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国家公務員として写真を撮るということー国家公務員倫理規定と兼業の関係について

最近、国家公務員の不祥事、特に国家公務員倫理規定に違反するような不祥事が世間を騒がせている。
こういった事件が起こると、一部の国家公務員の行動が目立ち、「だから国家公務員は信頼できないんだ」といった空気が社会に充満してしまう。
私は数年前から国家公務員として中央省庁に勤務しているが、入省後の集団研修をはじめ、年に数回は倫理法や倫理規定を遵守することの重要性について学ぶための研修が義務付けられている。
私の肌感覚では、周りの殆どの国家公務員が「倫理規定をしっかり守ること」そして「国民の信頼を損なわないこと」を胸に留め、無意識のうちに違反するような行為を行ってしまわないか、相当神経を使っている。
例えば、以下のリンクの「論点整理」及び「事例集」にざっと目を通していただければ、国家公務員が日々の生活を多くる中で、倫理規定との関係で判断に迷うようなケースがいかに多いかをお分かりいただけるだろう。
https://www.jinji.go.jp/rinri/mokuji_r2.html

国家公務員倫理規定では、昨今話題になっている利害関係者との関係のみならず、国家公務員という本業の他の業務に従事すること、つまり兼業についても細かに定められている。
国家公務員の兼業については大まかに言うと、以下の通り原則※として禁止されている。

・国家公務員法第103条:営利企業の役員兼業、又は商店、不動産賃貸等を行ってはならない。
・国家公務員法第104条:内閣総理大臣及び所轄庁の長の許可がない限り兼業してはならない。
※相続、遺贈等により家業を継承したもの等の例外を除く

一番最初のNote記事である自己紹介の中でも記載した通り、私は休日に趣味で写真を撮っているが、活動はあくまで無償の範囲内に留めており、企業案件を始めとした有償の撮影依頼はお断りしている。
元々、国家公務員として働き始めてからは、「いかなる場合でもお金を貰ってしまうのはアウトだろう」と考え、謝礼の発生する仕事の依頼は案件に関わらずお断りしていた。
ただ、法的根拠や組織としての見解に基づかず、一個人の見解で受注可否を判断している現状が気にかかったことや、SNSのフォロワー数が一定数を超えた頃から急に有償撮影の依頼が増えたこともあり、「本当にいかなる場合でもアウトなのか?」という疑問が浮かぶようになり、約2年前から複数回に渡って、職場の服務担当部署に確認・相談を行ってきた。

服務担当部署には相当な負担となるので申し訳なかったが、今後活動をする上で、明確な判断基準を自分の中に設けたかったこともあり、考えられる限り具体的で細かいケースを例として挙げ、それぞれのケースが兼業に該当するのか否かを確認した。
参考までに、私が例として挙げたケース及び服務担当部署の見解を以下の通り記載する。

【私から確認を行ったケース】
1. 撮影の依頼を受け、その対価として謝金を受け取ること
(SNSのフォロワーや知り合いからの依頼で、宣伝写真やウェディング撮影を月に1〜3件行った場合を想定。報酬の価格設定についても聞かれたため、1件あたり5,000円〜30,000円と回答。実際の報酬基準額としてはかなり低いだろうが、最低ラインを例として示した)
2. 自分で作成した写真集を販売し、そこから金銭的利益を得ること
(30冊ほど印刷し、1冊あたり500~1,000円程度の値段で販売する予定と説明。SNS上で販売するが、経費が利益を上回り自分自身の利益は殆ど見込めない場合を想定)
3. 撮影のお礼として、金銭の代わりにお礼の品を受け取ること(例として数万円の商品券やお菓子の詰め合わせ等を想定)
4. 遠方に住んでいる方から写真撮影の依頼を受け、実際にかかった交通費を受け取ること
5. 写真撮影の依頼を受け、撮影にかかったカメラ等の機材代、衣装代、小道具代、スタジオ代等の料金を請求すること
6. 企業から、「○○という商品を撮影し、SNSに掲載して宣伝してほしい。その代わり、宣伝していただきたい商品は差し上げるので、自由に使っていただいて構わない」といった旨の依頼を受け、企業から対価として金銭(謝金)ではなく商品を受け取ること

【服務担当部署の見解】
1〜5のケースは国家公務員法第103条兼業(いわゆる自営兼業)に該当する。
103条では、自ら営利企業を営むことが禁止されているが、店舗や個人事業主として営利企業を営んでいないとしても、本人が営利企業を営むものと客観的に判断される場合は自営に該当するとされている。
例えば、インターネットやフリーマーケットでの商品販売などはそれだけでは自営とならないものの、店舗を設けたり、販売目的で大量に仕入れたり、定期的・継続的※に行えば、営利企業と同様と判断され自営に該当する。
※SNSに掲載する行為は1回だけであったとしても、一定期間掲載されれば、実質的に定期・継続的に業務に従事している兼業と判断される。

また、103条に該当する場合、特別に承認できるものの条件に、「相続、遺贈等により家業を継承したもの」というものがあるが、私の写真活動の場合では該当しないため、兼業許可申請を承認することは難しい。

