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マジックアワー

あ、なんだろ。この感じ。。
ドキドキして胸が苦しいような。。
けど、苦しいけど会いたくてたまらないの。

こんな今時高校生のような、いや、中学生?
小学生の女子みたいな、恋を初めてしました。
みたいな気持ち。

琴音には成人した長男と高校生の息子がいる。
あと、
あ、会話も続かないような旦那が1人いたわ。
はたから見たらごく普通の家庭の平凡な母親、妻だ。決しておしゃれとは言えないそこらへんの服屋さんで調達しました的な服装に、背中までの髪を一結びにしてる決してスタイルはいいとはいえない、おばさんだ。
しかし、出会ってしまったのだ。

あの日、偶然、ホントに偶然、
というべきか奇跡のような出会いをした。

琴音は普段とは違った、ちょっと、シックな黒のタイトなズボンに黒のカーディガンに車に常備してある普段被らないような黒の帽子を黒髪のストレートの頭に被ってマスクをして車から降りた。
これなら目しか見えないからきっと、普段私を知ってる人は私だと思わないはず。
琴音は暇さえあれば、ここにくる。
ここにくれば、漫画は読み放題、飲み物も飲み放題!おまけにスープまであって、しかも一人の空間でゆっくりと過ごせる。
自宅から一駅分離れたところにある、
ここを琴音は誰にも知られず、自分だけの秘密空間にしている。

あ、そろそろ時間だわ。
琴音は読んでいた漫画を早々と読み終えた。
今日はドリンクもあまり飲めなかったな。
ドリンクは飲みすぎるとトイレに行きたくなるのでその時間さえ琴音にはもったいなく感じたのだ。

はぁー。
そろそろ帰って夕飯の支度しないとか。。
4時半になる時計を見てため息をつく。
と、同時に側に置いてある帽子を見つめ、ふっと笑った。
まさに、シンデレラみたい。
と、琴音は嫌いな帽子を深く被った。

マスクをして2つある出入口のうち、いつも通り遠い方に琴音は進んだ。

前の方からどこかで会ったことのある男の人が歩いてきた。
その人とすれ違うとき、あっちもこっちを見ていたのだ。
目と目が重なって、すれ違ったあと、ふと振り返った。
いや、振り返ってしまった。
つい。
その人もふと立ち止まり振り返った。
それが同時だった。
そして、その人の口から思いがけない言葉がでたのだ。
「どうも、お久しぶりです」
えっ。。
琴音は一瞬言葉に詰まってしまった。
この人は私を人違いしてるのだろうか。。。
だけど、その人は続けたのだ
「林さんですよね?
こんなところで会うなんて偶然ですね」
そう、合っている。
合っているのだ、私は林なのだから。
「。。。どうも」
私は焦った。
なんで、私だとわかったのだろう。
いつもと全く違う格好をしているのに。。
その人は次男が中学生の頃通ってたサッカーチームの友達のお父さんだった。
「佑樹くん、元気ですか?」
と、その人は気さくに話しかけてくる。
私は似合わない帽子を取った。
身バレしたのにこんな帽子を被ってるのが急に恥ずかしくなった。
でも、その人は琴音の触れられたくないことには触れずに気さくに笑いながら話しかけてきた。
琴音はあまり、人付き合いが好きではないし、ましてや、複数の女性と付き合うのは苦手である。
だけど、なぜか、この人はとても話しやすかった。心地よかった。

あ、もう、時間が。。
琴音が入り口に掛けてある時計に一瞬目をやったのを見すごさなかった。
その人は言葉を続けた。
「もしよかったら、電話番号交換しませんか?」
えっ。。。
琴音は一瞬戸惑った。
なぜなら、電話番号を交換するとLINEの友達にもなってしまうからだ。
それでもいいのだろうか。。
それを承知で私に聞いてきてるのだろうか。。
「あ。でも、LINEが。。」
いいかけたが、その人は言葉を続けた
「LINEもしましょう」
と。
そして、電話番号を教え合い、QRコードをどうするのかとやり取りが始まった。


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