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ひとりきりという贅沢。淡路島&徳島旅行記

2022年の夏に国家公務員を退職し、晴れて写真を仕事にできる環境を手に入れた私ですが、転職・写真展・資格試験の受験・結婚式・家の購入と引越しなどの大きなイベントが立て続けにあったため、写真の仕事に本腰を入れて取り組めない時期が長く続いていました。
やっと生活が落ち着いた今年の1月から、本格的に兼業写真家として活動を始めています。
今は、平日は本業の会社員としての仕事に従事し、休日は撮影の仕事に費やすというライフサイクルが定着しつつあり、忙しくも充実した日々を過ごさせていただいています。

そんな慌ただしい毎日を過ごしていると、ふと、一人で過ごす時間が必要だ、と痛烈に感じる瞬間が増えてきました。
リモートワークができないため毎日出社している職場では仕事仲間に囲まれ、家に帰れば夫とお喋りしながらお酒を飲み、休日は初めて会う方を撮影させていただく日々。
常に他人と接している生活は刺激があり楽しい反面、私のような一人が好きな人間には少し息苦しくもあるものです。

ということで、一人旅に出かけることにしました。
行き先は、2年前に日帰りで訪れた淡路島と、人生で初めて足を踏み入れる徳島です。

明石海峡大橋を走る高速バスの窓から瀬戸内海が見えると、やっと旅に出た実感が湧いてきました。
2年前の夏に訪れた時の海の色は突き抜けるような青色だったのですが、この日の海は春らしい穏やかな色をしていました。

お目当てのバス停で下車し、まず向かったのは、古道具・雑貨店「のんきなリス」。

築100年の古民家を修繕して生まれ変わったお店の中には、作家さんの手作りのうつわやアクセサリー、暮らしの道具や、長い時を経て大切に使われてきた古道具が並んでいます。

立派な門の前には、桜の木が陽の光をいっぱいに受けていました。

店内に足を踏み入れると、目に飛び込んでくるのは心をくすぐるものばかり。
(許可をいただいて店内を撮影しています)

お店の一角には喫茶スペースがあり、縁側からお庭を眺めているような気持ちでのんびりすることができました。

ケーキを運んできてくれた店員さんに、その日着ていたワンピースの色を褒めていただけたのが嬉しかったです。

お腹を満たした後は、店内巡りを再開。
私と同じ名前のルームミストが目に入り、運命的なものを感じて手に取っていました。

それから、青・緑・茶色などの複雑な色味が混ざり合った八角形の小皿は、店員さんに言われた通り自然光に当ててみると違った表情を見せてくれました。
夫に小さなフルーツタルトを作ってもらって、このお皿に載せて写真を撮ったらどんなに素敵だろうと想像し、思わず購入してしまいました。

宿へのチェックインまでまだ時間があったので、近くの伊弉諾神宮に行ってみました。
この神宮では、『古事記』『日本書紀』の冒頭に登場する国生みの神様イザナギ・イザナミを祀っています。

すぐそばに、ここだけ秋のまま時が止まっているように見えた道があり、足を止めてシャッターを切りました。

神宮内はとても広く全ては周りきれませんでしたが、静謐で厳かな空間に、身も心も洗われたような気がしました。

神宮近くでバスに乗り込み、宿の最寄りのバス停で降りました。
少し歩くと海岸に出ることができ、キラキラと透き通った海が近づくにつれ「わあ・・・!」と声が出てしまうのを止められませんでした。
こんなに透明な海、関東に住んでいると滅多に見ることができません。

海を撮るのに満足し、坂道をゆっくり歩いていくと、宿の目印になる大きな桜の木「たもやん桜」が見えてきました。
満開は過ぎてしまったようですが、例年だともう散ってしまっている時期だそう。
今年は桜の開花が遅かったために、晴れ姿を目に焼き付けることができたのは幸運でした。

この日泊まる宿は、ずっと憧れていた「hitorigomori」。
一人で宿泊することを前提とした4室の小さなお部屋と、焙煎所&ラウンジの5棟からなる宿泊施設です。

胸の高鳴りを抑えながら、自分の泊まる部屋のドアを開け、階段を上った先にあったのは・・・

西陽の差し込む、夢見た空間でした。

同時に、囁くような音量で音楽が流れていることに気がつきました。私が好きな宮澤賢治さんの「星めぐりの歌」でした。

まずは落ち着いて座ろうと自分に言い聞かせつつも、写真を撮らずにはいられません。

各お部屋には本が置いてあると聞いて楽しみにしていたのですが、本のタイトルを見て、私、頭の中を読まれている・・・!?と驚いてしまいました。

大きな窓から見える棚田では、畑焼きをしているのでしょうか、白い煙が上がり、その先には淡く霞んだ瀬戸内海が広がっています。

こんなにのんびりできる空間で、せかせかと写真を撮っていては勿体無い。
写真を撮るのは最小限にし、コーヒーを淹れて、本を読むことにしました。

棚の中には、隣の焙煎所で焙煎した3種類のコーヒー豆と、豆を挽くための器具、そして作家さんが作られた器が。
たとだとしい手つきではありますが豆を挽き、お湯を沸かしていると、幸せな匂いがお部屋に立ち込めました。

