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第四回:インターネットの中央集権化に抗う辺境の私たち

たとえばこれを「セルブズパブリッシング」(selves-publishing)と呼んでみることにしましょう。自分ひとりでセルフパブリッシングできる人が集って行う出版活動です。
第三回:セルブズパブリッシング宣言(倉下忠憲)
selves【名詞】自分たち◇selfの複数形(英辞郎:アルク

頭をガツンと殴られたかのような衝撃でした。私もこれまで、「チーム」や「コラボ」での出版、という表現はなんどもしてきたのですが、「セルフ」を複数形にして「セルブズ」にする、という発想はありませんでした。

試しに Googleで "セルブズパブリッシング" と引用符で囲い完全一致検索をすると、倉下さんの前回のノートしか出てきません。"selves publishing" でも、451件しか出てきません。英語圏でもめったに使われない言葉のようです。「セルフパブリッシング」は「1人でやる」ものだというイメージが強いのでしょうか? それとも、なにかほかに阻害要因があるのでしょうか?

まっさきに思い出したのは、漫画家・鈴木みそさんへインタビューしたときのこと。「いまはKindle独占でやられてますが、他のプラットフォームではやらないのでしょうか?」という趣旨の質問をした流れで、以下のような発言が飛び出したのです。

みそ KDPで面倒なのは、印税を一人の作家に対してしか払ってくれないんですよ。僕にしろうめ先生にしろ、KDPでやったら毎月相手に印税を振り込まなきゃいけない。じゃあその振込手数料とか、消費税は? とか、そんな面倒くさいことを毎月やりたくないわけですよ。逆に、出版社はそういう仕組みを持っていて、一年に一回売れた分だけ振り込んでくれて、伝票も出してくれる。
電子書籍で年間1000万円稼げちゃいました ── 漫画家・鈴木みそさんインタビュー(前編)

ちなみにこのインタビューからもう3年経ってますが、Amazon「Kindle ダイレクト・パブリッシング(KDP)」ではいまだに、印税は1人の作家に対してしか払ってくれません。中の人になんども要望してますが、いまだに実装されません。これは日本だけでなく、アメリカ本国でも、Apple「iBooks」の「iTunes Connect」でも、Rakuten Kobo「Kobo Writing Life」でも、Google「Google Books Partner Program」でも同様です。

私が知る限り、少なくとも日本において、印税を自動で複数名に配分してくれるシステムを実装しているセルフパブリッシング・プラットフォームは、ここ「note」の共同運営マガジン機能と、「BCCKS」の印税シェア機能くらいです。もしかしたら出版社向けサービスにはある機能かもしれませんが、それはもう、いわゆる「B向け」という位置づけになるでしょう。

恐らく、最大のプラットフォームである Amazon KDP が印税自動分配システムを導入しないから、日本はおろか北米でも、複数形の「セルブズパブリッシング」をやろうという機運がなかなか高まらないのではないか? という予想ができます。ではなぜ Amazon は印税自動分配システムを実装しないのでしょうか?

KDPで新しい本を作成しようとすると「著者等」の入力欄には、著者、編集、はしがき、イラスト、紹介文、ナレーション、写真、前書き、翻訳と、その本に対する貢献者の情報が入れられるようになっています。「共著」というのは当たり前に存在するわけですし、関係者へ自動で印税が配分されるシステムがあったら便利、なんて発想はすぐ思いつきそうです。

既存の出版社に対する配慮? そんな牧歌的な話はあり得ないでしょう。むしろ、Amazon 自身が出版社となる「Amazon Publishing」事業への阻害要因になりかねないから、という理由のほうがしっくりしそうです。儲かる作品を生み出す作家はできれば抱え込んでおきたいから、支配下にない編集者等が便利に使えるシステムなんかを提供するはずがない——あくまで想像ですが、あり得そうです。

これは Amazon に限った話ではありません。Google や Facebook のような巨大プラットフォームによる中央集権化が進んでいるというのは、最近よく言われる話です。アメリカ連邦通信委員会(FCC)が、オバマ大統領時代に導入された「ネットワーク中立性(network neutrality)」規則の廃止を承認したことで、今後そういった状況はますます加速していくかもしれません。

情報の流通が一部の大手企業に牛耳られてしまう——それは「マスメディア」とほぼ同義でしょう。インターネットの自由はどこに? そんな状況、おもしろくありませんね。

 革命は常に辺境から始まる。
 かつて、そんな言葉を残した政治家がいました。もしかしたら、出版における革命も辺境から起きるのかもしれません。
倉下忠憲「星空とカレイドスコープ ~セルフパブリッシング作家の多様な存在可能性~」(『インディーズ作家の生きる道』〈群雛文庫〉)より

「セルフ」にせよ「セルブズ」にせよ、いまは主流派ではなく、辺境であることは間違いないでしょう。そういう辺境にいる私たち自身が、革命を「起こす」ことができたら? そんなことを夢想しながら、そろそろバトンを渡すことにします。

倉下さんの原稿に続く

最後までお読みいただきありがとうございました。