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【書評】江戸のお勘定

江戸時代、幕府は貨幣の鋳造権を一手に握り全国で統一的な貨幣制度を整備して経済政策の基盤を作るとともに、幕府による新田開発や問屋制株仲間などの経済政策により経済が発展した時代だった。
一方、庶民の生活に目を移すと、江戸時代は「寺子屋などにより『読み書きそろばん』が社会に普及し、庶民の識字率(リテラシー)が高まった」時代でもあり、人材育成・教育面でも経済発展の基盤を形作った時代でもある。

本書では、江戸時代の人々の経済生活のリアルを、家賃や湯屋、髪結などの「生活篇」、米代、そば代、酒代などの「食事篇」、芝居、寄席、瓦版などの「娯楽篇」、就活や排泄物取引などの「以外篇」、質屋、古着屋などリサイクルに関する「再生篇」の5つの観点を通して明らかにしている。

著者の紹介

大石学監修「江戸のお勘定」エムディエヌコーポレーション発行
2021年8月11日発行

本書は、1953年に東京に生まれ、筑波大学大学院博士課程単位取得退学。徳川林政史研究所研究員、日本学術振興会奨励研究員、同特別研究員、名城大学助教授、東京学芸大学を経て東京学芸大学名誉教授。2009年、時代考証学会を設立、現在同会会長である大石学氏が監修している。