ここで、とても嬉しいサプライズがありました。
冷蔵庫の中に、おやつのバナナタルトが入っていたのです。
数時間前にりんごのタルトを食べたことなんて忘れて、飛びつきました。

珈琲を飲みながら本のページを捲っていると、時間の流れがいつもより遅く感じられましたが、実際にはあっという間に過ぎていました。

その後、宿の外を少し散策し、小高い丘に登って夕陽を眺めたり、激しく舞い散る桜吹雪に見惚れたりしました。

夜は、淡路島に住む友人夫婦に美味しいイタリアン「ETHICA」に連れて行っていただきました。
パンがびっくりするほど美味しくて、パスタソースに付けて食べるとさらに病みつきに。
翌日の移動とお仕事の撮影に備えてアルコールは飲まなかったのですが、ナチュール系のワインが美味しいそうなので、次はワインを楽しみたいです。
友人夫婦が目の前に並び、穏やかに微笑んでいる姿が何だか嬉しくて、満たされた夜でした。

翌日、朝早く起きて宿の周辺で写真を撮った後、出来たての朝ごはんをいただきました。

朝ごはんは、ラウンジで食べても自分の部屋に持っていって食べても良いそうですが、せっかくなのでラウンジでいただくことに。
前日に知り合った別のお部屋に泊まる女性(パン屋さんを営んでいて、なんと下の名前が私と同じ)と向かい合って座り、言葉を交わしながら食事を楽しむことができました。

出発前に、前日に飲んだのとはまた違う豆を使って珈琲を淹れ、惜しむように味わいました。

私が泊まったのは「仄々」というお部屋でしたが、他の3部屋では置いてある古道具や壁の素材・色などが全て異なっているそうです。

「hitorigomori」は、また別の季節にも訪れたい大切な場所として胸に刻まれました。

その後、高速バスで徳島に向かいました。
徳島にお住まいの親子の写真を撮影させていただくためです。

撮影を依頼してくださったのはいしはらなつかさんという方で、ご自身も写真家としてご活躍されています。
娘さんの写真は沢山撮れても娘さんと一緒に写っている写真があまりない、という気持ちを抱えていらっしゃったそうで、私の元職場の同期が縁を繋いでくれたこともあり、撮影の日を迎えることができました。

徳島駅に到着し、出迎えてくれたなつかさんの車の中で、色々な話をしました。
なつかさんは“旅をするように暮らし、暮らすように旅をする”という価値観をモットーにされていて、東京と徳島の二拠点生活をしていらっしゃるそうです。
学生時代から海外旅行がお好きで、娘さんが生まれて5年経つ今も、娘さんと一緒に海外に飛び回っているのだそう。
(ちょうど今も、娘さんと2人でハワイでホームステイしながら、ローカルな旅をされております!)

徳島では野菜から家まで、あらゆるものの値段が東京に比べて格段に安いため、生活をするために必死に働くという東京での価値観が覆された、といった話や、優しい地元の方が畑で取れた野菜や、森で狩った猪や鹿のお肉を分けてくれるといった話を聞き、月並みですが、本当の豊かさについて考えざるを得ませんでした。

ママだからといって自分のやりたいことを我慢するのではなく、心のときめく方向に向かうことができるよう、そしてその生き方を娘さんにも理解してもらうため、娘さんと真摯に向き合い、たっぷりと愛情を注ぐ。
そんななつかさんの生き方のポリシーが、私にはとても魅力的に感じられました。
娘さんも、今は小さくてまだよく分からないかもしれませんが、将来きっと、そんななつかさんのことを誇りに思うのではないでしょうか。

この日の撮影では、なつかさんと娘さんが遊んでいる最中、なつかさんの行動が娘さんの希望に必ずしも沿わず、娘さんが腹を立てて泣いてしまう場面がありました。
それでもなつかさんは落ち着いて、理路整然と娘さんを諭していました。
その姿からは、なつかさんが娘さんを普段から一人前の人間として扱っている様子が感じられました。

家族の記念写真を撮ると、みんな笑顔のカットが多くなるのは当然ですが、この日は娘さんの泣き顔や怒った顔も写真に残すことができて嬉しかったです。

皆様にもなつかさんのInstagramをぜひ見ていただきたいのですが、彼女は私が撮影させていただくのが畏れ多いくらい素敵な写真を撮影される方です。

写真を見ていると、家族の間に通う温かな情愛を丁寧に汲み取って、場の雰囲気を和ませながら撮影されているなつかさんの笑顔が目に浮かびます。
何かの節目に、私のこともいつか撮影して欲しいなあと思っています。

高速バスと新幹線を乗り継いで約5時間後に地元の駅に到着し、2日間の一人旅は幕を閉じました。
長い移動時間では取り止めもないことを考えたり、自分と会話をして思考を整理することができ、旅が終わった時には頭から雑念が抜けてすっきりした気がしました。

一人旅というと孤独なイメージを持たれる方もいるかもしれませんが、手元のスマホさえあればいつでもどこでも他人と繋がっていられる現代において、孤独はある種の贅沢品なのかもしれません。

日常に戻り、日々に息苦しさを感じる時がきたら、また一人旅に出かけよう。
お守りのように自分に言い聞かせると、生きる力が湧いてきました。

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