3.については、実費精算の場合には報酬を受け取ることが可能であるものの、それを超えた報酬・御礼などを受け取ることは(友人や元々の知り合いであったとしても)複数回行った場合には営利目的の兼業と判断されることも想定され、一般的に慎むべき。例として挙げられた数万円の商品券は、営利目的ではないと判断するのは難しい。
4.については、報酬としてではなく実費精算である場合においては受け取ることができ、兼業扱いにはならないため申請の必要はない。
5.については、手元に残るカメラや衣装等の料金については受け取ることができないものの、消耗品やレンタルに係る実費精算である場合においては兼業には当たらないので受け取ることができる。

6.については、国家公務員法第104条兼業(職員が報酬を得て営利企業の役員等以外を行う場合の兼業)に該当するため許可できない。営利企業との兼業については、その企業との間に利害関係が生じて公務の公平性を損なう恐れがあること、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務しなければならない公務員の信用を傷つける恐れがあることから、原則として許可しない取扱いとなっている。

更に、国家公務員が兼業を行っていることが判明して処罰を受けた例もある(例えば以下の通り)。
・インターネット上やフリーマーケットにおいて商品を販売する目的で店舗を設けたり、販売目的で大量に仕入れたりといった行為を定期的・継続的に行い自営に該当するとされた例
・学生時代から行っていた有料山岳ガイドを国家公務員になった後も続けており、懲戒処分を受けた例

・・・ということで、職場の服務担当部署の立場としては厳しめに回答するしかなかったのだとは思うものの、国家公務員として、写真活動を通じて謝礼を受け取ることは、少なくとも今の法制度では難しいことが分かった。
私は写真でお金を稼ごうなんてつもりはないが、平日は本業に従事している以上、撮影の準備からデータ納品に至るまでの全ての作業に費やせる時間は休日しかなく、撮影した人に喜んでもらえる、自身の練習や経験にもなるといったやりがいだけで撮影依頼を易々と引き受けると、体というより心が持たなくなってしまう(実際、数年前に心が疲弊してしまった経験がある)。
また、どうしても受けたい報酬有りの案件の依頼があった際、正直な話、「有償では受けられないのですが無報酬でなら受けられます!」と言ってお引き受けした案件もあった。
しかし、最近色々な方とお話しする中で、そういった私の行動が写真を生業としている方々の活動の妨げになり得ることに思いが至り、今後は控えるようにしたいと思っている。
今は、「基本的には純粋な作品撮りのみ行い、依頼撮影は本当に親しい人からの依頼で、負担にならないもののみ受ける」と方針である程度は心の整理が付いているが、今後更に活動を続けていく中で、兼業との兼ね合いで苦悩する場面に直面することになるかもしれない。
その時に、果たして躊躇わずに倫理規定の遵守を優先し、当該案件を断ることができるのか、こんなことを言って良いのか分からないが、自信がない。

ただ、公務員の兼業に関しては明るい兆しもある。
地方公務員では、地域貢献活動に限って兼業を認めるような動きが出てきている自治体もある。
また、兼業の関係ではないが、特にこの数年で国家公務員の働き方改革が一気に叫ばれるようになり、ついこの間は残業代が適正に支払われるようになったりと(読者からの「えっ、今更!?」という声が聞こえてきそうだが)、国家公務員の労働を取り巻く環境は少しずつ改善しつつある。
このような流れの中で、国家公務員の兼業に関しても、優秀な人材の確保や人材育成の観点から、より柔軟な運用が認められる可能性があるかもしれない。

残念なことに、兼業に関わる倫理規定を全ての公務員が遵守している訳ではなく、公務員でありながら写真活動で金銭を得ている人もいる。
彼らには彼らなりの論理があり、それぞれの倫理基準で行動しているのだろうから、私に彼らの行為を裁く権限はないが、少なくとも私は倫理規定に違反するような、そして国民の信頼を裏切るような行為はしていないと、胸を張って言える自分でいたい。

(2021.7.29追記)
最近の人事課とのやりとりの中で、以下の条件をクリアする単発の依頼であれば兼業に該当せず、有償の依頼であっても受けることが可能であるということが分かりました。また、兼業に該当しないため兼業申請書の提出は不要でした。

・継続的又は定期的に従事する場合にあたらない
・依頼者が利害関係者(補助金等の交付を受けている者など)にあたらない
・報酬の規模が特別に高額である等の国民の疑念を招く事情がない

勿論、職務専念義務の遂行や信用失墜行為の禁止といった基本的な事項はクリアしている必要があることは言うまでもなく、また、例えば1ヶ月に1回などの頻度で依頼を受ける場合は兼業とみなされる可能性がある(https://www.nishinippon.co.jp/item/n/478583/)ため、慎重に慎重を重ね、案件ごとに人事課に確認を行いつつ活動していこうと思います。

(参考)
人事院作成「義務違反防止ハンドブック」p.15【照会例 12】
単発的な案件として講演を依頼され報酬を得る場合は「継続的又は定期的に従事する場合」には当たらず、第104 条の兼業に該当しない。
https://www.jinji.go.jp/fukumu_choukai/handbook.pdf
 
・国家公務員倫理審査会事務局作成「国家公務員倫理規程事例集」p.5 問5
勤務時間外に原稿の執筆を実施することと、報酬の額が国家公務員以外にも適用される事業者の基準に基づいたものであることという基準を満たしているため、原稿執筆の報酬を受領して差し支えない。ただ、依頼元事業者は利害関係者には該当しないものの、執筆内容が当該職員の現在の職務に関係するものであるため、贈与等報告書の提出が必要。
https://www.jinji.go.jp/rinri/jireisyu/H27zireisyu.pdf

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