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地域ミュージアム・トークセッション[4]

「コロナ禍の中の地域ミュージアム:北斎・熊野筆・世界遺産-ローカル・ミュージアムの現場から-」

はじめに

「地域文化は知恵の源-Fountains of Wisdom-」
北斎・熊野筆・世界遺産のまちのミュージアム経営者が語る、今とこれからのトークセッション。
今回は、アフター・コロナのミュージアム運営に向けてのお話です。

ゲスト
市村 次夫 氏(一般財団法人北斎館 理事長)
石井 節夫 氏(一般財団法人筆の里振興事業団 理事長)
仲野 義文 氏(NPO法人石見銀山資料館 理事長)
ナビゲーター
藤原 洋 (全国地域ミュージアム活性化協議会 事務局長理事)

アフター・コロナ禍のミュージアム運営

藤原: 後半にいきたいと思います。まず、コロナが収束したという時に、どのような展開をしていくのか。コロナ前とコロナ後にどういう運営をしていくのかを、お話しいただきたいと思います。石井さんからお願いします。

近隣ミュージアムとの共同企画

石井: ミュージアムを取り巻く環境について、近年よく言われるのが、観光資源や地域づくりの拠点としての活用を期待されていると思います。コロナ後は、事業費の削減や入館者が減って回復しないというリスクも抱えながら運営することになるんだと思います。おそらく数年後には、今の財政出動の付けで国、県、市町の財政状況から文化施設への風当たりも強くなる。やはりこういったコロナ禍に直面して先行きが不透明な時代だからこそ、逆に、改めて地域ミュージアムの運営について見直す時期だろうと思います。具体的な展開としては、まだ実現していませんが、広島にも、たくさんミュージアムがあるので、地域全体で展覧会を企画することが考えられます。単独で展覧会を企画するのではなく、共通券で複数館周遊できるような。たとえば今、マイクロツーリズムという言葉がありますけども、県内や近隣地域で旅行を奨励しています。青森県では、人間の五感と5つの館をあわせて「5館が五感を刺激する―AOMORI GOKAN」という取り組みも始まるようです。このように収蔵品を相互で活用・利用したり、共通広告をしたり。バス利用者も減っているので、アートバスのような、バス会社と一緒に連携してできることを考えていく。展覧会の費用は美術梱包や広報、会場設営が本当に大きな比重を占めるので、その軽減になるのではないかということも考えています。

住民へのアプローチ

二つ目は、うちの場合は、地域にどう貢献していくのかというのが大きなテーマなので、地域住民と直接触れ合える場づくりに取組んでいますが、コロナを機に改めて必要性を感じました。
具体的には3つありまして、一つは、平成9年から「ありがとう」をテーマにした絵手紙の全国公募をしており、22回目を迎えます。全国47都道府県だけでなく、世界の国から「ありがとう」という言葉がこの町に届いていますので、そのコンテンツを活用して、町内30~40か所の施設で、「ありがとう」という手書きの言葉を大事にしようという試みをしています。LINEやメールも嬉しいですが、やはり手書きの良さ、気持ちが伝わる「ありがとう」が、世界の国から集まる町と宣言している、企画があります。
また、近隣の幼稚園、町内の小中学校、高校生に向けた鑑賞教育に注力しています。日本の美術教育は、書いたり描いたりすることが多く、作品を見て楽しむということは、なかなか教えてくれないわけです。ですから、そういったところにも、こちらから積極的にアプローチして、「こう見ると楽しいよ」「こういう見方をするんだよ」ということを近隣の幼稚園や小中、高校生を対象に行っていこうと思っています。
加えて、町内の公共施設や商業施設に出向いていって、実際に一筆書いていただくこともやっています。実際に場を設けて、地域の方々に愛着を持っていただく。筆についてしっかりと理解を深めていただくために、そういった活動も行っています。

バーチャル展示、オンライン社会科見学

そして3つ目は、インターネットやリモートの活用です。コロナの前から、(ホームページをご覧いただくとありますが)バーチャル展示というのをやっています。これまで無料のスペースに限定していましたが、コロナの中では、有料のスペースの公開に取組みました。実際に何人が見たかというと、あまり実効性はなかったです。それから、社会見学や修学旅行がコロナ禍の影響で来れない。明日、近隣の中学校の社会見学を受けるようですけども、ZOOMを活用します。これをどう評価していくか。入館者数に加えることができませんが、今後も取組んでいきたいと思っています。

