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「いつか見た青空」 第2話



第2話:

A美術大学

○A美術大学・全景(4月、朝)
○同大学・校庭(朝)
 桜の枝に花芽
 高校の制服を着た湊ハルが、校庭を走っている

○同大学・塔と呼ばれる実習ビル・玄関(外)
 ハルが玄関に入っていく

○同大学・塔・屋上(4階建ビル)
 ハル、ひとりで屋上に上がり、スクールバッグからカメラを取り出す
 眼下の`古い倉庫が新しい建物にリフォームされている風景`を一枚の写真に収める

○同大学・塔・1階事務室
 事務職員の吉岡智子(24)と、高森呈は応接用の席に向かいあって座り
 呈が書類にサインをするなど、事務手続きをする

智子「これで 間違いなく 先生は研究室の一員となりました」

呈「その`先生`ですが、そんな大したものじゃないんです
 実験助手って学生さんが使うコンピューターの管理とかそういうのですよね 高森と呼んでください」

 智子は微笑み、ティーポットから二人分のカップに茶を注ぎながら答えた

智子「このかたは教授 こちらは准教授 こちらのかたは助手といちいち覚えるのもたいへんなの。わたしたちはみなさんを先生、先生と呼んでいた方が楽なの」

 智子が笑うと、呈もつられて笑った。智子は紅茶を口にした

 そこに、小潟真心(まこと) 准教授が登場。智子の後ろからフレームイン

小潟「私は 講師で と推したんだけどね」

呈「それは 光栄なことです
  でも 僕の場合 いろいろありましたから」

× × ×
(回想)
○ニューヨーク 映像スタジオ コマーシャル撮影風景
 スタッフの指揮をとる呈
○同 呈のオフィス 何十人ものスタッフ
 資料を持った人物に囲まれている呈
○同 市内 ビル街
 テロ事件で混乱する市民(回想終わり)
× × ×

 智子 黙して、ティーカップを皿に置く
 呈の悲しみを哀れむ表情

呈「また美術の仕事にかかわれることが うれしいです」

 小潟は席から身を乗り出し 呈を遮るように話す

小潟「そうそう 高森先生 さっそくだけど 今日は私 営業活動で外出するから 学生たちを見てあげてね」

呈「え! なんですか 初日なんだから准教授に出てもらわないと!」

小潟「大丈夫ですよ しっかりと課題は用意しておきましたから」

 小潟 呈にファイルを手渡す
 ファイルの一番上には、小潟の写真と「おがたん」とキャプションが掲載されており、さらに小潟の経歴が掲載されている
 呈は困惑する

 小潟、洒落たスリーピーススーツのジャケットを手にする

小潟「今日は なごやかに自己紹介でもしててください」

 小潟、ジャケットに袖を通しながら、その場を去る

○同大学・塔・螺旋階段→実習室
 ハル、屋上から階下へ降りて、実習室に入る
 無人の実習室。一部の機械が点灯している
 レトロな建築とは対照的に、最先端のコンピュータや機材が設置されている
 書棚には専門的な書籍が、整理されて並んでいる
 ハル、昨日 呈たちが操作していた機材の前に立ち、そっと機材に触れる
 そして、なにも投影されていない大型スクリーンを見上げる

A美術大学・塔・実習室

○同大学(授業開始時間)
○同大学・塔・実習室
 手前に立つ呈を見つめる、6人の学生たち
 呈は学生たちを見渡すと簡潔に自己紹介をする

呈「高森呈です。アメリカの芸術大学の大学院にいました
  みなさんと一緒に私も学びたいと思います どうぞよろしく」

 学生たちは呈を拍手で迎える

呈「小潟准教授は、本日は急用で外出しています。今日は私が指導します」

 一部の学生たちから残念そうな表情がみられる

南波「じゃあ順番に自己紹介をしましょうか」

呈「待って」

 振り返る南波

呈「アーティストなら まず自分の作品で自分を伝えるべきなんじゃないかな」

 学生たちは困惑した表情を浮かべている
 呈、小潟から受け取った課題のファイルをゴミ箱に放り込む

呈「これから今日の課題の内容を伝えます」

 呈の指示で、実習室のデスクは円を描くように並べられ、6人の学生ひとり一人にコンピューターが用意された。
その前に座る学生たち
 呈、黒板に、課題の趣旨「光と影」と書く

呈「じゃあ今から25分間 自分の解釈でこの課題を表現して」

 学生たちは一斉に背筋を伸ばし、真剣な表情で課題に取り組む

呈「よし 25分のワークタイムが終わった  5分間の休憩時間だ」

 実習室には安堵の息が漏れ、束の間の静穏が広がる
 呈、厳しい表情を崩さず、学生たちに視線を向ける

呈「休憩が終わったら、みんな隣の席に移ってください。
  その席のコンピューターには前の人の課題が残っているはずです
  それを引き継ぎ、続きをやってみてください」

 学生たちの間には、不安そうな視線が交差するが、それでも隣の席に移動した

呈「この課題は 席が6回変わって
  自分が最初に触れたコンピューターに戻ったとき
  それを完成させて終わりとします」

 学生達に不満の表情が浮かぶ

大友「この課題は難しすぎる!」
南波「自分の作品は、自分で仕上げたい!」

 学生たちは立ち上がる
 呈、学生達を見渡し、穏やかに告げる

呈「難しいかも知れないが これが現場レベルの現実だ
  チームで仕事をするというのは、こんな風に他人の仕事を引き継ぎ
  自分の手で完成させることも含まれるんだ
  一人ひとりが課題を全うするためには
  前任者の考えを理解し 自分の意見を加え
  次の人へとスムーズにつなげていかなければならない
  それが今回の課題の目的だ」

