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【パーソナリティ】正直さー謙虚さ、協調性、情動性を掘り下げる(Ashton & Lee., 2014)

パーソナリティ×リーダーシップの文献を色々と見ていましたが、もう少し「パーソナリティ」をしっかり理解したいと調べていたところ、行きあたった文献です。HEXACOの生みの親である著者らの論文です。

Ashton, M. C., Lee, K., & De Vries, R. E. (2014). The HEXACO honesty-humility, agreeableness, and emotionality factors: A review of research and theory. Personality and Social Psychology Review, 18(2), 139-152.


どんな論文?

この研究は、パーソナリティ、特に正直さー謙虚さ(Honesty-humility)、協調性(Agreeableness)、情動性(Emotionality)というHEXACOの3つの次元に関する理論と研究のレビューです。

HEXACOモデルは先に挙げた3つの特性に加え、外向性(Extraversion)、誠実性(Concientiousness)、開放性(Openness to experience)の6次元で構成されるパーソナリティ特性です。この6つの特性の組み合わせによって、人のパーソナリティが説明できる、とされています。
詳しくは、過去の投稿も参考にしてみてください。

HEXACO以前、というより現在でも、パーソナリティ調査の主流は、ビッグファイブモデル(Five Factor Model: FFM)と呼ばれる、5次元の要素です。2020年代に入っても、どちらがより適切にパーソナリティを測定できるか、という議論が続いており、決着はついていない状況です。(2024年7月26日現在)

著者らによれば、HEXACOはFFMよりも、広範なパーソナリティ特性を捉えることができ、特にH(正直さー謙虚さ)、A(同意性)、E(情動性)次元が重要とのこと。簡単に言えば、

  • H次元:正直さや謙虚さ、

  • A次元:他者との協力や寛容さ、

  • E次元:感情的な反応

を指すものです。

この研究では、調査対象者の自己回答データと、本人を観察する人の回答データ、計2134名による調査を通じて、H、A、E次元はFFMの次元と異なること、パーソナリティの構成要素をより詳細に理解するために有用であることが示されています。

H次元:正直さー謙虚さ

HEXACOモデルのH次元は、他者を欺かず、謙虚である傾向を測定します。このH次元こそが、FFMとの大きな違いとされます。
H次元は、以下の4つの特性から構成されています:

  1. 誠実性(Sincerity):他者に対して偽りのない態度を取る傾向。

  2. 公正性(Fairness):不正行為や不正利得を避ける傾向。

  3. 貪欲回避(Greed Avoidance):贅沢や高い社会的地位への欲望が少ない傾向。

  4. 謙虚さ(Modesty):自分を特別扱いしない、謙虚な態度。

Ashton&Lee(2008)は、低いH次元が他者を利用する行動と強く関連していることを示しています。例えば、Hilbig & Zettler(2013)は、低Hスコアの参加者が金銭的報酬のために不正行為を行う傾向が強いことを明らかにしています。

H次元は、自己回答だと測定が難しそうですが、今回のように他者回答も合わせてバイアスを排除しても、他の因子との違いが見られ、1つの特性として独立していることが示されています。


A次元:協調性、他者との協力や寛容さ

HEXACOモデルの協調性(A)次元は、他者と調和し、争いを避ける傾向を測定します。この次元は、怒りの制御や柔軟性、寛容さに関連しています。具体的には、以下の4つの特性から構成されています:

  1. 寛容性(Forgivingness):他者を許し、信頼を再構築する傾向。

  2. 柔和性(Gentleness):他者に対して穏やかで寛容な態度を取る傾向。

  3. 柔軟性(Flexibility):他者と協力し、意見の違いを受け入れる傾向。

  4. 忍耐力(Patience):怒りを抑え、冷静さを保つ傾向。

Ashton&Lee(2007)は、A次元が他者との対立を避けるための反応的協力性を表していると述べています。例えば、Hilbig, Zettler, Leist, & Heydasch(2013)は、A次元が他者の不公平な行動を許容する傾向(反応的協力性)と関連していることを示しています。

また、A次元が低い場合、「境界性人格障害」の特徴と強く関連していることも示されています(Hepp et al., 2014)。境界性人格障害は、他者の行動に対して強い怒りや許すまじ!といった強い反応を示す傾向を示します。


E次元:感情的な反応

HEXACOモデルの感情性(E)次元は、(どちらかというとネガティブな)感情的な反応や他者との絆を測定します。具体的には、以下の4つの特性から構成されています:

  1. 恐怖感(Fearfulness):身体的な危険に対する恐怖の度合い。

  2. 不安感(Anxiety):さまざまな状況における心配やストレスの度合い。

  3. 依存性(Dependence):他者からの感情的支援を求める度合い。

  4. 感傷性(Sentimentality):他者との強い感情的な絆や共感の度合い。

Ashton&Lee(2007)は、E次元が家族や親しい人々との関係性において重要な役割を果たすと述べています。この次元は、FFMの神経症傾向(Neuroticism)と似た性質を持つものの、怒りの側面を含まず、代わりに感傷性や共感性を含む点が異なっています。

研究例として、Ashton, Lee, Visser, & Pozzebon(2008)は、恐怖症的傾向がHEXACOモデルのE次元と強く関連していることを示しました。また、Gaughan et al.(2012)は、心理的な病(他者への異常な冷淡さ等)とE次元の関連性を調査し、E次元が心理的な病の予測において重要であることを示しています。


感じたこと

パーソナリティに関する理解が深まりました。特に、「情動性」という言葉は、感情豊か、といったポジティブな意味合いも想起させますが、恐怖や不安など、ネガティブな意味合いの言葉であるという点は、しっかり理解しておかないと勘違いしてしまいそうです。


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