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豊かな島、豊島を訪れて。

昨年十二月、ぽっかりと一ヶ月間の休みができた。

新卒から六年弱勤めた会社を退職し、新しい場所で新しい仕事を始めるまでのご褒美期間。いわば人生の冬休みとでも呼ぶべき時間。

3泊4日、瀬戸内海のまわりをめぐるひとり旅に出ることにした。

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最初に行き先として選んだのは、瀬戸内海に浮かぶ小さな島、豊島。

朝六時台の新幹線で東京を出発。岡山の宇野港を経由し、船で豊島へと渡る。

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船に乗るのはいつぶりだろう。コロナ前のひとり旅、カフェインのとり過ぎで体調を崩しながら乗った、エストニアのタリンからフィンランドのヘルシンキへ渡るあの船以来かもしれない。

船の旅は、飛行機とも新幹線とも車とも違うなんとも言えない特別感があって好きだ。十二月の海風はさすがに冷たいけれど、デッキにひとり腰掛けてシャッターを切り続ける。

小さな島があちらこちらにぽこぽこと浮かんでいて見飽きない。キラキラと眩しい水飛沫を上げながら、船はゆっくりゆっくり豊島へと進んでゆく。

豊島に到着し船を降りると、そこには木造の小さなバス停があった。バスには乗らず、徒歩でお目当ての豊島美術館へと向かう。

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港から美術館への道は上り坂で、バスや自転車で移動する人が多いのも頷ける。ここが東京だったら迷わずバスやタクシーに乗ってしまうんだろうな、と思いながら、一歩ずつ踏みしめて坂道を登る。旅先では普段の生活で中々出てこない力、アドレナリンのようなものが出るから不思議だ。

坂をしばらく登っていくと、白い大きな建物が見えてきた。

今回の瀬戸内旅でどうしても訪れたかった場所の一つ、豊島美術館だ。

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ここには作品が一つしかない、そしてその作品自体の写真撮影は禁じられている。訪れてみて初めて、その理由が少しだけ分かったような気がした。その作品は豊島の自然と共にあり、豊島のお日さまの光や風の感覚、鳥の声、空の色と合わさってはじめて一つの作品としてそこに存在する。

観光シーズンではない真冬の豊島。観光客はまばらで、とにかくじっくりと作品の世界を堪能できたことも大きかったように思う。地面から水が湧き出る様子をぼうっと眺めながら、床に座り込んだり寝そべってみたり。アートに詳しくない私でも、本来自然界にあるもの、そのままの姿が何よりの芸術作品なのでは…などと感じてしまう。

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美術館を出て、もう少し坂道を登ってみた。

坂道の途中で後ろを振り返ると、ただただ青い海と空が広がっている。道端では、橙色によく熟したみかんが売られていた。

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海と棚田を一望できる小高い丘。柔らかい風が頬を撫でる。空の高いところを鳶が旋回するように飛んでいた。

静かだな、と思う。この静けさ、人間と自然がすぐ隣同士でそっと寄り添って共にあることこそ、この島の魅力であり豊かさなのかもしれない。

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後ろ髪を引かれる思いで夕方の船に乗り、豊島を後にした。

高速船は行きのフェリーと違いかなり揺れていたが、窓にもたれかかりながら遠くの方を眺める。瀬戸内の夕陽は本当に綺麗だ。

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豊かな島、豊島。

なんだか肌に合う、とても居心地の良い島。

また他の季節に、もっと広く深く、豊島の魅力を探しに行きたい。


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