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創作劇場

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目の前にあるものから連想して描いていた短編です。これからも続けます。
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記事一覧

「張り紙」

「なんでも解決します」 と適当に書かれたその文の下に、携帯電話番号があった。 フミオ45歳は、今、膵臓ガンのステージ3と宣告され、緊急入院をする決断が必要なので会社やご家族と相談してください、と言われたばかりだった。 家に帰りたくない。帰って、妻にこのことを話せば、きっと機械的に保険屋さんに色々確認するのが関の山だろう。また兄弟たちに電話して、持ち家や遺産をどう分けるか、遺書にこれをかけ、あれをかけ、というのが想像できる。今俺に必要なのは、全くもってそんな時間じゃない。

日曜創作劇場「リモコン」

彼女が動かなくなった。 名前はまだつけていなかった。 昨日、家にきたばかりだった。 正確には昨日、「拾った」ばかりだった。 今は2164年の12月。 歴史的建造物としてリニューアルオープンした消費社会の象徴「大型ショッピングモール」にはいくつか問題点があった。 県が運営会社を公募して民間委託したのはいいが広さに対して警備員の数が足りておらず、数の少ない警備ロボットと人間では、不審者の侵入・施設への滞在を防げない。 刑務所の管理ならともかく、今そういう細かいところ

日曜創作劇場「スターウォーズ」

スターウォーズを観に行くべきか、いかざるべきか。それが問題だ。 私は高校2年生、キミ。 暇つぶしに、映画を見て批評(というか、ほとんどは感想文)を書く映画研究会に所属している。 さっき、同じ映画研究会のリョウ先輩が「みんなでスターウォーズ観にいこーぜ」、と言い出した。 新シリーズ(?)が出たばかりなのは知っていたけど、リョウ先輩、なんでそういうこと、こういう風に言っちゃうのかなー。 やっぱり昨日の私への告白はドッキリなんじゃないか。 何もしなくても人の中心にいるよ

日曜創作劇場「きれいな字」

彼は、手が届きそうで、届かない。そんな人だった。 字が上手くなればいいなぁと、思うけれども、そう切実でもない欲求。でも、綺麗な字の人を見ると、「こういう人には一生なれない」と、思わされるような、そんな人だった。 まるでイーストウッドの映画のように予告編だけでお腹がいっぱいになるような。ドラえもんで言えば、出来杉君のような。 だから、社会人になって数年して、イベント関係のお仕事の会場で彼を見つけたときは、まさかお茶できるなんて思わなかったし、しかも、その時に、彼女いるいな

「ともあきのなやみ」

ともあき 28歳の悩みは、悩みがないことだった。 バリバリ体育会系の上司(以下バリ上司)には「もったいないやつだなぁ」「ハングリー精神がないんだよお前は」とことあるたびに小突かれた。 根っからの優しい性格で人のサポートに回ることにやりがいを感じていた。 バリ上司も、彼の営業事務としての能力の高さに感心していた。バリ上司は「部下に自分を追い越してもらってこそ本当の良い上司」みたいな理想像があるだけで、彼への小言は愛情みたいなものだった。 毎日食事も美味しかったし、都会に

「ダサいマグカップ」

*2017/12/14に書いたものです。 *オザケン的男子をイメージ。 僕は怒った。 同居を始めた彼女が、僕の荷物にあったダサいマグカップの数々を、「揃ってないから」という理由で、勝手に写真をとって、メルカリやらのフリマソフトで10個100円で売ろうとしていたことがわかったのだ。 そして、悪いことに応募があってOKを出して、後1時間後に取りに来るらしい。 同居を決めた時、彼女からは「理想の部屋」のイメージ写真をたくさん見せられていたし、僕は仕事もできて色んなことをそつ

日曜創作劇場「メモ帳」

「このメモ帳を拾った方は、こちらまで連絡お願いします」 と最後のページに書かれたメモ帳(といっても、B5サイズのスケッチブックみたいなもの)を拾った恵子は今、商店街の中心にある時計の下で、メモ帳の主を待っている。 警察に届けて終わろうと思ったのだが、交番に誰もいなかったのと、息子の迎えまで時間の余裕もあったし、記されたメールアドレスに送信したら「助かります!今うけとれますか?」というメッセージに、ちょっとした救世主になったような気分となり、今に至っている。 その人には内

「嘘:反対側」

平気で堂々と嘘がつける人だったんだ。 彼のまっすぐな目を見て、私は無性に悲しくなった。 100歩譲って、彼に悪気はないとしても。 その瞳の嘘に騙されてあげるほど、私が彼に恋してなかったのは幸いだった。 今日私は見てしまった。 彼がわたしの知らない女の子とキスするところを。 しかも、濃厚なやつ。 街で見かけた時、仕事仲間と会ってるんだと思って、あとで声をかけようかと思ってついて行ったら、二人はビルの隙間に入って、キスをしたのだった。 まぁ、とは言っても、私たち、

「嘘」

「私のこと好きなんて、嘘でしょ」 彼女がまっすぐに僕を見つめるのが苦手だ。 全部見透かされていると思うからだ。 苦手だけど、僕はもちろん目をそらしたりはしない。 そう、こういう時が一番大事だ。 彼女が瞬きするか、目をそらすまで、自分からそらしてはいけない。 ゆっくりと「なんでそう思うの?」などと低い声で呟いて ふとももに手を置いて、ベットに誘い込めば、 たいていの女の子の気は済んでしまう。 でも今回は違った。 うまくいかなかった。 彼女は何か決定的な証拠

日曜創作劇場「USBメモリ」

(どうしよう、死ぬほど質問したいけど、できない。) さわ子23歳は、今、自分のPCに刺さったUSBの中のフォルダーを前に固まっている。 午後18時。出払っていた社員がミーティングから戻りプロジェクトの進捗を共有して早い時間の退社に向けて出入りラッシュとなる。 半年前に入ったこの会社は、映像制作を中心としたクリエイティブなことを業務にしている。クリエイティブなことはよくわからないさわ子だが、経理事務として働いている。 さわ子は、そこで出会った2つ年上のタツヤと付き合って

はじまりの日(*昭和のある日)

DAY002 *2017年12月13日に書いたものに一部、加筆修正。 *念の為ですが、「下のお話」です。 *物語は無料でどうぞ! *編集後記を有料で公開する実験します。「一つの物語が生まれるまでに思ったこと」に興味がある方や、「実体験?」などと疑問をもった方、もしくは「なんだかよくわからないけど、ちょっと面白かったのでこれでコーヒーでも!」という気前のよい方は、ぜひ。 とにかく毎日書くという習慣づけのため、1日1話(といっても詩、散文、メモ、おちなし中途半端)となるかもしれ

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