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子どもの頃と交信する、私小説のような作品たち。

上北沢にあるギャラリー「Open Letter」で室井悠輔さんの「Bサイ教育」(会期終了)
という展示を見た。室井さんは1990年、群馬県生まれ。2019年に東京藝術大学大学院美術研究科グローバルアートプラクティス専攻を修了した作家だ。

それにしても、いつも「Open Letter」にお邪魔するのは、展示最終日になってしまう。なぜだろう。

ま、それはともかくまずは、室井さんのステートメントから言葉を抜き出してみよう。

B級という概念すらわからなかった子ども時代は、すべてのものの価値がフラットだったように思う。そんな見え方のなか、不思議と心惹かれる対象があった。もちろん与えられた選択肢や環境の範囲内ではあるけれど。
(中略)
私の制作は、子どもの頃の感覚に近づこうとすることよりも、失った感覚を弔うことに近いのかもしれない。あるいは、今は描けない子ども時代の絵を、あくまで自然を装って楽しみながら更新しようとしている。

室井悠輔|Bサイ教育 作家ステートメントより

室井さんの展示作品数は、このギャラリーとしては多い方ではないかと思う。それらは繰り返し子ども時代との交信を試みた証のようにも見える。子どもの頃に描いた自身の絵を転写し、それをアール・ブリュットに影響を受けながらも、自身は美術教育を受けた身として、室井さんの今の感性、技術で作品に仕上げている。これは極めて私的な行為だとも言える。

しかしながら、子どもの頃にどうして、鬼瓦、五月人形、鯉のぼり、破魔弓、埴輪、山車、こけし、サボテンなど惹かれたのだろう。それは今更言葉にはできない感覚なのかもしれないが、少しばかり聞いてみたかった。

ギャラリーの床に置かれた立体作品は、過去にインスタレーションで使用した廃材を再構成したもののようだが、私にはそこに意味は感じられず、その執拗な繰り返しに、アール・ブリュットの影響を勝手に見出したりした。それはそうなるべくして積み重ねられたのだ、きっと。おそらく意味もなく。

この私小説のような作品群とは、できれば室井さんの話を聞きながら対峙できればよかった。

Open Letter」は、このあと、長い休廊期間に入るとのことだ。


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