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【書評】カラー版 江戸の家計簿

江戸時代の人々の収入や物価を現代の価格に換算して考える際、使っている貨幣も違えば、その基準も違う。人々の生活も現在の私たちとは大きく異なっているため、簡単に置き換えることは難しい。
また、江戸時代の金融システムは、金・銀・銅という3つの貨幣が変動相場で取引される時代だったこともあり、貨幣価値を一概に言うことはできない。

そこで本書では、貨幣価値を江戸時代中期(18世紀初頭)のものを基準とし、米1石を金1両、銀60匁、銭4000文相当とした上で、2つの価値基準、
①米の価格に基づいて、江戸時代の貨幣を現代の価格に換算したもの
②労働に対する賃金を換算する方法
で現代価値に換算が試みられている。
武士や農民、町人、また職業別に、江戸時代における給料や物品の値段が現代価値に換算して紹介され、江戸時代の人々がどんな暮らしをしていたか、その経済事情から紐解かれている。


本書の監修者

磯田道史監修「江戸の家計簿」宝島社新書刊
2020年1月24日発行

本書監修の磯田道史氏は、1970年岡山県生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(史学)。茨城大学准教授を経て、2012年4月より静岡文化芸術大学准教授、2014年4月より同教授、2016年4月より国際日本文化研究センター准教授、2021年4月より同教授。

本書の章構成

本書の章構成は以下のとおり。

まえがき——江戸時代の貨幣制度とは
本書における江戸のお金の計算方法

第1章 江戸時代の収入1 武士篇
将軍と岡っ引きの年収差は約1852万倍!!/大岡越前と遠山の金さん 江戸2大奉行の懐具合/「武士は食わねど高楊枝」は本当!? 武士の暮らしと収支

特別インタビュー——あさのあつこ(作家)
 時代小説を読む楽しみ、書く楽しみ
コラム 江戸の風俗事情

第2章 江戸時代の収入2 農民・町人篇
江戸時代の知られざる陰の主役「農民」/“奉公人=会社員”より職人の方が高給取りだった!!/江戸時代の大工は高給取りだった/江戸っ子の収支ー商品を売り歩く棒手振りの日常/江戸遊びー歌舞伎役者から花魁まで/高利貸しと宿場ー相場は現代と同程度?

特集 ー江戸の成り上がり者たちー大江戸豪商列伝
コラム 江戸のマルチ人間 平賀源内の仕事

第3章 江戸時代の物価1 食品篇
江戸庶民の台所事情―物価からみる江戸の暮らし

特別インタビュー——宮坂正英(シーボルト研究者)
 シーボルトが記録した江戸時代の物価
コラム 江戸のベストセラー料理本『豆腐百珍』

第4章 江戸時代の物価2 料理・嗜好品・雑貨篇
江戸時代の庶民たちがこよなく愛した味の値段/現在の和菓子は江戸時代に原型が作られた!?/江戸の日常を彩る雑貨たち

特別インタビュー——小泉武夫(発酵学者)
 江戸時代に開花した日本の発酵食品
コラム 江戸の水道事情

第5章 江戸の文化と経済
人口100万人超の大都市「江戸」の生活/湯屋―江戸庶民の裸の付き合い/リサイクル業の発達ー大都市江戸の循環型経済/江戸の祭りー江戸情緒を彩る風物語/江戸時代のマスメディアー江戸の出版事情

特別インタビュー——北原進(歴史学者)
 消費都市・江戸の生活と経済

あとがきにかえて——江戸時代のお金と現代日本(磯田道史)

本書のポイント

本書では、米の価格に基づいて江戸時代の貨幣を現代の価格に換算した「現代価格」と労働に対する賃金を換算する方法による「現代感覚」の2つの価値基準に基づいて計算されている。

そのため、「現代価格」では、2007年農林水産省統計による「米の価格5kgあたり2,100円」から、金1両=63,000円と換算され、「現代感覚」では、「現代の大工見習の平均日給15,000円」から、金1両=300,000円と換算され、「現代価格」と「現代感覚」には5倍の開きがある。
このことから、「江戸時代、労働の価値は低く、食料の価値は非常に高かったということがわかる」と監修者は述べているが、江戸時代と現代のモノの価値を表現する難しさの一端を示している。

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