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2020.6.25(木)〜26(土) 4ヶ月ぶりのライブハウス

90年代は、何ヶ月もライブをやらないこともたまにあった。音楽業界で一番「効率よく」稼げるのは、CDを作って売ることだった。もちろんライブハウスやホコ天からデビューしたバンドは年間何百本もツアーをしていた。

けれど宅録出身の僕は周囲からももっとライブをやったほうがいいとは言われなかったし、事務所的にもレコード会社的にもライブはアルバム発売後の宣伝の一貫(であって出費のかさむもの)として位置づけられていた。

今は昔、20世紀の話。隔世の感あり。

そんな自分も20世紀末ごろから少しずつライブの面白さに目覚めて、弾き語りのツアーも始めるようになった。21世紀に入ってCDバブルが崩壊、音楽の主な市場はライブに取って代わる。

20世紀にはしみったれたイメージすらあったアコギの弾き語りも「アコースティックライブ」という呼び名のオブラートにくるまれて、ごくごく普通のものになった。

僕自身、この10年ほどは1ヶ月以上ライブをしないときなどなかった。ネットで告知するだけで全国津津浦浦、かなりアクセスの悪い会場にもお客さんは集まってくれて、時に「密」になりながら楽しんだ。

全国のライブハウスやカフェ、クラブにはそんな宴が一年中無数にあって、音楽好きな僕らの単調な日常のハレの場として日々を彩っていた。


そして2020。まさか、こんな世界になるとは。

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2020.6.26(金)、僕にとって4ヶ月ぶりのライブハウス。自粛期間も歌い続けていたけれど、あくまで家の中だけ。本番が近づいてきて、1時間続けて歌う感覚、外に向けて歌う感覚がかなり鈍っているのに焦った。

2週間くらいかけて仕上げた自主トレは手応え十分で好感触だった。ライブ前日、10時間くらいぐっすり寝て起きると、腰の背筋が鈍く痛い。寝すぎかと思ったが(笑)何かが違う。

どうやら、腹式呼吸の時に使う背筋(ちゃんと背中も膨らませて息を吸うのだ)を久しぶりに酷使した影響らしい。

腰痛ベルトを締めて会場へ。しかも入時間を勘違いしていて、大慌てでセッティングしてサウンドチェック。あぶねえ...そこは経験値で事なきを得る。

会場の「晴れたら空に豆まいて」は去年小坂忠さんのライブを観に来て飛び入りして以来だろうか?懐かしいような、ついこの前のような。

今回のイベント『TUFF.TOKYO』は、「ライブハウスが持つポテンシャルをフルに活用し、ミュージシャン・ライブハウス・オーディエンスの輪を新しいシステムでつなぐ新たな音楽エンターテイメント」を目指す配信イベント。

3月の「新生音楽(シンライブ)」vol.1 高野寛 + 原田郁子に近いコンセプトだが、違いは録音スタジオからの無観客配信ではなく、ライブハウスから少しだけお客さんを入れた状態での配信だったこと。

動画をいつも自撮りしている若いミュージシャンなら、きっと無観客配信でも自然体でできるのかもしれない。でもステージで拍手を浴びるあの感覚が染み付いている僕らのようなオールドスクールにとっては、拍手や歓声がない無観客のライブは、どうにも座りが悪い。

言ってみれば、出汁のない味噌汁、イチゴのないショートケーキ、ライムのないコロナビール、玉ねぎのない牛丼、タピオカのないタピオカミルクティー.....

今回のTUFF.TOKYOは完全無観客ではないが、客席の大半が撮影機材に占領されていたので、ごく少数のお客さんを入れた配信メインのイベントだった。

こういう場合どこに向かって歌うのが正解なのかかなり思案したが、先日のフィッシュマンズの配信を観ながら考えたことが役に立った。

その場のお客さんは曲間の静寂を埋めるためのアシスト。ネットの向こうにいる誰かと、そして「音楽の神様」に向かって歌う気持ちで。

だから、外の音を遮断するイヤモニ(耳栓状態になるイヤフォン)をして、拍手は聞こえづらくなるが配信を聴いている人と同じ音を自分でも聞きながら、ニュアンスを最大限にコントロールしながら歌うことにした。

初めて共演するNao Kodama×Kan Sano ・ Shin Sakiuraの二組はセンスと今の感覚にあふれていて、大いに刺激された。楽器もうまい!
こうなったら、自分にできることをやるしかない。

まだアーカイブを観ていないけど、今のポテンシャルは全部出せたと思う。去年のツアーで鍛えたラップトップ+エレキのスタイルを軸に、アコギの弾き語りも、ピアノの弾き語りも織り交ぜて。初めて観てくれた人にも届くように願いつつ。

最後にみんなで記念写真。「この感じ久しぶりだよね〜」って誰かが言ってた。この当たり前の光景がやっと戻ってきたことが、本当に嬉しかった。



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