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藤原: コロナが収まるということを見据えていろんな試みを考えて、その時には全部が復興できるように考えておられるとお聞きしました。仲野さん、お願いします。

マイクロツーリズムへ

仲野: ネットとかリモートの活用というのは、今回、失敗してもいいから、どんどんやっていこうということでやってきました。コロナが回復しても重要になってくると思いますので、今後も引き続きやっていこうと思っています。先ほど石井さんがおっしゃったように、マイクロツーリズムですよね。今まで、遠方の人たちにどうやって来てもらおうかと考えて取組んできましてけども、実は、島根県松江市の方も石見銀山に行ったことがないという方も結構いらっしゃるわけですよね。やはり、そういう人たちにどうやって銀山に来てもらって楽しんでもらうかという視点を見直していく必要があると思いました。そしてもう一つは、地域全体で危機感を共有できているのが大きいのかと思います。今までは、一つの施設で何とかしようと頑張っていましたけども、こういう時には一つの施設で何とかなることではなくて、いろんな博物館、地域の飲食店、そういったところと組んでやっていかないといけないと思います。商品開発もそうですし、旅行もそうですし。少しずつそういう雰囲気になっています。大森でも、地元の企業さんと資料館とでコラボでやったり、いろんな飲食店の人と他の施設とが一緒になって、ウォーキングミュージアムという町並みのいろんな施設で展示して、歩いて見ていただくこともやってみたんです。そういったことが、これから、どんどん進んでいくんじゃないかと思います。コロナ後には、面的な動きができそうかなと期待しています。

デザイン展(資料館会場)

藤原: すでにいろいろなことを考えておられて、有効性を見出しておられると思います。市村さん、同じ質問でお願いします。

ローカル×ローカルの情報が生む立体的研究

市村: コロナということに限らず、世の中の必然性かと思いますが、北斎についても、絵画だけではなく、もっといろんなところに広げて、研究というよりは情報交換していった方が面白いと思うんです。先ほど、石井さんに熊野町の歴史のお話を聞いて連想したんですけども、じゃあ、小布施の北斎の天井絵は、どの筆を使ったんだろう、どこの産地の筆を使ったんだろう、あるいは、江戸時代の筆の産地はどうだったんだろう、北斎だから、手作りの筆も使ったかな、とか。つまり、筆の研究一つとっただけでも、東京と小布施だけじゃだめで、いろんな地域の研究者といろんな情報交換していったら面白いし、そういう意味では道具だけではなく、北斎は小布施に居たときに一体何を食べてたのか、当時の小布施はどうだったのか、そういうものに非常に興味がありますし、着物もどんなものを着ていたんだろうと。特に、冬に来た時には防寒はどう考えていたんだろうとか。従来は研究者があまり拾えなかった部分を、ミュージアムこそ、立体的に研究を広げることによって、それをまとめた形で北斎あるいは小布施に興味をもってくれる方に提供していく。このスタンスがますます必要になるんではないかなという印象を持っています。そして、今まで、そういうことをあまりやってこなかったなという印象を持っています。

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藤原: 今、おっしゃったように、作品だけじゃなくて、生活文化の中で使っていたもの、道具なども。

市村: そうです。だから、仲野さんところの古地図だって、いったい、その地図はどこの国で、何年に、何を知る目的でつくったんだということを掘り下げて複製品を渡すのと、ただ、インテリアとして格好いいよ、昔の複製品があるよ、というのでは、全然、買った方の楽しみや重みが違ってくると思うんです。地方ミュージアムは特に、周辺研究が大事だという感じはしています。

藤原: ミュージアムを回ってみると、調査したり研究したりした結果をリモートで伝えると非常に深いところまで、皆さんが知ることができるようになって、そのことが価値を持ってくるようになると思います。

市村: そうですね。もう一つは、研究が学者だけのものではなく、興味のある人全員のものになっていくと、広がりが出てくると思うんですね。


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