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【実話】 手

手が天井から生えていた。

以上だ。

と、言いたいが、一応もう少し詳しく説明しよう。

二十年以上前の話だが、私は職場の廊下を歩いていた。

時間帯はもう日がくれている夜で、窓からは遠い街の明かりが見えていた。

私は廊下を歩いていて、ふと右を見た。

右側にはまたそちら方向に伸びる廊下があったのだが、その右手に入る廊下のすぐ左側にはトイレがあった。

そのトイレの前あたりの天井に、何かある。

節電で光量が落とされ、廊下の灯りは半分が消されていたので、薄暗かった。

手だ。

天井から、人間の手と思しきものが、手首からぷらんと生えている。

驚き過ぎたのかなんなのか、その時の私は、「手だ」と思っただけだった。

ぴちゃん、と音がした。

私が向いている方向の前方、その足元方向から、小さな水音がして、私は反射的に視線を落とした。

トイレを使った後の人が、何をどうしたのか、こぼしでもしたのか、スプーン一杯分くらいの微妙な分量の水がトイレの前の廊下に円を作っていた。

私は天井に視線を戻したが、そこには何もなかった。

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