スローガンみたいなもの

チームスローガンと言われるものは,ミッション・ビジョン・バリューのうち,バリューと一致していると現実的によいことが多い.
このスローガンが,チームの行動指針として機能し,監督・コーチ・スタッフが自身を省察する際の軸にもなる.日本柔道は,男子が「明るく楽しく生き生きと」,女子が「準備力」である.
この「準備力」は,世界一であり続けることを考えると一般の方にも理解できるだろう.増地監督がよくいう「人事を尽くして天命を待つ」.これは偶発的要素に悶々とするんじゃなく,自身のコントロールできるところを確実に一つ一つやっていき,やり残したことがない状態で大会に挑もう,ということである.これは,選手だけの話ではなく,コーチやスタッフも「徹底的な準備とは何か」を追求しなければならない.なので,準備力が行動指針として機能する.
では,男子をみて,どう思うだろうか?
世界一であり続けるために「明るく楽しく生き生きと」?
これは,一般の方には理解できないかもしれない.もしかすると,関係者も理解できないかもしれない.しかしながら,このテーマ(スローガン)は,日本柔道の抱える本質的な問題への挑戦を示している.
鈴木監督体制に変わって,初めに聞いた時は,想定外で理解が追いつかなかった.今は,この視点の鋭さに驚かされている.僕にはない洞察力(感性)を持っているし,オリンピックでチャンピオンになったことも納得する(洞察力って大事).
社会という文脈(背景)と日本スポーツ界の文脈と柔道界の文脈を把握し,その中でギャップが生じると問題が出やすく,人をこじらせる.日本の社会,スポーツ界,柔道では,軍隊養成的な「統制」という手段がコーチングの主役だった.この手法で大きな成果を出したと勘違いしているが,大した効果はなかった.柔道では,1990年以降は,タレントプールを縮小させているし,2012のオリンピックの成果をみても,それが浮き彫りになった.
浮き彫りになったからと言っても,それを真剣に受け止めたのはどれくらいいるだろうか.正直,その問題が解決したかというと,あまりにも,がっつりと根付いてしまっていて,まったく解決していない.というより,当たり前過ぎて,多くは気づいてもいない.
ずっとこじらせているので,それがデフォルトになっている
実は,「統制」が引き起こした様々な問題に対する挑戦が「明るく楽しく生き生きと」と繋がってくる.科学的根拠はここには記載しないが,歴史的な文脈の中での,大きな挑戦を鈴木監督がやっていることになる.これは,簡単じゃない. 理解してもらうことも大変で,それを実現することも極めて難しい.そこに挑戦している.
僕も,苦しい姿ばかりみせずに「明るく楽しく生き生きと」しているところ見せられるように,頑張らずに実現していこうと思う

ちなみに,このブログを読んでくれた人のために書いておくが,桂治監督の反骨精神は半端ない.行動(SNSでも)をよく観察すると,にじみ出ている.現状の柔道界に中指をがっつり立てている.僕も反骨精神の塊みたいな人間だからか,その行動から感じるものが多い.
なぜ,2023年の世界選手権大会代表選手発表の時にあのセーターをきていたのか?悪ふざけと思っているようじゃ,観察力が乏しすぎる.

この発表は,12月25日日曜日でありクリスマスである.マスターズから帰国してすぐ.
別に1日ずらして,強化委員会をやって発表しても何も問題なかった.
日本の空気,同調圧力,スポーツ界の非常識というべきか,「お前たちのクリスマスや休日より選手の人生に関わることの方が大切だ」という価値観.パフォーマンススポーツの成果に完全に毒されてしまっているのかもしれない.家族や子どもたちを犠牲にしていることや苦労をしていることを美談だと思っている.こんな状態では,誰も幸せになれない.もちろん,私たちは選手のために最善を尽くす.ただ,選手たちだけでなく,そこに関わった人すべてが幸せを感じないとダメだ.自己犠牲を美化してはいけない.戦争の時の特攻と同じ価値観になってしまう.
僕は東京オリンピックが終わった時,報われた感はあったが,少しも幸せだとは思わなかった.それだけ,犠牲にしてきたものが多すぎたからだ.だから,先日,エンディングノートを書いた.

何のために私たちはパフォーマンススポーツで世界一を目指しているのか?
優越性の欲求を満たすマスターベーションなのか.

ここでミッション・ビジョンが大切になるだろう.
己の完成(成長)と社会への貢献が何をもたらすのか.

精神の健康であり,「個の幸せ」と「社会の調和」だと私は思ってる.
話がそれてしまったが,何が言いたいかを最後にまとめると
明るく楽しく生き生きと」はこれまでの価値観の破壊と新しい価値観の創造を意味していると思っている.
なので,このスローガンは,これまでの価値観に中指をたて,「くそったれ」と言っている
と勝手に私が解釈した話.
以上

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