 円卓の周りに立っていた学生たちは、座り直すと、再び真剣な表情を浮かべ、自分の前にある新たな課題に取り組んだ。
 呈はそれを優しげな眼差しで見つめる。

○同大学・塔・螺旋階段(夕方)
 智子が事務室のドアをあけて出てくると、呈が上の階から降りてくる

智子「おつかれさまでした どうでした? 我が研究室は」
呈「みんなすごい素質だと思います 正直驚いた」

 微笑む智子

呈「でも、人に何かを教えるのって 難しいですね」

智子「どの先生も みなさんそうおっしゃいますよ」

呈「小潟先生も?」

智子「あのひとは別」

A美術大学・食堂/校庭


○同大学・庭・全景
 樹木から春の到来を感じさせる情景

○同大学・食堂・全景
○同大学・食堂・テーブル席
 学生6人は軽食を手に意見を交換していた
 初日は高校の制服姿だったハル、ここでは他の学生同様、私服姿

島「一所懸命教えてくれるのはわかるが ついていけない レベルが高すぎる」

大友「最強レベルですよね」

南波「もっと身近なアプリの使い方を学びたいな」

× × ×
(クロスカッティング)
○同大学と附属高校をつなげる渡り廊下
 美術高校生の小太郎(こたろう)(18)は、周囲を伺うと、制服の上着を脱ぎ、まるめて抱えると大学構内に侵入する
× × ×

○同大学・食堂・テーブル席
 テーブルには冷めた飲み物
 学生6人が視線を下に落としている

大友「問題は 誰がネコの首に鈴をつけに行くかだけど……」

 皆が沈黙している
 ハル 決意の表情で立ち上がる

ハル「わたしが行きます」

一同「えっ!」

○同大学・庭
 歩くハル
○同大学・庭・ベンチ
 着座している呈 ストロー付きの紙パックの飲み物を手にしている
 ハルが近づいてくる

ハル「先生 少しお話してもよろしいでしょうか」

呈「どうぞ」

 呈は腰を浮かし、ベンチの端に移動する
 ハルはベンチの中央に自分の荷物を置くと、荷物を間にして反対側に座った

ハル「私たちはあなたの実力を尊敬していますが 内容が少し難しいようです」

 呈は耳を傾ける

ハル「あなたは知識が豊富で それを私たちに教える熱意があることは間違いありません
   でも、あなたのレベルについていくのは難しいんです
   もう少し私たちのペースに合わせていただけないでしょうか?」

 呈、少し考え込む

 呈は、手の中の`うぉーいお茶`のパッケージを見つめ「そもそもクリエイティブは楽しいものだよな」と呟く

呈はハルの方を向き「わかった 教え方を変えてみる 約束する」と興奮気味に話す

 安堵の表情のハル

○同大学・庭・植木
 樹木の影からひっそりとふたりを見ている小太郎は胸がキュンとする

小太郎「だれだ? あの キレイなオジさん」

○同大学・庭・ベンチ
 呈の視線:ハルが持っている透明ケースに入った写真の束

呈「それ湊さんのポートフォリオ?」

ハル「あ、はい 良かったら見てください」

 ケースを開けると輪ゴムでまとめた数十枚の白黒写真があった
 呈、目を輝かせて写真を見る

○同大学・庭・ベンチ 全景
 静かにハルに近づいていく小太郎

 ハルの背中から声をかける小太郎「ハルちゃん あのひとは誰?」

 ふりかえるハル「小太郎?」

 写真に夢中の呈は、小太郎の登場に気が付かないまま
 地面にひざまづき、ベンチや敷石に写真を並べて鑑賞している

ハル「私たちの先生」

小太郎「どこかで見た気がする」

 急に強い風が吹き、ハルのセミロングの髪がなびく
 風は写真を巻き上げて、数枚が吹き飛ばされる

○同大学・庭・芝生広場・全景
 勢いよく飛んでいく数枚の写真
 慌てて追いかけていく呈

○同大学・庭・芝生広場
 小太郎も加わり、写真を拾い集める3人
 途中、目を合わせる呈と小太郎
 小さな写真が、広場を飛んでいく

A美術大学・塔・実習室(夕方)


○同大学・塔・実習室(夕方)
 学生たちと呈、なごやかな雰囲気
 そこへ、小潟准教授が戻る

白鳥「おかえりなさい 小潟先生」

小潟ゴキゲンで話す「みんな! 大仕事だ!」と興奮している

 小潟に注目する学生たち

小潟「羽後電工から、企業CMの映像制作を依頼された。15秒だ」

 盛り上がる学生たち
 冷静に考える呈

呈「うーん それは大変な仕事だ 我々のスキルと経験を考えると 現段階では少し厳しいかもしれません」

 ハルは呈の分析を聞いて、胸をなでおろした
 小潟はにっこり笑う

小潟「だからこそ 高森先生 あなたが指導するんだ」

 呈と学生たちに緊張が走る

(第2話 了)


↓次回、第3話


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