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息子の成長と男女平等について思うこと。

きっかけはとある新聞広告だった。

朝、息子と朝食を食べているとき(早起きの夫はとっくに済ませて散歩に出かけていた)とある新聞広告が目に入った。

「長年ひざに悩んでいる妻。
 最近はついに私にまで
 ひざに違和感が……
 すぐにでも対策しないと」

との文言がつけられたサプリメントの広告。

どこのメーカーの何という商品なのかはわかる人にはわかると思うので、ここではあえて書かないが、私はその広告を息子に見せてこう尋ねた。

「この広告でおかしいところはどこでしょうか?」

息子は目をぱちくりしながら広告を見て、しばらく考えていた。声に出しながら読んでみたり、その言葉と共に描かれた中年男女の絵と、サプリメントの画像を穴が開くほど眺めまわして、ようやく思い至ったように私を見た。

「これ、長年の間、妻がひざに悩んでいたのなら、この夫はどうしてその時点で何か対策を取ろうと思わなかったのかな?」

「うん、よく気が付いたね~!」

おわかりだろうか?
この広告の夫は、長年妻がひざの違和感に悩んでいることを知りつつ何の対策もせず、おそらくは大変だな~大丈夫か? などと口では言いながらずっと放置していたのであろう。にもかかわらず、いざ自分のひざが違和感を感じ始めたとたん、対策を取らねばと焦っているのである。

妻のことはどうでもええんかい! と突っ込みたくなった気持ち、わかっていただけるだろうか。

息子もそこに気が付いたとたん、「この夫ひどいね! 離婚だよ離婚!」などと言っている。いやまあ、離婚するかどうかはその夫婦の勝手であって、外野がとやかく言うものではないが、それはまあ置いといて。

「じゃあさ、この広告、どういう風に変えたらいいと思う?」
「うーん……例えば、夫と妻を逆にしてみるとか?」
「それだとたぶん、長年夫のひざの不調を放置してるなんてけしからん妻だって非難ごうごうだと思うよ」
「じゃあ、この夫も非難されないとおかしいんじゃないの?」
「うん、そうだね。でも、妻は夫の世話をするのが当然で、夫は仕事をしていれば家のことはしなくてもいい、っていう風潮がいまだに根強く残っているからそういうことになるんだよね。でも、その風潮を変えていこうって、今頑張っている人たちがいるんだよ」
「あれ、でも、うちもそうじゃないの? お父さんはあまり家のことしないよね?」

息子、鋭い。
確かにうちは夫が会社員で私は専業主婦なので、家のことは大体私がやっている。それはいいのか? と息子は言いたいのだろう。

「それはまあ……確かにうちでは、お父さんは仕事、お母さんは家のことをしているけど、そうやって役割分担してお互いに納得して不満がなければそれはそれでいいんだよ。でも、お母さんも仕事をしている共働きの家で、お父さんは家のことは何もしないで、すべてお母さんに任せっきりにしていたらどうなると思う?」
「お母さんだけ仕事もして、家事も全部ひとりでするの? それって不公平じゃない?」
「そうだね。だからこそ話し合いが必要なんだよ。どうすれば平等にできるか、何をどう役割分担するか、それぞれの家で話し合って、納得できる形を探さないといけないんだよ。それぞれの家で事情も違うし、得意不得意もあるし、みんながみんな同じ方法でうまくいくわけじゃないからね」
「じゃあ僕は、大人になって結婚して奥さんが大変そうだったら、何かしてあげようかってちゃんと言うよ」
「あーそれ、その、して「あげる」って言い方。それだと上から目線でえらそうだって思われて、揉めるもとになるから、そういう時は「僕にできることは何かある?」って聞くのがいいよ」
「難しいんだね……」
「だからね、今、君には家のことをいろいろ手伝ってもらっているでしょう。そうやってできることを今のうちに増やしておけば、将来結婚した後、これは僕がやるよって言えるでしょ」
「なるほど!」

