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第三回:セルブズパブリッシング宣言

きっと、1人でやるより2人でやるほうが楽しいし、1+1が2より大なりの結果に繋がるような気がします。

前回鷹野さんが上記のように書かれていましたが、私も似たような感覚を持っています。いかにも楽しそうですし、これまでと違った結果が待っているかもしれません。

しかしそれは、あくまで「かもしれない」話です。成果が約束されているわけではありませんし、そもそも無事完成させられるのかも現時点では不明です。しかし、ひねくれものの私は、こう思います。だからこそ、やってみる価値があるんだ、と。だからこそ、そこに楽しさが随伴するのだろう、と。

実際、この原稿に至るまでの流れは、非常に楽しいものでした。いまだ形のないものを、クリティカルでスピーディーな意見交換で(多少の雑談を交えて)形作っていくのは、誰の得になるのかまったくわからない迂遠な会議が大嫌いな私としては、心躍る体験です。

これこそが、セルフパブリッシングの醍醐味だと言えるでしょう。

セルフパブリッシング?

2012年10月にAmazonがスタートさせた「Kindle ダイレクト・パブリッシング」(以下KPD)は、個人と出版の関係を大きく変えました。

もちろん、それ以前でも二次創作などで「本作り」をする人は多くいましたし、先行するKoboにおいてデジタル書籍を出版することもできました。

とは言え、KDPはその背景にAmazonストアという巨大プラットフォームを背景に持ちます。そこに自分の本を並べられるというのですから、Web上で書き物をしている人たちが、新しい可能性の光を見出したとしても、おかしいことではないでしょう。

私も、2013年に出版された『KDPではじめる セルフ・パブリッシング』において、個人が簡単に出版できる環境がもたらす新しい可能性を提示しました。それがどれくらいうまくいったのかはわかりませんが、それでもKDPやその他のサービスを使って個人で出版している人は少しずつ増えています。特に、まとまった文章を書くのが好きなブロガーさんが、セルフパブリッシングにもチャレンジしてみるといった事例は、着実に増加しています。

さて、KDPの開始から5年ほど経ち、セルフパブリッシングについての知見は、少しずつ蓄積されてきているでしょう。ただしそれは、個人の中だけで蓄積されているか、公開されているにしても広い範囲までには伝わっていない印象があります。そしてそのことは、現状セルフパブリッシングがいまいち「イケている」感じがしないこととも関係しているかもしれません。

一通りセルフパブリッシングはできるようになった。仕組みはわかったし、本作りの勘所みたいなものも見えてきた。売り方だって、多少データは持っている。そういう人は少しずつ増えていることでしょう。私も二十冊以上をセルフパブリッシングしていますし、鷹野さんもセルフパブリッシング経験者です。

だったら、次の一歩を踏み出してみるタイミングなのかもしれません。

セルフパブリッシング+セルフパブリッシング=?

たとえばこれを「セルブズパブリッシング」(selves-publishing)と呼んでみることにしましょう。自分ひとりでセルフパブリッシングできる人が集って行う出版活動です。

言葉遊びをするならば、今回のように期間限定で行う複数人の出版活動を「コラボパブリッシング」、定期的に行うものを「チームパブリッシング」と呼んでもよいでしょう。どのような呼び方をするのであれ、個の力を集結させた出版の形はさまざまに考えられます。

基本的にセルフパブリッシングは一人でできるものです。しかし、一人でできるからといって、必ずしも一人でやらなければならないものでもありません。チームによる出版の扉はいつだって開いています。

「いやいや、そうやって複数人でやるなら、セルフパブリッシングとは呼べないのではないか?」

そんなツッコミがやってくるかもしれません。でも、私は違うと思います。

「セルフパブリッシング」という言葉は、既存の(あるいは旧来の)出版活動との対比で生まれてきました。その対比の軸は、たとえば流通過程に置くこともできるでしょうが、私は利害関係に、言い換えれば、ステークホルダーの複数性に置きたいと思います。

既存の出版では、本を書く主体と、本を作る主体は別でした。書き手が本を書き、出版社が本を作る(そして売る)。それぞれの主体の思惑は、重なるところもあり、重ならないところもあります。そして、どちらかと言えば、出版社の思惑に重きが置かれていました。金銭的リスクを考えれば、当然のことではあるでしょう。

セルフパブリッシングは違います。「本を書く主体」=「本を作る主体」であり、分裂も対立もせず、ピタリと重なっています。そのような状況のことこそが、セルフパブリッシングと呼べるのではないでしょうか。「本を書く主体」による出版活動なわけです。

だから複数人が参加していても、それぞれが「本を書く主体」側に属しているならば、その中で意見交換や対立があったとしても、それは「セルフパブリッシング」と呼びうるでしょう。あえて複数形を強調すれば、「セルブズパブリッシング」となるわけです。

ここまでくると、「じゃあ、出版社とか出版活動ってなんだろうね」ということが気になってきますね。それについては、鷹野さんにバトンを渡すことにします。

鷹野さんの原稿に続く)

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