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映画『ROMA』は重いボディブロー。ズキズキと痛みを感じながら、爽やかな気分になるのは何故?

Netflixオリジナル映画『ROMA』を観ました。アルフォンソ・キュアロン監督が撮影した1970年代のメキシコが舞台の映画で、主人公はクレオという中流家庭で家政婦をする女性です。

アルフォンソ・キュアロン監督って、色んなジャンルを撮ってますよね。名作小説を原作とした『大いなる遺産』みたいな映画から、『ゼロ・グラビティ』みたいな宇宙の映画、そして、『ハリー・ポッター』シリーズまで、その作品は幅広いです。

俺たちはヘリコプターの影なんだよ

アルフォンソ・キュアロン監督といえば、WOWOWオリジナルドラマ『モザイクジャパン』で引用されたハリー・ポッターのくだりが僕の印象に残っています。

『モザイクジャパン』は田舎の町がまちおこしとして、アダルト企業を誘致し、その町の住民たちは、アダルト作品にモザイク処理を施すことを仕事にして、職につけるようになり、所得が上がって・・・という話です。

高橋一生が演じるそのAV企業の社長は、主人公である永山絢斗演じる新入社員に、AV業界について、アルフォンソ・キュアロンがハリー・ポッターを撮った時の話をします。

アルフォンソ・キュアロンがハリー・ポッターが空を飛んでいる場面を空から撮影している時に、ハリー達が共同生活しているお城に、撮影クルーのヘリコプターの影が写りこんでいました。

それを観たキュアロン監督は「あの影を撮ろう」と言ったそうです。撮影クルーは必死に止めました。「ハリー・ポッターというフィクションに撮影クルーの影が写ってしまったら、この映画の世界観を台無しにしてしまいます」

結局、ヘリコプターの影は撮影しませんでしたが、キュアロン監督は「あの影が写っていなかったら、空を飛ぶハリー・ポッターを誰がどうやって撮影しているというんだ?」みたいなことを言ったそうです。

実際はヘリコプターが撮影しているけど、フィクションであるその映画の中ではヘリコプターなんて存在しないし、存在してはいけない。アダルトビデオもそれと一緒だと、AV企業の社長の高橋一生は語ります。

AVは実際にヤッているし、誰しもヤッているって知っているけど、モザイクでヤッていることを隠すことで、ヤッていないという体裁を取ることができる。性行為を撮影することは法律で禁止されているけど、体裁が整っているから逮捕されない。

全ては体裁だ。

だから、俺達はヘリコプターの影なんだ。実際はヤッているけど、体裁上ヤッていない。実際はハリー・ポッターをヘリコプターで撮っているけど、体裁上撮っていない。だから、俺達はヘリコプターの影なんだよ・・・

詳しくは『モザイクジャパン』を観ていただきたいですが、そんなことを語るシーンが本当にあるんです。高橋一生さんが長台詞で語るのですが超おもしろいですよ。

キュアロン監督は、映画やドラマの体裁をぶっ壊す監督なのか?

さて、キュアロン監督作品でこの『ROMA』以外に僕が観たことがあるのは映画『ゼロ・グラビティ』『ハリー・ポッター』、ドラマの『Believe』だけなのですが、いずれもとてもおもしろい作品でした。特段「体裁をぶっ壊す」みたなことは感じませんでしたが。

しかし、『ゼロ・グラビティ』と『ROMA』については、長いシーンをカットせずに撮影する、所謂、長回しのシーンがとても印象的でした。美しく、リアリティがあり、緊張感もあります。

映画『ROMA』は重い話。

1970年代のメキシコは社会的にすごく混乱していて、この混乱の中を、健気に強く生きていく主人公クレオに、僕は強烈なボディブローと勇気をもらいました。

過激なデモ。最悪な治安。デモ隊と警察が衝突し血を流し倒れている人。それでも主人公のクレオやその友人の若者たちは、自分の幸せを追い求め、楽しく生きようとします。

この映画の芯は、クレオの力強さです。それがこの映画の最大の魅力だと思います。そして、その力強さは、冒頭の長回しの映像と結びついて、僕に爽やかさを感じさせてくれました。

覚悟して観た方がいいけど、観て損はない、素晴らしい映画です。是非。

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