ここで夫が帰宅したので、ひとまずこの話題は終了……となるかと思いきや、息子が例の広告を夫に見せて、先ほど私が投げかけたのと同じ質問をぶつけてしまった。

夫はその広告を見ても何とも思わなかったらしく、別にどこもおかしくないけど? と首をかしげていた。
夫は昭和の価値観で育った最後の年代なので、まあそうだろうなとは思っていたのだが、息子は食い下がった。

「妻が長年悩んでいるのに、すぐに対策しないのはおかしくない?」
「えーでもさ、この奥さんは自分で色々対策してるかもしれないじゃないか。病院行ったり、自分で薬買ったりさ。それを旦那が横からこれがいいよって口を出したら、「私はちゃんと対策してます!」って言われるかもしれないし。子供じゃないんだから自分のことは自分で何とかするでしょ」

夫のこの答えに息子は不満そうではあったが、一理あるとは思う。
女性は自分の不満をパートナーに訴える時、具体的な解決策ではなく、同調と共感を求めていることが多いからだ。下手にアドバイスしようものなら、そういうことじゃない! と怒り出すパターンもあり得る。

夫は上に姉がいるせいか、その辺を身をもってわかっているらしい。女性には変にアドバイスするよりも、大変だね、って同調する方がいいのだと、長年の経験で学習しているのかもしれない。

まだまだ経験値の浅い息子はその辺あまりわかっていなさそうなので、女性の愚痴に対して、悪気なく「じゃあこうしたらいいじゃん」ってポロっと言ってしまいそうではある。いや、間違いなく言う。それで喧嘩になったら、どうして相手が怒りだしたのか、わからない可能性もありそうだ。
これはおいおい軌道修正しておく必要があるだろう。

対して夫は、私が「今日こんなことがあった、めっちゃむかついた」みたいな話をすると「そうなんだ、大変だったね」ってまず言ってくれる。それだけで私は満足し、モヤモヤした気分はあらかた昇華されてしまう。
「こうしたらよかったのに」だの「俺ならこうする」だの、余計なことは一切言わない。夫のそういうところ、私は結構好きだ。

男女平等が叫ばれる今、うちのように、夫が仕事、妻が家事ときっちり役割分担をしている家庭はむしろ少数派かもしれない。不満が全くないとは言わないが、それはたぶんお互い様だ。
夫は私の家事に対してあれこれ口を出してこないし、掃除の仕方や料理の出来に対して基本的に不満を言わない。(まあ単純に口に合わなかった時は言ってくることもあるが、それは言ってもらった方がいいので構わない)
基本的に私は一週間のスケジュールをあらかじめ決めて家事をまわしているので、横からあれこれ口を出されて予定を狂わされるのは困るのである。
予定外の事態に対処できないわけではないが、確実にテンションは下がる。それもあって、夫は私のやることにいちいち口を出さない。ありがたいことである。
それに家事は私の担当ではあるが、いわゆるタオパンパ(タオル、パンツ、パジャマ)を何もかも私が用意してやらねばならない、などということは一切ない。夫は一人暮らしが長かったせいもあり、たいていのことは自分でできるし、自分のことは自分でするというスタンスが結婚前から出来上がっている。なので私は夫のタンスの中身を把握していないが全く問題ない。
自分のことは自分でする代わり、私のことにもあまり口を出してこない。それでいて、息子の問題にはしっかり向き合ってくれている。
お互いの領域は大切にしつつ、程よい距離感をもって暮らしていければそれでいいのではないだろうか。

そういうわけで、うちはこれで案外うまくいっているのである。
大切なのは、いかに平等にするか、ということよりもむしろ、いかにお互いの不満を解消するか、ではないかと思うのだ。
よそから見れば不平等に見えても、お互いが納得していればそれでいいのだ、きっと。

息子が将来、どういう家庭を築くのかはわからないが、目下のところ、もう少し空気を読めるようにしておく必要はあるかもしれない。

そんな風に思った朝だった。


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