本書の構成

本書が章構成は以下の通り。

序章 江戸時代のお金
<一>江戸のお金の基本のき
<二>武士の収入
<三>庶民の収入
第一章 江戸のお勘定【生活篇】
<一>江戸での生活
<二>家賃➡一カ月二万四千円 今よりも格段に安かった家賃
<三>水道代➡月三百三十円 庶民は家賃に含まれる
<四>湯屋➡大人三百円 低料金で楽しめる男の社交場
<五>髪結➡一梳七百二十円 おしゃれはまず清潔な髪から
<六>燃料➡一俵一万二千円 使う分だけの量り売り
<七>飛脚➡一時早着二万円 早い到着なら上乗せ分あり
<八>駕籠➡「日本橋~新吉原」間一万五千円 庶民には手が届かない乗りもの
<九>按摩➡全身千四百四十円 手軽な料金で施術可能
<十>歯磨き粉・房楊枝➡一袋百八十円 スターの白い歯はいつの時代も憧れ
<十一>おしろい・紅➡一袋千五百円 きれいになるには金も手間も惜しまない
<十二>着物➡浴衣一枚三万二千四百九十円 
<十三>売薬➡「反魂丹」二千円 安価で庶民の強い味方
<十四>寺子屋➡入学金七千五百円 授業料はケースバイケース
<十五>臨時の奉公人➡一人三千円 家禄に応じて奉公人の人数が決まる
コラム 武士がつけた家計のやりくり
第二章 江戸のお勘定【食事篇】
<一>江戸の食料事情
<二>米➡一升四合三千円 飢饉の時には米価が高騰
<三>そば➡一杯四百八十円 二八そばはお代から?
<四>すし➡一つ百二十円 二つ三つをつまむのが粋
<五>ウナギ➡丼一杯六千円 江戸で生まれたうな丼
<六>てんぷら➡一串百二十円 手軽に食べられた江戸のスナック
<七>カツオ➡一本七千五百円 高いのは初物とされる一時期だけ
<八>マグロ➡半身二千四百円 安くしても売れずに捨てられる
<九>豆腐・納豆➡一丁千八百円 半分や四分の一でも購入可能
<十>獣肉➡小鍋千五百円 薬食いとしてこっそり食べる
<十一>居酒屋➡田楽一本六十円 酒屋の立ち飲みから始まる
<十二>酒➡一升三千九百六十円 今の酒は江戸時代に誕生した
<十三>枝豆➡一回分九百円 生活に困った人が売り子
<十四>卵➡一個六百円 ゆで卵は吉原でよく売れた
<十五>冷や水➡一杯百二十円 一粒一文に実質値上げ
<十六>焼き芋➡一貫目三百円 安価で腹持ちの良さが人気の秘密
<十七>団子➡一串百二十円 一粒一文に実質値上げ
<十八>白砂糖➡一斤八千円 贅沢品から庶民の味へ
<十九>ところてん➡一つ六十円 今も昔も夏の人気食品
<二十>甘酒➡一杯二百四十円 手軽に楽しめた健康飲料
<二十一>薬湯➡一包千四百四十円 暑気払いや日射病防止に人気
<二十二>料理切手➡一枚六百万円 人気店の人気商品が手に入る
コラム 砂糖の国産化
第三章 江戸のお勘定【娯楽篇】
<一>江戸の遊興
<二>居合抜き➡無料 芸で集客し、商品を販売
<三>見世物小屋➡一回二百四十円 ハレの場を演出する大がかりな装置
<四>芝居➡土間一升五万円 一日がかりでで大散財
<五>寄席➡木戸銭四百八十円 安価で楽しめる娯楽の殿堂
<六>相撲➡一人六千円 寺社の寄進のためという名目で開催
<七>子どもの絵本➡一冊二千円 お年玉として人気
<八>瓦版➡一枚百二十円 実演付きで販売
<九>浮世絵➡一枚四百八十円 気軽に買えるアート
<十>貸本屋➡見料七百二十円 読みたい本をレンタルした
<十一>富札➡一枚七千五百円 高額のため数人で一枚購入
<十二>朝顔・万年青➡一鉢一億二千万円 過熱しすぎて高額取引禁止
<十三>虫売り➡一匹二百四十円 自宅でも虫の鳴き声を楽しむ
<十四>花魁遊び➡揚げ代十八万円 場合によっては百両以上もかかった
<十五>岡場所遊び➡揚げ代三千円 江戸四宿がおとなの特選街
コラム 大人の習い事
第四章 江戸のお勘定【意外篇】
<一>地位を金で買う
<二>就活➡一式二百四十万円 就職は身だしなみから
<三>商売の株➡一株三千六百万円 新規参入のためには絶対必要
<四>武士の身分➡同心株千六百二十万円 金を払えば武士になれる
<五>不倫の対価➡内済金九十万円 江戸よりも大坂の方が安かった示談金
<六>牢屋で小遣い➡六千円 金次第で待遇が変わる
<七>菓子屋の名前➡最安の官位三十六万円 名前と味は関係がない
<八>座頭の地位➡三万円 大儲けして旗本株を買った盲人も現われた
<九>元祖会いに行けるアイドル➡一杯百八十円 お茶の代金は安いが
<十>伊勢神宮での祈祷➡一回二千四百万円 天にも昇る夢心地
<十一>排泄物➡長屋年間三十六万円 高額で取引された吉原もの
コラム お金の値段
第五章 江戸のお勘定【再生篇】
<一>江戸のリサイクル
<二>質屋の利息➡三千円につき百二十円 身の回りのものを担保に融資
<三>献残屋➡御馬代百二十万円 贈答品を買い取って販売
<四>古着屋➡一着三千円 誰もが利用した「お古」
<五>古紙回収➡浅草紙百枚三千円 使用した紙を回収し再利用
<六>古傘買い➡一本百二十円 買取して再度販売
<七>ろうそく➡一本六千円 燃えカスも上手に利用
<八>鋳掛・焼継ぎ➡鉄瓶九千円 捨てずに使う「もったいない」の心
<九>雪駄・下駄直し➡二足九十円 求めに応じてその場で修理

本書のポイント

本書は、江戸時代の人々の経済生活や風俗、流行りとそれぞれのお勘定が現代の貨幣価値に換算してどのくらいだったのかが示されており、江戸の人々の生活感を感じる上で大変参考になる。

本書では、物価が安定していたとされている文化・文政年間(1804年~1830年)を基準として、金・銀・銭の換算を幕府の換算基準値を
金1両=銀60匁=銭4000文=米一石
とした上で、この当時はそば1杯が16文だったことから、
そば一杯=16文=現代のそば一杯が大体500円前後
として、現代の価値に換算して1文を30円、そこから金1両を12万円と定義して、現在の相当価格を算出している。

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