』はそれらに比べて地味だし「補欠」扱いなのかも知れない。でも僕は、彼の作品の中でも上位3位に入るくらい好き。デヴィッド・フィンチャーでいうところの『ゾディアック』的な立ち位置というべきか。

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