HD_スルメイカの漁獲量と年間平均卸売価格_02__1_

いかんともしがたい、イカの値上がり

BSテレビ東京の朝の情報番組、日経モーニングプラス。番組の中のコーナーで、世の中の様々な値段がどうやって決まっているのかを解説する「値段の方程式」の今朝のテーマは「イカの値段 高騰が続く理由は」でした。「庶民のイカ」とされるスルメイカや高級なヤリイカ、アオリイカ……。イカといっても様々な種類があります。今回取り上げたのはスルメイカの話です。

上の記事にある「海のカナリア」というのがスルメイカです。スルメイカは環境の変化に敏感といわていて、鉱山の毒ガスを探知するカナリアにたとえられていますが、「消えた」と見出しを打つほど、近年漁獲量が減り続けています。

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2018年の年間漁獲量は過去最低だった17年をさらに3割も下回りました。値段は過去最高値圏です。19年も高く始まっています。

海水温の低下が響く

地球温暖化の影響でしょうか。それもあるんですが、実はイカ不漁の背景には「海水温の低下」があります。温かくなるのではなくて、冷たくなることが影響しています。
スルメイカは主に東シナ海で卵を産みます。実は、東シナ海を含む太平洋では10年から20年周期で水温の高い場所と低い場所が入れ替わる現象が起こります。2010年ごろにこのイカの産卵場所が海水温が低温期に入ったとされ、これがイカの卵の生育を妨げています。

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上のイラストは海の断面です。深くなると水が冷たくなりますが、通常なら暖かい部分と冷たい部分の層が分かれていて間には境界層という、壁みたいなものがあります。イカが水中に卵を産むと、通常はこの壁でとどまって、孵化すると上に上がってくるわけです。ところが、全体の水温が低いと、この壁ができないために、海底まで沈んでしまってうまく孵化しなくなってしまいます。これが、主なスルメイカの減少理由だとみられています。

さらに海水温は上昇の影響も受けています。スルメイカの主な漁場は日本海です。東シナ海で産まれたイカは太平洋側か日本海側を通って日本海に集まってきます。太平洋側を通ってきたイカは津軽海峡を泳いで日本海に来ます。ちなみに青森県の大間産や北海道函館の戸井産といった最上級のマグロは津軽海峡でイカをたっぷり食べ、成長します。
ただ、日本海の海水温は世界平均と比べて2倍から3倍のスピードで上がっていて、うまく孵化したイカも育つ場所である日本海に来ると今度は温度が高すぎて死んでしまうという、いかんともしがたい状況です。

値段の方程式はこうなります。

「イカの値段は日本海と東シナ海の海水温で決まる」 

ほかにも中国や北朝鮮の違法操業の影響も指摘されています。最初に紹介した新聞記事によると昨年1年間で違法漁船に退去警告をしたケースは5千件以上あったそうです。

加工品にも影響

イカは50%が加工品になるといわれています。特に値段の安いこのスルメイカはその主な原料です。おつまみのスルメとか、塩辛がありますよね。
スルメイカが高騰しているために加工業者としては逆境ですが、山口の業者が「イカの女王」と言われる高級なケンサキイカでの塩辛作りに挑戦していたり、金沢の企業がイカの代替品の研究をして、イカそっくりの「イカモドキ」という製品を開発しました。

まずキャスターの八木ひとみさんから「イカって養殖は難しいんですか?」という質問を受けました。多くのイカって、後ろ向きに泳ぎますよね。進行方向の確認がしにくいんですが、実はこれが原因で養殖しようとすると壁とか水槽にぶつかって死んでしまうんだそうです。
キャスターの天明麻衣子さんからは「将来的には養殖可能になりますか」とも聞かれました。水産物全般に言えることですが、値段との相談になります。イカの養殖は実は技術的には可能ですが、設備費用が高い。現状ではイカ1尾育てるのに2万円超かかるそうです。人気があって、ある程度値段が高いもので、かつ養殖技術や環境が整ったものだけ養殖できるというわけです。
最後に豊嶋広さんから「イカモドキの値段はどのくらいですか」と質問されました。まだ開発段階なので値段についてはなんとも言えませんが、いまはスーパーの店頭で冷凍もので1ぱい600円前後と高い。そもそもスルメイカが店頭に並ぶのも珍しくなっています。「イカモドキ」はこれよりはるかに安くなるでしょう。海藻と米粉が主原料なのでコレステロールがほとんどないというメリットもあります。
出演者の皆さん、イカに関心が高いようです。お酒を飲みながらかじるスルメのおいしさは格別ですからね。イカは寿命が約1年。成長に適した海水温に恵まれ、乱獲しなければ、比較的資源回復が早いともいわれています。スルメイカが早く高根の花状態を脱し、手ごろなイカに戻るのを願っています。


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