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第十四回:中身を読んでみないと価値が判断できないのに

前回の締めで、倉下さんの悪そうな笑顔が脳裏に浮かんで離れなくなってしまった鷹野です。なんというバトンの渡し方をしやがりますか。天の邪鬼属性Sの倉下さん、ちーっす。

往復書簡的に進んでいる当連載ですが、倉下さんの投げ返しがあまりに速く鋭いため、受け取りまた投げ返すのが大変です。まあ、私はM属性なので、これはこれで楽しいのですが。引き続きのんびり、マイペースにいきたいと思います。

◇ ◇ ◇

さて、連載を少し遡ります。第十回で私は「無料かつ柔らかいコンテンツの方が広く伝播する」という話をしました。これは裏を返すと「有料かつ固いコンテンツは広く伝播しづらい」ということになります。もう1度、例の図を示しておきましょう。

では「無料かつ固いコンテンツ」はどうか?「有料かつ固いコンテンツ」よりは伝播しやすいけど、「無料かつ柔らかいコンテンツ」より伝播しづらい、ということになるはずです。同じ無料でも、Twitter やブログのほうが伝播しやすく、電子書籍は伝播しづらいのです。

それはなぜか? ちょっと違うベクトルで考えてみましょう。家電製品や洋服などは、多くの場合、手に入れる前にスペックだけで価値を判断できます。これを「探索財」と言います。ところが、書籍や雑誌といったコンテンツは、多くの場合、中身を読んでみないと価値が判断できません。これを「経験財」と言います。

これに対し前回、倉下さんが例示した「村上春樹さんの新刊」のケースは、「信頼財」です。著明な作家や弁護士・医者といった専門家が勧めるモノなら、自分にはすぐ価値が判断できなくても、その人を信頼して買ってしまう、というわけです。

ところが、Twitter や Instagram のような短い文章や画像を中心とするタイプのソーシャルメディアは、フィードに流れてきた投稿を見た瞬間に「経験」できてしまうため、即座にその価値が判断できる場合が多いと言えるでしょう。「いいね!」の数やリツイート数が、その判断材料にもなります。

そして、電子書籍のような形でパッケージ化されていると、仮にタダで手に入れたとしても、改めてアプリを開くという手間がかかる上に、中身をそれなりのページ数を読んでみないと価値を判断できない、という状況になります。読んで面白い! と思った人が、それを周囲へ伝えてくれるとも限りません。

つまり、わざわざ手間をかけ電子書籍としてパッケージ化した上で「無料キャンペーンです!」とやるより、もっと柔らかい形——Twitterやブログなど細切れになった状態のままのほうが、恐らく多くの人に読んでもらえるのです。この連載をこの note で書いているのも、そういう狙いがあります。

ではパッケージ化することに意味はないのか? というと、もちろんそんなことはありません。パッケージになっていたほうが売りやすいのです。ある程度のボリュームがあることによって、中身がわからなくても「それなりに価値があるのではないか?」と判断され、対価を払ってもらえる可能性が高まるのです。

また、書き手の意図した順番で読んでもらうことにより、文脈が理解しやすくなる、というメリットもあるでしょう。ブログで1つの記事がバズってたくさん読まれたとても、その前後に書いてある記事を読んでもらえる率はあまり高くありません。

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つまり、前回の倉下さんが私へ投げかけた、コンテンツの無料と有料をどのようにコントロールしたらいいのか? という問いに対する私の答えは、書き手の「認知度」と、コンテンツを伝播するメディアの「固さ」に依って異なる、となります。

……といったところで、そろそろ倉下さんにバトンを渡しましょう。

倉下さんの原稿へ続く

最後までお読みいただきありがとうございました。